”転”の譚【戦争編】

~ 戦争編 プロローグ ~

PAGE.326「戦争再び」


 ファルザローブ倒壊より、数年後。


「クソッ! 援軍は来ないのか!?」

「駄目だっ! カバーが間に合わん!」

「何としてでも避難民は守り切れ!!」


 魔法世界クロヌスの一国。王都より離れた大きめの商業街。

 

「どうなってる!? 腕利きの騎士もギルドも何があった!?」

「見誤っていたというのか!? たかが魔物にこれだけのことが!?」


 取られていく。囚われていく。染まっていく。



“一国が魔物の手によって暗黒に染められていく。”



「来るぞ! このままでは……ッ!!」

「認めるしかないってのかよ! 俺達の、人間の敗北を!?」

「ふざけろおおっ!!」


 しかし、奴らは街を壊さない。その形はそのまま。

 芸術として、“一国”としてその街は残しておく。


 滅ぼすのは“歯向かう民のみ”だ。


 豪快であれ器用。魔族の大群は徐々に街全てを占拠していく。

 

「これが……上位魔族っ!?」


 騎士達の視線の先……。


 大群の真ん中、その列の先頭を歩く四人の魔族。

 全員人型ではあるものの、それぞれが魔物らしい一面をのぞかせる。


「う~ん、確かに腕利きの男達が多いけど、ちょっと腰抜かしたかしら~ん? 手ごたえなさすぎて、肩凝りも何も抜けないわねぇん?」

 一人はかなり低いトーン。ダンディな声を上げながらも、クネクネとした女性口調の大柄な男。色黒の肌に鍛え上げられた筋肉。二メートル半の身長を持つ男が騎士の手ごたえのなさを酷く評価する。


「脆弱すぎて話にならん」

 一人は女性。頭には折れ曲がった角が二本生えている。

 大柄な男と比べて体つきは非常に華奢で女性らしいか細さ。無駄な肉は一つとしてついていない体つきは恐怖の意味で魅了する。


「楽勝だな、兄貴ィ!」

「ああっ、これでまた俺達の名前も売れるってもんだ!」

 残り二人に関しては人間らしく二足歩行であるがほとんど魔物である。

 何せ顔はトカゲ、体も鱗まみれ、両手両足トカゲの足で尻尾まで生えていると百パーセントトカゲなのである。つまりはリザードマンだ。


 ちょっと身長高めのリザードマンは愉快気。弟分の雰囲気を出している小さなリザードマンは兄貴分の活躍に両手を振りながら喜んでいる。



 圧倒的。その波は街の占拠手前にまで攻め寄っていた。


「……あら、まだ残ってるわねん」

 大男は最後に残った二人の騎士へと視線を向ける。

「逃げなくていいのかしらん? 二人だけじゃ勝ち目ないわよん?」

「それでも挑むのなら、私は一向に構わないが」

 街を引き渡して逃げるのであれば、これ以上の戦闘はしない。というよりも、想像以上の弱さであったために興味が失せたため戦う気も更々ない。


 逃げてくれるのなら何もしない。最終警告を騎士達に告げる。


「逃げるわけにはいかんのだ!」

「私達の背中にいる人達だけには手出しはさせない!」


 最後に残った騎士は、おそらくこの国の中でも一番の腕利きの騎士であり、騎士団長としての立場を保有する者達なのだろう。


 騎士の誇りとプライドにかけて逃げる真似だけは絶対にしない。勝てないと分かっていても、これ以上の被害を避けるために最後まで囮を買って出る。


 見上げた根性である。

 人間というのは何処までも。


「……根性は百点満点ね! 気に入ったわ!」

 失せていた闘気が戻ってくる。大男はその場で筋肉を更に膨張させる。

「いいわ! 情熱が燃え滾る!」

「……旨は良しとする。こい、“人間”」

 二人の魔族の戦士が騎士達へ迫りくる。


「「うおおおおーーーっ!!」」


 騎士達の覚悟は既に出来ている。

 最後の覚悟。人生最後の戦いへ、その身を正義のために振りかざした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 王都、魔王復活の儀の失敗から一年近くが経過。

 近いうちに魔族による進撃が始まる。クロヌス全域に、その警告を数カ月にかけて伝えられる。


 しばらくは平和な日々が続いていた。戦いが始まる前、その静けさに怯えながら、それぞれの国家は最善の準備を進めていた。




 ___そして、ついに魔族の一軍による進撃が始まった。


 

 最善の準備は進めてきた。その時のために最大の戦力を揃えてきたつもりだった。





 ……しかし、その戦力は想像を遥かに超えていた。


 魔族界戦争の書記に記されていた数多くの伝説。今となってはあり得ない武勇伝を残す騎士と魔族の戦い。それは本物であったことを分からされる。


 桁違い。次元違い。同じ舞台に立つことすらままならない。


 目の前で再現される災厄を前に、人間は絶望せざるをえない。

 


 ___たった一つの魔族の軍に。

 ___クロヌスの4割近くが占拠されてしまっている。



「……これで最後かしらねん」

 倒れる騎士達。倒れる希望。

「姿形は似ていても……やはり、貴様たちは脆すぎる」

 街は魔族の手に落ち、資材と資産、食糧に人材。

 数多くの宝が一軍の手によって染まっていく。




 碑文に記されていた予言の日。

 その前兆。予定よりも早めの魔族の進軍は……始まった。

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