PAGE.327「豪火の臣下(前編)」
コーテナの暴走から数年。“それ”は突然現れた。
空間を破り、物理法則・重力法則のクソもない“未知なる大国”の出現。
魔法世界クロヌス。その一隅の上空にて浮遊する城がある。
溶岩のように熱く黒く、それはまるで火山のような風景。島そのものが空を飛んでいるように見える。
燃え滾る熱と火炎を帯びた、空飛ぶ城が……“占拠された国々”の上空を彷徨っている。
囚われた人々。人材として捕虜となってしまった人々は今も尚、占拠された街に残っている。
奴隷、民。魔族の大国の使用人として___
真紅に染まる空を見上げる捕虜達は……この国全てを覆い隠す大王の城の影の下で、希望一つ見いだせはしない絶望を浮かべるしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこは大王の城。この城の中には数十万の兵士と民が住んでいる。
住んでいる民は全てが魔族、もしくは捕虜となった人間がほとんど。最早、城というよりは空飛ぶ都と口にする方が正しい表現であろうか。
炎の都。喉も一瞬で枯れ果てる国のど真ん中に存在する巨大な五重塔。
その頂上に存在するのは……大王の玉座の間。
「それじゃあ、今回も勝利を祝して乾杯よーん!」
「「乾杯ッ!!」」
今日も一国を占拠。完全勝利を収めた魔族達は占領した一国から押収した大量のワインで乾杯をする。一同は瓶一本分の量のワインが入った巨大な杯に口をつけ、あっという間に飲み干してしまう。
玉座の間に用意された巨大なテーブル。
それを取り囲む四人の魔族は愉快気に祝勝会を楽しんでいた。
「……」
他の三人とは違い、小さなワイングラスに注がれたお酒を眺めながら呆れかえる魔族が一人。
「あら~、ノリ気じゃないわねん。エキスナちゃん」
ノリ気じゃない魔族の女性の名はエキスナ。大柄のオネエ魔族はノリの悪い彼女にそう告げる。
「そうっすよ~、アルヴァロス姉貴の言う通りっ! ねぇ、兄貴!」
「全くな、弟よ! エキスナ、勝利が嬉しくないのか?」
大柄のオネエ魔族の名前はアルヴァロスというそうだ。トカゲ兄弟は姉貴と口にしているが……正真正銘、アルヴァロスは男である。
「ほら、ガンダラとブレロもこう言ってるじゃない」
トカゲ兄弟。兄の名前がガンダラ、弟の名前はブレロ。
とても仲睦まじい兄弟であることは伺える。弟の方は常に兄を敬っているようだ。
「私も満足はしてないけど……国の為に、大王の為に勝利を収めたのよ。ね?」
一人だけテンションの低いエキスナは祝勝会にはしゃぐこともしなければ、人民から勝ち取った高級なワインにすら口をつけようとしない。
「そこまで、人間のか弱さに失望した?」
「……それもある」
エキスナは正直に吐露する。
腕利きの戦士揃いであることには間違いはなかった。だが、手間がかかることは一切なかったし、最後に残った騎士団長をもってしても一分すらもたたずに制裁した。
「気が乗らないのは、この場の空気だ」
テーブルの前に広がる風景。
……巨大なピザ。
それはまさしく人間の文明。大量のチーズがマグマのように泡を作り、そのチーズの海の中でベーコンに野菜に揚げたてのフライドチキンなどが気持ちよさそうに泳いでいる。
嗅いでいるだけでも食欲をそそってしまう。
「あら、エキスナちゃん、もしかしてピザが苦手?」
「こんなに美味しいのに! ねぇ、兄貴!?」
ブレロはピザの一切れを手に取ると、美味しそうに口の中に放り込む。
「全くだ! こんなに美味い料理は久々だ! 人間も良いモノを作る! こういう点は評価に値する!」
ガンダラも人間の文化であるピザに舌鼓を打っている。二人とも、ピザを口にするたびにチーズのように蕩けた表情を浮かべている。
「……我々の食事は人間とは異なる。人間の食事は必要のないはずだ。なのに、何故勝利の度にこのような行事を立て、わざわざ人間の行事に手を染める?」
エキスナは人間の事を気に入っていないようだった。
弱者。彼女の中では人間の存在とはその程度のものである。
「あら~、別にいいじゃない? 減るモノじゃないし~? 私も気に入ってるのよ~、燃え上がるような熱を帯びて出来上がるこの料理……人間も隅に置けないじゃな~い?」
アルヴァロスもピザを片手にワインが進んでいる。
舌が火傷してしまいそうな温度。しかし、その心地がたまらないものだとアルヴァロスはトカゲ兄弟同様に表情を蕩けさせていた。
「……理解できない。私は席を外して」
「まあ、待て。エキスナ」
玉座の間に一人の”魔族”が足を踏み入れる。
___一同の空気が鎮まる。
「……大王様」
エキスナはその”魔族”を前に姿勢を低くする。
彼女だけじゃない。アルヴァロス、ガンダラ、ブレロ。幹部と思われる魔族全員がその場で腰を下ろす。
“魔族・アーケイド”。
魔王復活を望む最強の八体、地獄の門が一人。
四人の幹部を従える男の名。
炎の門。その名は“大王アーケイド”である。
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