PAGE.296「また会える日まで(前編)」
数時間前。
何の突拍子もなく告げられた、コーテナの王都追放。
混乱する二人を見計らい、エーデルワイスが慌てて、その刑に関しての詳細を報告した。
「まず、グレンと呼ばれる国の事ですが……ここから数キロ離れた海洋。さらにその海を越えた先にある島国です」
話を聞く限りでは島流しのようにも聞こえる。
極刑を逃れたと思ったら、今度は何処かも分からない島国で身を隠せというのだろうか。
「……そこには、貴方と同じで“魔族の力”に振り回される半魔族の人達が数名いらっしゃいます。彼らは今、その力を制御する為にそこで日々修行を積み重ねているのです」
半魔族の中にはコーテナやアタリス同様に魔族寄りの人間が大量に存在する。
体が成熟する度に魔族の力は肥大化し、何れは飲み込まれ暴走する者も少なくない。半魔族が恐れられる理由としては、その暴走も含まれているのが現状だ。
「グレンには“ロザン”と呼ばれる方がいらっしゃいます。そのお方は精神と肉体、人間の身でありながら極致に至った戦士……そのお方の元ならば、貴方の力も他の半魔族同様に、力の制御を行う事が可能かもしれないのです」
力を制御できるようにこの国を去る。
世界にとって脅威ではないことを証明してみせろとはその事であった。
「それまでは王都への立ち入りを禁止するモノと致しますが……ご了承願えますか?」
エーデルワイスからの言葉。
どのみち、ノーと言える空気ではない。
コーテナは彼等から見れば、不発の爆弾である。
この王都に残っていれば、いつその爆弾が再びあのような悲劇を起こすかも分からない。
「分かりました!」
むしろ、このようなチャンスを無理やりにでも与えてくれた騎士に感謝するべきである。コーテナはその想いに応えるために頭を下げてお礼を言った。
「じゃあ、俺も出発の準備を、」
「その話ですが……」
エーデルワイスは引き続き、話を進める。
「ラチェットさん。貴方には王都に残っていただきます」
「はぁッ!?」
コーテナへの同行は許されない。ラチェット思わず言葉を上げる。
「彼女の中には魔王の魔力らしきものが眠っている。それと同様に……ラチェットさん、貴方の体の中にも“魔力”が眠っています」
この世界の人間以外には存在しないはずの魔力。
「おそらく、その魔力は……“精霊皇”のものと思われます」
消えたはずの残りカス。
それがまだ……彼の中に残っているというのだ。
「もしも、貴方の中に眠る魔力が精霊皇のものであるとすれば……かつてのような事が起きないとは限りません」
精霊皇の力を身に宿す少年。
魔王の力を身に宿す少女。
その二つの力は絶対に相容れないモノ。事と次第によっては、王都によって繰り広げられた災厄レベルの戦いが再び起きる危険性は否めない。
ゼロではないのだ。起きてしまってからは大変なことになる。
「ラチェットさん、貴方もその力を制御できるようにならなくてはいけません」
しばらく会えなくなる。お互いがその力を完全に制御できるようになるその瞬間まで、二人は離れ離れになる。
二人は何処か背中が重くなる。騎士団にも処断を見送ってもらい一安心化と思いきや、突然のこの事態。状況を考えれば仕方がないことだとは言い切れるが、やはり二人の間では煮え切れない何かが芽生えてしまう。
「そう、ガッカリするなって!」
私語が許されていないこの空間。
二人の事を見計らってかホウセンがいつも通りに声をかける。
「ロザンって人、実は俺のお師匠なんだよ……腕は確かだ。お前の頑張り次第では案外早く再会できるかもしれないぜ。だから、ほらっ! 気合入れなよ!」
「ホウセン! 私語を慎め!」
やはり、短気な王様に怒られてしまう。
「へいへい~」
だが、言いたいことは言っておけたことに満足したのかホウセンは縮こまる様子もなく手を振り返していた。
「……よろしいですか、お二人とも」
最後の選択。
その用件を飲むかどうか。
……当然。
二人の返事は出ている。
「「はい!」」
また、いつも通りの生活を送れるその日のために。
二人はそれぞれの内に眠る力と戦う決心をつけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
既に準備を終えたというコーテナは正門の前で一人、見送りの準備を待っているらしい。
あの短気な王様も別れの言葉くらい告げる時間は許してくれたようだ。
「あっ、いた」
ようやく見えてきた王都の正門。
「あっ、おーい!」
数名の騎士に囲まれるコーテナ。
それは、いつもと変わらぬ笑顔で両手を振る姿だった。
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