PAGE.295「陽気な笑みとスカルフェイス」


 突然の再会。数日ぶりの再会。

 この男とは……本当にいつも、突拍子のないタイミングで再会するものである。


 ラチェットは一言告げることもなく、無言でスカルの元へと赴く。


 スカルの両手には角材。何でも屋として王都の復旧活動に駆り出されたのだろう。近くにはオボロの姿もあった。

ラチェットの事に気付いたスカルは角材を下ろすと深呼吸をし、迫ってくるラチェットへと面を向く。


「ラチェット、俺を殴、」

「ふんすッ!」


 出会いがしらに一発。

 全力。全開。手加減なしのストレートをスカルの顔面に綺麗に一発。


「ぐふぉっ……」

 身長差こそあるはずなのにその一撃は非常に重かった。スカルの体はふわりと浮き上がると、近場の大きなゴミバケツの中へと放り込まれてしまう。


「いや、あの……俺を殴れとは言おうとしたけどさ……せめて、最後まで聞かない?」


「うるせぇヨ、黙れヨ、裏切り者。よくもまあ、ノコノコとその面を出せたなオイ? 言っとくがパンチ一発で許すと思うなヨ? お前の体を愛車のバギーに巻き付けて近くの川に突っ込ませるくらいはやらないと気が済まないからナ……?」


「かなり恨んでいらっしゃるッ!?」


 相当根に持っていることにスカルの悲鳴が聞こえてくる。中身が空っぽの金属ゴミバケツということもあり、その悲鳴が反響して外にまで聞こえてくる。

 逃げ出そうと必死にゴミバケツからの脱出を図るがスッポリはまってて中々抜け出せない。啜り笑いをしながら迫ってくるラチェットの姿は軽くホラーである。


「ま、待ちな坊や!」

 オボロも角材をそっと地面に降ろすと、慌ててラチェットを止めに入る。復讐の鬼となって、かつての友人を木っ端みじんにしようとする少年を。


「その……スカルの事、許してやってくれないかい? これでも、スカルはスカルなりに頑張って、」

「その小娘の言う通りだよ、小僧」


 聞き慣れた声が聞こえてくる。

 声質は幼いが上から目線。聞いているだけでもちょっと気持ちが不快になる。でもそれでいて、何故か安心を覚えてしまったこの感覚。


 少年はそっと屋根上を見上げる。


「息災か、小僧?」


 やっぱりそうだ。アタリスだ。

 お前は子猫だと言いたくなるくらい、屋根上から声をかけてくるのが平然となっているような気がしてならない。そんな場所から話しかけてくるせいかスカートの中もくっきりと見えている。


 重傷だったと聞いていたが……大丈夫そうだ。

 さすがは無敵の一族と言ったところか。見ていられないと言いたくなるほどの傷を負っていたとは思えない。


 いつもと変わらない気高き姿で、アタリスも一同と再会した。


「お前、もう大丈夫なのか」

「無論だ」

 サイネリアから心配の声。それにアタリスは何事もなく応える。

 あの騎士からもそのような声がかかるとなれば、彼女が傷を負ったという話は冗談ではなく本当のようである。


「……小僧、此奴はコーテナを見捨ててはいなかったぞ」

 アタリスは語る。


「此奴はお前が部屋で眠り続けている間も、最後まで頭を下げておった。コーテナの処断を見送ってくれと、せめて時間をくれと……あそこまでプライドをかなぐり捨てて頭を下げる男とやら、そうはおらんぞ」


 コーテナの処断の話。それを誰よりも否定したのはスカルだったのだ。

 ラチェットが連行された後、彼には悪気がなかったことを必死に弁論。そして、コーテナの事についてもどうにか出来る方法があるはずだと頭を下げ続けたのだという。土下座で、何度も、何度も。


 誰よりも奔走していたのはスカルだったのだ。他の連中と比べるとスケールは小さいかもしれないが、誰よりも想いの丈を伝え続けていたのだ。


「そうなんだよ! スカルはずっとアンタ達の事を、」

「“知ってル”」

 ラチェットはそっと、スカルの入っているゴミバケツを叩く。


「コイツは“仲間は見捨てない”と言い切ったんダ。実際、コイツは約束を守って、いつも助けてくれた……あの時の事も、俺達を思ってやったことだってのは分かってル」


「え、じゃあ何で今、殴ったの?」


「黙らせるにしてもパンチが強すぎなんだヨ……! 相当痛かったからナ……! 一発は一発、ただそれだけダ!」


 子供らしい理由だった。

 やられっぱなしがどうにも癪だったようである。ちょっとばかし、スカルが報われない理由にオボロもアタリスも何処か苦笑いを浮かべていた。


「……悪かったナ」

 そっと、ゴミバケツから顔を出したスカルに、ラチェットは頭を下げる。


「俺達のために……迷惑をかけタ」

「いや、俺こそ悪かった」

 スカルも頭に引っ付いているゴミを掃った後に頭を下げる。


「お前達を助けようと頑張ったが、どうにもできなかった……あれから、お前達のところへ向かった頃にはすべて終わってた。俺はあまりにも力不足だった……本当にすまん!」

「私からもごめんよ! 助けに行くのが間に合わなくて!」


 スカルに続いてオボロも頭を下げた。


「遅すぎるって言っても受け入れるさ……だけど、私達はっ!」


 短い期間とはいえ、オボロも何でも屋として共に働いた仲間である。仲間のピンチに助けに行けなかった不備をこれでもかと謝ってきた。



「……ふふっ」

 頭を上げたラチェットはふと笑みを浮かべる。


「ははっ」

 スカルも頭を上げると、笑い出したラチェットを前に思わず噴き出した。

「お前、ちょっと見ない間に素直になったな」

「本当だね。大人になったって言うか」

 オボロも頭を上げると笑い出す。

 いつもの何気ないからかいが飛んでくる。大人二人という事もあって、ちょっかいのイラつき具合が二倍マシだ。


「うるせぇヨ」

 照れ隠しにラチェットは空を見上げた。


「……そろそろ時間じゃないか、ガキ」

 サイネリアは頃合いを見て、話しの中に入ってくる。


「コーテナの出発の時間」

「そうだったナ」

 ラチェットもその話を思い出したのか、王都の正門へと向かっていく。


「えっ、ちょっと待て、ラチェット。そういえば、コーテナはどうしたんだ?」

「……詳しく話ス。だから、スカル達にも来てほしいナ」


 復旧活動の間、ラチェット達の自由を耳にするまでの間に何があったのか。

 スカルとオボロは首をかしげながらも、仕事を放り出してラチェット達の後を追った。

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