《◎200話記念SS◎ ~気になるあの人! コーテナ&ルノアの突撃インタビュー④~ 》

 王都魔法学会。

 数ある魔法研究組織の中でも、千年という長い歴史の古くから、魔法の進化やマジックアイテムの開発。今の生活には欠かせないあらゆる品々を発明し続けてきた世界一の研究機関だ。


 彼女たちは今、その現場へと赴いた。


「なるほど、それで私にインタビューをしたいと」


 次のインタビューの相手として狙いを定めたのは、学会の幹部であり、同時に学園の教師に王都のエージェントとしての任も持つ研究家・ステラである。


「構わないわ。私たちが調べてきた千年の歴史、余すことなく」

「ああ、いや! そうじゃなくて!」


 慌ててルノアが止めに入る。

 そうだ、彼女たちがここへ訪れた理由はは自己紹介インタビューであって、遺産や歴史の謎を解明するための現地セミナーなんかではない。このまま話を止めに入らなければ、数時間近く拘束されるところであった。


 かくかくじかじか。

 お決まりの短縮法。ステラに事情を説明する。


「え、私の事? いえ、別に構わないけれど……私の事なんか知っても、何も得るものはないと思うわよ?」


 とはいいつつも、眼鏡の位置を整え、指を鳴らすその仕草は準備OKの合図。ここまで足を運んでくれた彼女達を無下にしないその対応。良い大人である。


『……ステラ・スティールフィラー。この学会の研究員の一人であり、学園の教師とエージェントの肩書も持ち合わせているけど、メインの仕事となるのは学会の一員としての研究よ。今は遺跡について調査しているわ』


 今思えば、ラチェット達がこの人物と出会ったのはそれこそ遺跡である。

 こうして自己紹介でも遺跡の調査の事について細かく話そうとしているあたり、本当に研究熱心な人物であることが伺える。


『えっと、好きな食べ物? そうね、軽い菓子ならなんでも。趣味と特技は、言うまでもないでしょう?』


 遺跡の調査と遺跡の知識。その他諸々研究。言われなくてもわかる。


 

 結構な質問に答えてくれる真面目さ。こうして融通が聞いてくれる当たり、ついさっきは”嫌悪を露わにしていたあの陰気アンクル”が相手だったために気が軽い。緊張のあまり強まっていた胃痛もすっかり引っ込んでくれていた。



「ステラ、帰ってきてると聞いたから、例の報告を」

「むむ?」


 ステラのインタビュー中、これまた見慣れたメンツが二人同時にステラの研究資料室へと入ってくる。


 エージェントの一人シアル、そしてミシェルヴァリーだ。


「そういえば、カトル先生にシアルさん達とは学友だったと聞いたのですが、どんな学園生活を送っていたんですか?


『……ふむ、そうね。カトルは今と変わらずチャラかったし、ミシェルも大人しかったわ。私は勉強詰めだったし……シアルは今と違ってかなりヤンチャしてたわね。 それはもう、手がつけられなくて、』


「何の話をしているんだ、貴様ら!」


 シアルは顔を真っ赤にして、赤裸々告白の妨害へと武力介入した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数分後、暴走したシアルをなだめ、事情を説明する。

 自己紹介インタビュー。ステラはそのインタビューに応答中だったこと、そしてシアル達を見たコーテナが例の一件を思い出し、それといった事も考えずに口走った事。その結果、何も知らずにやってきたシアルが大やけどをする結果となった事。


 今思えば散々なものである。

 何もしていないシアルは昔の意外な一面をカミングアウトされたのだから。だが、正直、とある言葉を口にすると理性を失う程キレる子供らしい一面を見るあたり、そのヤンチャさが多少であれ予感できてしまう。


「全く、くだらない……」

「確かに昔のシアルは凄かった。でも、私はシアルのそういうところが、」

「余計な事を言うな!」


 また話を盛り返そうとしていたミシェルヴァリーの頬をシアルが引っ張る。これ以上、昔の話はしたくないと必死な形相だった。


「ごめんなさい……気を悪くさせちゃって」

「全くだ。次からは気を付けろ」


 コーテナの謝罪に対して、しっかりと彼は釘を刺しておいた。


「……インタビューか」

 シアルはコーテナの片手に握られたマイクに目をつける。

「他人に聞くくらいなら本人に聞け。答えられる範囲でなら答えてやる……ただし、昔の話はしない。何があってもしないから、そこは考慮しろ」

「はいっ!」

 満面な笑み。気を取り直したコーテナはマイクを片手に、エージェント・シアルへとインタビューを開始した。


『シアル・インサイト、王都のエージェントだ。年齢は22』

 ちなみに彼の身長はコーテナ達よりも小柄であるが、れっきとした大人。彼が口にした年齢は背伸びでも何でもない本当の年齢である。

『……お前達、今、俺のことを見た目の割には小柄って笑ったか?』

 見事なまでの被害妄想である。

『好きなものは……そうだな、日なたでゆっくりすることだ。あそこは不思議と気持ちが安らいで落ち着ける。趣味は俺が愛読している有名作家の書物集め。特技は早口言葉、だ』

 王都に属するエージェントの中でもかなりの活動派で、その仕事は王都の外でも存分に振るわれている。最初に知り合った日、列車での活躍は今でも鮮明に残っている……自他ともに認める、戦闘のスペシャリストなのだ。


「ミシェルヴァリーさんもよろしいですか?」

「構わない」

 ルノアのマイクに口を近づける。


『ミシェルヴァリー・マリィシエス。年齢はシアルと同じで22。皆は私の事をミシェルと呼んでいる。皆もそう呼んでいい』

 実際長い名前だとは思う。略されてしまうのも仕方ない。

『シアルと一緒にエージェントをやっている。私の武器はこの背中の剣……これで、王都とシアルを守っている』

 ふん、と鼻息を吹き、質問に次々と答えていく。

『好きな食べ物はシアルが作ってくれたもの。趣味はシアルとのデートで、特技はシアルを笑わせる事……私の全部はシアルのためにある。私を守ると言ってくれたシアルのために、私もこの体の全部をシアルに捧げる』


 そう、見ての通り、彼女は相棒であるシアル大好きっ子である。


 幼い容姿の二人であるが、年齢は成人を越え、しかも婚約まで終えているという事実。プロポーズ、そしてデートの思い出などは全部記憶しているらしく、彼の事になれば留まる事を知らない。それだけの溺愛ぶりと言う事だ。



 しかし、その限度のなさがシアルを困らせていた。

 彼はその発言を嬉しく思いながらも、やはり恥じらいの方が強く返答に困っている。今すぐにその口を閉じさせたいと手が動こうとしているのは言うまでもない。



「……へっ」


 まあ、いうなれば。一組の夫婦のノロケ話を聞く羽目になったという事だ。

 別に恋愛事に興味があるわけではないのでどうと言う事ではないが、なんか妙に気に入らない感じがしたラチェットであった。

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