《◎200話記念SS◎ ~気になるあの人! コーテナ&ルノアの突撃インタビュー③~ 》

『カトル・ラルフ。まぁ、ここ最近就任した新人教師ってことでヨロシクゥ。趣味はカード関係のゲーム。特技は生徒の名前を大体一目で覚えられること』


「カトル先生って、ステラ先生やエージェントのシアルさん達とも仲がよろしいですが、その御関係は?」


『この学園で勉強を共にした学友なのよ。ステラ先輩にはいっつもお世話になったし、シアルとは一緒にやんちゃしまくったもんさ。ミシェルはどちらかと言えばステラ先輩やシアルの友人って感じだしな。その繋がりで交流してたって感じさ』


 数分後、コーテナとルノアの二人は教員室へと向かっていた。

 自己紹介インタビューを受けているのは、ここにいるメンツが最も交流を深めている教師の一人であるカトルだ。彼もまた、半魔族の一人であるのだが、その人当たりの良い性格から、生徒たちからは人気が高い。


 何より、教師というよりは、学園のルールがまだよくわかっていない研修生みたいな人物だ。まだ学生のノリが外れていないのか、生徒とはタメで話し合う間柄。本当に教師かどうか問われる人物である。


「インタビュー、ありがとうございました~!」


 コーテナとルノア、そして付いてきていたラチェットの頭を下げ、手を振るカトルに見送られながら教員室を後にした。




「さぁ、次は何処に行こうかな!」

「えっと、それじゃぁ……」


 次の目的地。何処に定めようかと迷っている二人。


「あっ」

 その矢先。二人の目線が、とある人物達の元へと向けられる。

「げっ……」

 ラチェットに関しては、一目瞭然ともいえるレベルの速さで顔を歪めた。この後のリアクション諸々に困っているのか、後ずさりまで始める始末。



 ……学園のナンバーワン・フェイト。

 そして、その横につくのは彼女の学友であり、一二を争う成績を誇る学園のナンバーツー・コーネリウス。数多くの魔導書を手に、学園のトップテンの座へと君臨するエドワードの二人。


 よりにもよって、一番気まずい人物達とすれ違いそうになる。

 ここ最近、特に女性陣の目つきはラチェットへと向けられているのだ。敵意なのか殺意なのか、妙に不信を抱く眼差しを向けられ、ラチェットは気まずい思いを続ける羽目になっている。



「……よし! 私、行ってくるよ!」

 すると、どうだろうか。

 ルノアは今、マイクを片手に命知らずなチャレンジを試みようとしている。

「お前ッ……まさカ、アイツラにインタビューするのカ!?」

 ラチェットの思惑が正しければ間違いない。次のインタビュー相手をあの三人にやろうとしている。空気の温度差とか諸々が違いすぎる、あのメンツに。


「やめろバカッ! 死ぬ気かッ!?」

「えっ! 近づくだけで大変な事になるの!?」

 ラチェットの想像以上の迫力にコーテナも驚愕する。

 そうだ、あの三人にインタビューを仕掛けるのはあまりにも危険すぎる。間違いなく”大やけど”するに決まっている。何より、あの三人の後の対応を考えてしまっているラチェットの心臓が危険なレベルで鼓動を上げている。


「私、こうやって仕事を任されたの初めてだから……だから、頑張ろうと思う! いつもみたいに、皆の脚を引っ張らないために!」


 こんな日に限って責任感マックス。ルノアは己に告げられた使命を果たすため、マイクを片手に三人の元へと向かっていく。



「あの、すいません! 今、自己紹介インタビューという企画をやっていて」

「……む?」


 フェイトの凍り付くような視線がルノアへ向けられる。

 見られるだけでこの重圧。覚悟を決めたのはいいモノの、ルノアはあっという間に青ざめた。背筋も一瞬で凍り付き、足もガクガクに震え始める。



「インタビューだと?」

 ルノアの言葉に、アンクルを光らせるエドワードが反応する。

「くだらないな。お前達凡人の問いに答える義理はない。こちらは忙しいんだ。お遊びなら他所でやって」

「まぁまぁ、いいじゃないか」

 予想通り、冷たい言葉を返してくるのはエドワードである。しかし、震える彼女へ鞭を打とうとする彼の言動は、学園のナンバーツーであるコーネリウスの介入によって止められる。


「インタビュー、か。軽く答えるだけでいいのかな?」

「は、はい!」

 空気をいい具合にほぐれてくれたおかげで、固まっていたルノアは再び動き出す。


『私の名前はコーネリウス。学園のナンバーツーとして、皆からは少し距離を置かれているけど、そうかしこまる必要はないよ。年齢は18。身長は165。スリーサイズは上から81、52、80だよ。趣味はチェス。好きなものは……そうだね、皆と共に魔法を学ぶこの時間、かな』


 営業スマイルなのか分からないが、彼女のインタビューに対して快く受け応えている。そこまで話してくれるのかと大盤振る舞いをしたところで、ついでに良い女ぶりをアピールするような発言まで添えておく。


 さすがは学園の人気者。その美貌で沢山の男性を落とし、女性らしからぬ色気で女子生徒達も陥落させた天然ジゴロである。



「フェイト。折角だから、君も少しくらい答えたら?」

「ふむ」


 一つ考慮したのち、フェイトは深呼吸をする。


『フェイト・ミストラル。没落こそしているが、古き名家であるミストラル家の令嬢だ。年齢は同じく18、身長も同じ165。体重は48……すまない、スリーサイズ、とやらは分からない』


 どうやら測ったことはないらしい、が、そのスタイルは結構な上玉であるコーネリウスを上回る。学園のナンバーワン、完全才嬢パーフェクト・レディと言われるだけの事はあり、鍛錬されたその体はあらゆる面で恵まれている。


『私の夢は高み、上を目指すことだ。学園の頂点のその先、更なる”完全”を目指す。それが私だ』


 妥協はせず、更に上を目指すその姿。カッコよさ、その生きざま、その全てがこの学園生徒全員に、良い影響を与えているのは言うまでもない。



「フェイト、こんなお遊びに」

「あれれ? フェイトはやったのに、まさか君はやらないというのかな?」


 一人、今も尚、頑なにルノアを押しのけようとするエドワード。彼女は律儀にこのインタビューに答えたというのに、まさか自分だけ付き合わないなんて気が利かないことはしないよな……と、コーネリウスのニヤついた表情がチラつく。


「……分かった。フェイトが付き合ったのなら」


 観念したエドワードはアンクルを磨き、マイクへと近寄る。



『僕の名前はエドワード・リカルド。魔法使いとして、古来より王都を支えてきたリカルド家の男であり、次期に当主の座も約束されている。使える魔導書の数は八冊。お前達凡人に、魔法の学で負けようとは思わない』


 エドワードはこの学園で”百年に一人の天才”と呼ばれている。学園のナンバーワンとナンバーツーの二人と肩を並べることも少なくない彼は、フェイトの許嫁ということもあって、数多くの生徒から一目置かれている存在だ。


『学ぶ事。それが趣味であり特技。嫌いなものは、プライドも誇りも何もない落ちこぼれだ。見ているだけで気が滅入る』


 エドワードの視線の先。

 そこにはラチェットの姿。敵意を隠すつもりもない。



「……以上だ。もういいか。さっきもいったが、僕たちは忙しい」

 インタビューに答えたエドワードは面倒気にその場から立ち去っていく。

「では、私達も失礼する」

「頑張ってね」

 フェイトとコーネリウスも彼の後を追う。忙しい中、わざわざ足を止めてインタビューに答えてくれた。


「あ、あ、あ、ありがとうございましたっ!」


 感動するべきか、それとも驚愕するべきか。


 とにかく感謝をする以外他はない。御足労を駆けた事、申し訳ない気持ちは勿論、その他諸々の気持ちの全てを込めて、ルノアは頭を下げて三人の背中へお礼を言い続けていた。


「お疲れサン」


 ハードな仕事だっただろう。ラチェットは同情するように彼女の背を叩く。


「コーテナちゃぁん……私、やったよぉ~……やったよぉおお~」

「うん! ルノア、凄く頑張ってた!」


 一人泣き出しそうなルノアの頭をコーテナがとにかく撫でる。本当に仲睦まじいようで何よりだ。二人の友情は、末永く幸せに続くことだろう。


 学友達に教師、そして学園のトップ達。これだけの人物へ突撃インタビューを終えた今、彼女たちがここにいる理由はもうない。


 次の目的地へと向かう事にする。

 ここから近い場所と言えば……”王都魔法学会”だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る