PAGE.197「ミスター・アンドロイド」



「「なんじゃそりゃぁァアアッ!?」」

 アルカドア、裏口通路。


 飛び荒れる大量の熱光線。直撃したならば、壁に構成されている鉄程度であれば一瞬で溶かしてしまう数万度の熱。


 それが無数に飛んでくる死線。悪夢のような光景の中で二人並んで全力疾走する人の影。


「何なんだい、あのデカブツはぁッ!?」

 逃げている二人組の片方・オボロは声を枯らしながら叫んでいる。突如現れたあのバカでかい大男は誰なのかと。来客をもてなすどころか、ぶっ殺す気100パーセントの怪物の存在を。


「こんなとんでもないヤツが残ってやがったのかよ!?」


 見覚えのあるガスマスク。

 そして、本人の意思がないように思える異様な存在。敵を発見次第排除にかかろうとするその姿を見て、スカルは正体に一瞬で感づいてしまった。


 例の人形計画の一体だ。

 雰囲気でわかる。そして今まで見た奴とはレベルが違う事にも。


「何だい!? もしや、アレが例の人形って奴なのかい!?」

 何でも屋事務所に籠っている中、オボロはスカルや一同から、“変なマスクをつけた人形に気をつけろ”と注意を受けていた。もし、あの人形が組織に関連していたならば……発見次第、襲い掛かってくる可能性がある。戦闘力も中々高いために注意をしろと。


 特徴もしっかり聞いている。それに酷似している存在であることをオボロは即座に察した。


「間違いねぇ! だが、なんか違う!」

「間違ってないのに違うってどういう意味なんだい!?」

「とにかく逃げろォ! 焼き殺されちまう!」


 タンドリーチキンどころか消し炭……いや、炭はおろか灰すらも残るか分からない熱光線を撃ちまくる巨大人形から逃げ続けるオボロとスカル。


 ……人形の手のひらの熱光線。

 それと同時、今度は胸がシャッターのように開き、“砲台”のようなものが顔を出す。


「まだ、仕掛けがございますのかい~!?」


 あまりにも奇怪。あまりにも奇抜。

 見たこともない仕掛けを施した謎の敵を前にスカルとオボロは翻弄されまくっていた。


 胸の砲台から放たれる一発の鉄球。人間の背骨程度はいとも容易く粉砕できる砲弾がオボロに向かって飛んでいく。


「こいつ……!」


 スカルは即座に体を鋼鉄化。


「いい加減にしやがれ!!」


 飛んできた鉄球を……ラリアットで撃ち返す。

 綺麗にUターン。鉄球は巨大な大男の顔面目掛けて飛んで行った。


「ぐがっ」

 命中。巨大な殺人マシーンは変な声を上げて、その場で倒れ込む。


「くらいやがれ……!」

 敵に向かって走っていく。

 その巨体ならそう簡単に立ち上がることは出来ないはず。身動きが取れない今のうちにとスカルは敵に向かって戻っていき、その場で大きく大ジャンプ。


「俺の必殺右ストレェエエト!!」


 鋼鉄化した体。しかもジャンプの反動も込みな上に、全力のパンチ。

 これだけパワーを詰め込みまくった攻撃ならば、致命傷の一つは与える事なんて容易い。




「……いってぇッ!?」

 なんて思ってた時期が彼にもあった。


 硬い。硬すぎる。

 殴った相手は頑丈。大理石を殴ったかのような感覚だった。

 

 スカルは殴るために使った腕を押さえて苦しんでいる。腕の骨が折れなかっただけマシかと言いたいが、その鈍痛に悲鳴を抑えられずにはいられなかった。


「何が何だか知らないが……」

 オボロは近くに落ちていた鉄球に触れる。


 魔法を発動。鉄球の中に爆発のためにエネルギーを一斉に放り込む。


「これでお陀仏になりな!」

 その鉄球を男の胸に押し付ける。


 爆弾をセット。あと数秒で爆発。


「逃げるよ!」

「おおっ!?」


 消し炭になる前にスカルとオボロは爆発の届かない遠くにまで全力疾走。爆発寸前に最後のラッシュとして飛び込むようにスライディング。






 大爆発。


 おかげでアルカドアの裏口廊下が木っ端微塵。太陽の日光が普段は薄暗い通路を明るく照らしてしまった。



「や、やったか……?」

 スカルは吹き込んできた塵嵐に咳き込みながらも立ち上がる。


 これでどうにかなったか。

 あれだけの爆発を正面から受ければ、行動が出来るわけがない。



「……標的、健在。攻撃を続行する」

 

「うそーん」


 なんて思ってた時期がスカルとオボロにはありました。


 あんな爆発を正面から受けてピンピンしている。ガスマスクこそ真っ黒こげに燃え尽きているが、その肉体は軽い焦げ目をつけた程度で何のダメージもない。



「なぁ、良い男の兄ちゃん!? 話で聞いてたよりも頑丈過ぎやしないかい!?」

「そうだよ! だから違うって言ってるんだよ!」


 今まで現れた人形とは全く持って違う。その頑丈さは勿論、殲滅能力も桁違いの人形にスカルは唖然とする以外に他がない。


 

「標的、破壊」


 しかもこの人形……他の奴と違って喋る。

 他の人形同様自分の意志はないようには思える。ただ、目の前の敵を殲滅すること以外は考えていないようなトンデモ思考は他と変わらない。


 しかし、同じタイプであろうと、その恐ろしいまでの戦闘力は他の追随を許さない最強の兵器である事なのは間違いない。




 ……人形計画の切り札ともいえる存在か。

 とんでもない駒を隠していたものだとスカルは固唾を呑む。



「参ったな……あれだけのダメージを与えても倒れはしない。どうにかして倒す方法はないものか」


 スカルは何とかして突破口を考える。

 この怪物を止める方法がないのかと。



「……なぁ、良い男の兄ちゃん」

 オボロが口を開く。


「アンタ、確か……人形は致命傷を受けると、自爆して証拠を隠滅するって言ってたよね? それは確かなのかい?」


「あ? ああ、間違いない」


 この人形達は騎士団達に何の情報も残さないように自爆するよう仕掛けられている。

 その人形の正体が何なのか。一体、どこの組織が仕向けた刺客なのかも……一切の情報を与えない様に。



「ふむ、つまり……あの中には爆発用の魔導書とかが仕掛けられてるってことかね?」


 オボロが笑みを浮かべる。


「だったら、勝機はあるね」

「マジでか!?」

 スカルはオボロの言葉に首を向ける。


「私の魔衝はもう一つ使い方があってね……とにかく、まずはあの人形に触れに行くよ」


 オボロは一人で殺戮人形に向かって突っ込んでいく。


 標的を視認した殺戮人形。

 再び両腕の手のひらを広げる。赤い発光が再び放たれようとしている。


「危ねぇっ!」


 腰のあたりに仕掛けておいた“飛び鎖”をスカルは投げつける。。光線を撃たせない様にと両腕に向かっ。。

 鎖は片手に命中、もう一発までは面倒を見られない為に光線はオボロに向けて発射される。


「おっと」

 一発程度なら回避は簡単だ。オボロは余裕の表情で光線を回避する。

「私の魔衝はね……生きてる人間にエネルギーを放り込むことは出来ない」

 急接近。オボロは巨大な殺戮人形の体に触れる。


「無機物限定……“アンタの中にある爆弾”にエネルギーを放り込ませてもらうよ」


 オボロの魔衝の使い方。それは生命のない無機物に爆破のエネルギーを大量に放り込み時限爆弾として爆散させるという力。


 “それともう一つ。”

 元より爆破のエネルギーが込められている物体に……それ以上の爆破エネルギーを放り込むという代物。



「よし、とっとと逃げるよ! 今以上に逃げないと……本当に消し炭だよ!」

 オボロはその言葉だけ言い残して、今以上に遠く離れた場所へと逃げるよう廊下を走り去っていく。


「な、なんだって!?」

 スカルもそれに続いて必死に走る。


 立ち止まるな。何も考えるな。

 とにかく、大急ぎで走れ。



 元より爆発するための物質が詰まっている物体。そこへ爆破のエネルギーを大量に上乗せしたとなればどうなるか……それは簡単だ。



 その爆弾の数倍以上は危険な爆発物が完成する。



「標的、はか、」





 殺戮人形の声は桁違いの爆破音に遮られた。




 胸の内側からとてつもない爆発。頑丈だった身体はあっという間に木っ端微塵に消し飛んでしまい、崩壊する。


「うぎゃッ!?」


 吹っ飛ばされる。 

 逃げている途中だったスカルはその爆発の衝撃に巻き込まれ、体が浮き上がる。爆破に備えて体を鋼鉄化していたというのに、その重い身体はいとも容易く浮き上がってしまう。


「うげっ!?」

 その最中、前方を走っていたオボロと正面衝突。


「「なんてこったぁああッ!?」」


 二人は仲良く、爆発の衝撃によって……施設に奥にまで吹っ飛ばされていった。

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