PAGE.116「がめついスカルの多忙な一日(その2)」
「おい! 停めるなら先に言えヨ!!」
「謝罪は後でする! それよりも前を見ろォッ!!」
スカルは慌てながら車を飛び降りる。
前に一体何がいるというのだろうかとラチェットは前方を確認する。
「……」
なんと、そこにいるのは巨大なエリマキトカゲじゃないか。
何やら山を下ろうとしていたご様子。山頂を目指していたバギーと鉢合わせになり、目の前にいる人間は何なのだろうかと一匹のトカゲがジロリとラチェットを眺めている。
「ギャァアアアアアアッ!?」
ラチェット。アクロケミスを即座に発動。
取り出したのはショットガン。真っ先にラチェットへ近寄ろうとした巨大エリマキトカゲに正面から全弾直撃させる。
エリマキトカゲの前面が一瞬にしてミンチのように穴だらけになってしまう。ラチェットは撃つ寸前に両目をつぶったためその瞬間は見えていない。
「ひえぇえ……」
その瞬間を見てしまったスカルは足をガックガクに震えさせていた。無残な姿になってしまった魔物を前に恐怖の声を上げる。
「ないわぁ~……出会いがしらにミンチとかないわぁ~」
「……なんかすまん。体が反射的にサ」
ご冥福をお祈りします。と撃った本人であるラチェットはうつ伏せで倒れたトカゲに合掌をしておいた。
しかし、魔物のトカゲはまだ三匹いる。このままここにいたらまずいと判断したラチェットは慌ててバギーへと飛び乗っていく。
「来るんじゃねぇ!」
スカルはジャケットの裏に仕込んでいた鎖を取り出すと、先端にある小型の重りを振り回し、近づくなとエリマキトカゲたちを威嚇する。
「かかってきやがれ……見よ! この手裁きをォ!!」
エリマキトカゲと似たような見た目の威嚇のオウム返し。バギーの前で鎖を振り回しながら小刻みに左右の行き来を繰り返す。中華拳法の達人みたいな叫び声をあげながらスカルは威嚇を続ける。
しかしエリマキトカゲ達はその姿に対し警戒するどころか、無表情で眺めているだけである。
つまり、効果はないと思われる。
「よっしゃ、今ダァ!」
だが、隙を作ってくれただけ上出来である。
アクロケミスで取り出したミサイルランチャーを発射。4発の直進ミサイルがエリマキトカゲの群れ目掛けて飛んでいった。
ミサイルの爆発に飲み込まれ、焦煙が立ち込める。
「うわぁ……容赦ねぇ~」
真後ろから何か爆発物を飛ばしたことを既に察しているスカル。呆気に取られている隙にぶっ飛ばされてしまったトカゲに対しご愁傷様の念を浮かべる以外に他はなかった。
「……っ!?」
瞬時。
煙の中から、牙を剥いたエリマキトカゲが一匹飛び掛かってきた。
(仕留め損ねたカ!?)
ラチェットは慌ててアクロケミスから武器を取り出そうとする。
しかし間に合うのだろうか。ラチェットとスカルの目の色が焦りを見せていた。
「あらよっと!」
……閃光が現れる。
巨大なエリマキトカゲの魔物が、彼らに飛び掛かる寸前に謎の閃光によって頭を真横から貫いてみせた。
一筋の閃光に脳天を撃ちぬかれたトカゲはそのまま吹っ飛ばされ、崖の下へと転がり落ちて行く。
「「……?」」
何が起きたのか。さっきの光の正体は何なのかと周りを見る。
「おーい、大丈夫かー!?」
上から声が聞こえる。
「ん? ドクロマークのバギー……そうか! 君たちが援軍か!」
軍人のような制服を身に纏った青年男性がこちらに手を振っている。
「こちらまで来てくれないかー!? 仕事の内容を詳しく話し合いたい! ここからそこへ飛び降りるのには少し無理があるからなー!」
あの様子。援護射撃を入れてくれたのはあの男で間違いない。
そしてこのセリフ。
……そういうことか。と二人はすぐに理解した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
突然のエリマキトカゲ達の襲撃から数分後。軍人のような格好をした男の元へバギーで向かうこと数十分。そこからは魔物と遭遇することもなくスムーズに男の元へと到着する。
「仕事を引き受けてくれてありがとう。俺の名前はオーブァム。王都でエージェントをやらせてもらっている」
予想通りだった。
この鉱山には何でも屋スカルよりも先に精霊騎士団の一人とエージェントの一人が駆けつけていると聞いていた。
この人物こそが鉱山に派遣されたエージェント。その名はオーブァムである。
「俺はスカル。今後とも御贔屓に。んでコイツは助手のラチェットだ」
「そういうことにしといてやるヨ」
あながち間違いじゃないし、否定こそしなかった。
「待ってたよ。そして、特に君!」
オーブァムは仮面の少年ラチェットへと指をさす。
「君には是非ともお会いしたかったんだ」
「は? 俺にカ?」
王都のエージェントともあろう方が一般生徒の一人である自分に何の用なのかとラチェットは首をかしげている。
それほど大したことをした記憶はない……しいて言うなら、少年を助けたヒーローと少しの間だけ正義の味方として巷の有名人にこそなっていたが、まさかその噂がまだ続いているというのだろうか。
「君と話したいことはいろいろあるが……今は勤務中だ。だから、急いで仕事を終わらせて、ゆっくりと話をすることにしよう」
オーブァムは二人の乗るバギーの後ろへと飛び移る。
「この周辺には群れはもういない。後は精霊騎士団とその配下の騎士団が担当している区域の手伝いをするだけだ。俺達もそこへ向かおう」
「了解。エスコート頼むぜ」
思ったよりも仕事は進んでいるようであり、あと一息で終わる寸前のようだ。
援軍は必要だったのかなと軽く思ったが、二人はエージェントを連れて、その目的地まで向かうことになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後。目的地に到着。
「「……」
ラチェットとスカルは唖然としていた。
頂上付近にポッカリと空いたクレーター。
その中で行われていた一仕事は……想像以上に壮絶な風景。
そこには“三百は軽く超えるであろうエリマキトカゲの魔物の大群”。
それに対し“数十名という数”で対処を行う騎士団達。
「なぁ、ラチェット。精霊騎士団からの仕事だし、保険くらいはかかってると信じるべきだよな?」
「保険はどうか分からないが、確実に命はかかってるナ」
前言撤回。
特別ボーナスを期待したい大仕事であった。
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