PAGE.115「がめついスカルの多忙な一日(その1)」
王都の東門を出て二時間ほど。
他の地域と比べ荒原の目立つ平野地帯を通り過ぎると、商人の資材運用スポットとして有名な“ライナリー鉱山”と呼ばれる場所がある。
ここでは燃料となる鉱石や頑丈な武器を作るために必要な鉱石など、取引の際には高価な値段が常に右往左往する資材が大量に確保できる。許可を得ずに密輸する輩も現れるほどであり、精霊騎士団の監視下のスポットの一つとされている。
そんな鉱山の荒道を走らせるビッグなタイヤのイカしたバギー。
車のボンネットに描かれた巨大な骸骨のマーク。そして、その運転手の胸にも髑髏のタトゥーらしきものがドンと映し出されている。
そう、彼は何でも屋スカル。
一攫千金の夢を掴むため、王都で何でも屋開業という夢を叶えた男の1人である。
「随分と道が荒れてるナー……揺れ過ぎだゼ、さすがにヨ」
助手席には仮面をつけた男が頭に手を当てながら背もたれている。
ラチェットである。
ここ最近は制服姿であったが、今まで通りローブの下には私服の無地Tシャツとジーパンという懐かしい格好でスカルに同行している。
「仕方ねぇよ。この辺は道の整備があまり入ってないらしいからな」
地図を確認し、スカルは目的地へと向かっている。
商人達の最高のスポット。ここライナリー鉱山で一体何があるというのか。
「……それに、ここ最近でかなり道が荒れちまったみたいだからな」
ここへ来た理由。彼らの目的は一つ。
「例の爆弾魔。ここにも現れたみたいだからな」
何でも屋スカル。
開業して数日。ものの数時間で早速一発目の仕事が舞い降りたのである。
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話は数時間前にさかのぼる。
何でも屋スカルは張り紙に書いておいた日程通り、全ての準備を終えて事務所をオープンさせた。
自慢のバギーがしまわれた車庫のガレージ。来客用にソファーやガラスのテーブルにコーヒーメーカー、立ち寄り程度に軽い雑誌など必要最低限のものは全て揃えておいた。
ここで稼いだお金も後から上の階の家具を買い揃えるために使ったりする予定だ。まずは事務所の見た目を快いモノへと昇華させていく。
開業してから1時間。
初仕事はまだかまだかとスカルはタバコを吹かしながら、ガレージのソファーで王都のニュースペーパーを読んでいた。
「スカルさんはいらっしゃいますか?」
ガレージの中に入ってきたのは、何でも屋を開店する際にお世話になったエーデルワイスさんだった。
胡蝶蘭の花束を両手にやってきてくれた。
タバコを消し、ニュースペーパーも即座に畳んでスカルは挨拶に伺う。
「まずは開業おめでとうございます」
「ああ、これはご丁寧に。こちらこそ、ありがとうございますっと」
胡蝶蘭の花束を受け取り、エーデルワイスの握手に応じるスカル。
まさか開業祝に騎士様自らがやってきてくれるとは。これは気を引き締めて、一攫千金の夢を叶えなければと気合を入れなおす。
受け取った胡蝶蘭の花束。もとい生け花を事務所のテーブルに飾っておく。事務所に花を一つ添えるだけでここまで外見が変わるものとは。
「では、早速ですが……スカルさんに一つ仕事の御依頼が」
エーデルワイスはさっきまでスカルが読んでいたニュースペーパーを手に取る。
そこには王都で起きた事件や魔法学会などの魔法研究の進歩の特集以外にも、王都の外で起きた災害や事故の事も隅々まで特集されている。
エーデルワイスはその新聞記事の一つを指さした。
「手伝ってもらえますでしょうか?」
彼が指さした記事。
“またも発生! 次のターゲットは商人達の宝の山!? ライナリー鉱山、山頂爆破!”
それは、過去にラチェット達が嫌な目に遭った事件。
着たくもない超重荷の濡れ衣を着せられた爆弾魔の記事であった。
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ラチェットはスカルが新調した仕事用のメモ帳を片手に仕事内容を確認する。
二日前。例の山岳爆弾魔と思われる人物がこのライナリー鉱山の山頂を吹っ飛ばしたという報告が入った
世界で12番目に高いと呼ばれている鉱山。観光スポットとしても有名だった鉱山が吹っ飛ばされたのは非常事態であることは明白。しかし、山頂が吹っ飛ばされた以外にも思いがけない事態が発生してしまった。
鉱山が吹っ飛ばされた事により巨大な穴がその場数か所で開いてしまい、鉱山の洞窟の奥で眠っていた魔物や野生動物が驚いて外に飛び出してしまったのだという。おかげで鉱山は大量の魔物がウヨウヨいる状態で、とてもじゃないが一般人が立ち寄れる状態ではないということだ。
現在、精霊騎士団の一人とエージェントの一人が魔物の討伐に赴いているとのこと。何でも屋スカルはその援護に向かってほしいとのことだった。
「しかし、精霊騎士団は思ったより多忙みたいだナ。こうして、一般の何でも屋に援軍を頼むくらいだしナ」
精霊騎士団は騎士団長を除けばすべてで8人近く存在する。
彼等は王都の危機とあればすぐに集合をかけるのだが……それ以外の事件も担当こそしているものの、全員がすぐに対処に向かえるほど、器用な立場ではない。
精霊騎士団は王都のみではなく、魔法世界クロヌス全域を守護する正義の騎士。王都の外で異常事態の問題が発生すれば、直ちにそこへ向かうなど人手は多い方ではないのだという。
例えばだが……精霊騎士団のメンバーである、ディジーとプラテナスという人物。
プラテナスは弓矢を持っていた眼鏡っ子の少女騎士であり、ディジーはロードブリッジの上でラチェット達に襲い掛かってきた幸薄そうな男性騎士の事である。
その二人は最も人の出入りが多いロードブリッジの見張りを担当している。基本的にそこから動くことは緊急時以外にはない。
そして、粗暴な騎士サイネリアは基本、王都の内側の事件しか対処していない。王都の外の事件に関しては『遠出とか面倒くさい』なんて言って放棄するらしい。
お前それでも正義の騎士団のメンバーなのかと言いたくなる。
とまあ、精霊騎士団は各個人それぞれの仕事や都合があって、全ての事件の対処に向かえるわけではない。その枠を埋めるために精霊騎士団の配下である王都騎士やエージェントが存在するのだが、それでもやはり足りないようだ。
今回は精霊騎士とエージェントが率いる騎士団の援軍が仕事である。
出てきてしまった魔物の数を減らす。鉱山中に漂ってしまった魔物たちを対処しなければ、商人達の商売事情に関わるからだ。
「手伝ってくれてありがたいけどよ。お前学校は良かったのか?」
「今日は参加しないといけない授業はないからナ。それに何でも屋のメンバーでもあるんだからヨ、初仕事くらいは顔出さないとナ」
全て必ず参加しないといけない授業ではない。それを理由に初めての何でも屋の仕事を手伝う事となったのだ。
(まあ、お小遣い欲しいしナ)
その反面。自分もお給料のおこぼれを貰おうとラチェットは画策していた。妙なところで欲に正直な彼である。
「ありがとよ~! コーテナは仕方ないとして、アタリスまで手伝ってくれないっていうから孤独だったんだぜ~!!」
コーテナも何でも屋の初仕事というからには参加しようと思っていたが、その日はルノアとの約束があったらしく、そっちをどうしても優先したかったようだ。
大切な友達の一人だ。約束を大切にして来いとスカルは大人の対応を見せていた。
じゃあ、普段から暇そうなアタリスに頼もうかと思いきや、彼女も拒否したのである。
まず面白いかどうかと思えば面白くなさそうという理由。ハエ叩きなんぞに顔を出すつもりはないと頑固拒否していた。
……それともう一つ。
ここから離れると少しばかり面倒な事が起きそうだから。そちらの面を考えても拒否させてもらうとアタリスはスカルの仕事を手伝おうとはしなかった。
結果、学園に行く前のラチェットはそれを見兼ねて、参加することになったのである。
なんだかんだ言って仲間想いな彼は見捨てておけなかったようだ。
ラチェットに感謝しつつ、バギーを先に進めていく
「って、おおっ!?」
バギーを進める際中、スカルは急ブレーキを踏む。
「!?」
車の急ブレーキは危険である。どんな体であろうと前方に押し出されてしまうからだ。こんな時のためにもしっかりとシートベルトはつけておこう。
シートベルトをつけてなかったラチェットの体がフワっと浮き上がり、バギーの進路方向へと射出されてしまう。
「いてて……おい! 止めるなら先に言えヨ!」
「前! 前ェッ!」
スカルは真っ青な表情で前を指さす。
そっと、顔を後ろに向けてみると。
そこにはサソリのような針を尻尾につけた”トカゲの大群”がこちらをじっと見つめていた。
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