”承”の譚 【王都編】

第7部 爆発波乱のアフタースクール(<前>入校の章)

< EX.SS② 王都編プロローグ ~青春物語の幕開け~ >

 王都のとある酒場。

 この場所は性懲りもなく騒がしい。足を踏み入れなくとも聞こえてくる歓声と騒乱。子供から大人まで、年齢など関係もなく聞こえるはしゃぎ声。


 酒場がしまる数時間前。その時間は決まって、この場所へ訪れた客の大半が楽しみにしているイベントがやってくる。


 ピアノ詩人が奏でるピアノのリサイタル。そして共に口ずさむのは少年ラチェットと少女コーテナの冒険の物語。魔法世界クロヌスの全てを揺るがした愉快な冒険譚。


 その冒険譚は、今日から新たなステージへと移動する。

 舞台は我らが王都。精霊騎士団にエージェント、そして将来有望な魔法使いと騎士見習い達……数多くの有名人が顔を出す注目の物語。



 宿屋に足を踏み入れるピアノ詩人。

 一礼をした後に、ゆっくりとピアノへと向き合い椅子へ腰かける。


「おやおや?」

 物語へと入る前にピアノ詩人があることに気付いた。

「……ふふっ、懐かしい人達がこんなに沢山」

 今日はいつも話を聞きに来る子供連れの親子や通りすがりの騎士達。その他ギルドの一員や裏商人達などの見慣れたメンツ以外にも多数のお客さんがいる。

 いつもの数倍以上。やけに騒ぎ声も大きいと思いきや、それが原因かとピアノ詩人は思わず笑みを浮かべてしまう。


 新たに増えたお客さん達。そのメンツは……詩人のよく知るメンツのようだ。


「ちょっとお恥ずかしい」

 桃色に染まる頬。いつもの洒落た口調も少しくだけて萎らしい乙女の一面を見せる。恥じらいを浮かべる詩人の姿はいつも遊びに来る子供達にとっては新鮮な風景であった。


「おっといけないいけない……それでは始めましょうか」

 待ってましたと周りの声。

 期待に応えるべく、ピアノ詩人は自慢の旋律を奏で始めた。


「コーテナと出会い、スカルと出会い、アタリスと出会い……孤独の少年ラチェットは個性豊かな仲間達と出会い、怒涛の数週間を旅で過ごしました。彼等が行き着いた先は……我らが王都」


 プロローグ。王都に行きつくまでの物語まで奏でられたのは悠長で静かに愉快。心安らぐ旋律によって彩られてきた。


 曲調は変化する。

 心安らぐハーモニーから……”心躍る愉快なリズム”を刻み始める。


「新たな仲間! 新たな風景! 心躍るその物語は青春夢想の学園物語!」


 いつもの物静かなピアノ詩人の印象が変わってしまいそうな映像だった。ピアノ詩人の落ち着いた表情は、テンション高めにランランと笑っている。


「それでは、いざ、参りましょう!」


 甲高い詩人の声が、ピアノのリズムと共に酒場に響き渡った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 王都のとある宿屋。

 男子部屋と女子部屋、それぞれ用意された二つの部屋。


 少女達はいつもと違う衣服の袖を通す。

 ”制服”。それが、王都の学園に所属する者のみが身に着けることを許される将来有望な魔法使いの証の衣装。


「いよいよだね!」

「ああ」

 コーテナのテンションは最早止まる気配を見せない。抑えようのない衝動で揺れる体、そして隠されることのない”動物の耳と頭”も窮屈さを感じさせず自由の身。少女の喜びの全てを体現しているようであった。


 アタリスはふっと笑みを浮かべ、コーテナと共に隣の部屋へ。

 もう一人……”学園へと足を踏み入れる”少年の元へ。


「行くよ! ラチェット!」





「待て、着方がわからネェ」

 少女がやってきたと同時、少年は仮面をつける。

 

 今までとは違う始まりを告げる新たな一日が……幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る