< EX.SS① ピアノ詩人の困惑(前編) >
「学園。それぞれ夢見た世界。その夢が叶う事に胸を躍らせるコーテナに、困惑するラチェット……広大な王都、少年は答えを、少女は望みを。きっと答えはそこにあると信じて、また明日」
喧騒をも鳴りやませるピアノの演奏による弾き語りが終了する。
今回のお話は爆破騒動の犯人の濡れ衣を着せられたラチェット達。そんな彼らを追いかける精霊騎士団とのゴタゴタの物語である。
ラチェット達に負けず劣らずの個性派ぞろいの騎士達。
そして、それぞれ王都にて夢に向かって走り始めたラチェット一同。
一同の冒険は続き、舞台はいよいよクロヌスの中心都市・王都ファルザローブへ!
演奏が終わる。
家族連れ、立ち寄った騎士達、そしてガラの悪そうな大人達も綺麗な演奏に拍手喝采。そして、綺麗に彩られた物語にも賞賛の嵐が舞い踊る。
「ありがとうございます」
ピアノ詩人は拍手喝采にしっかりとお辞儀で答える。
今日の公演にて、少年少女の最初の冒険譚の全てを語り終えた。
一つのピリオドに辿り着いたピアノ詩人は愉快気に酒場のカウンターへ。
「ミルク、をお願いします」
「はい、待っててね~」
酒場の女性店員はピアノ詩人がいつも注文しているミルクを出す。
この”王都”の牧場にて育てられているブランドものの乳牛から搾り取った絶品。濃い甘さにスッキリとした喉ごしが溜まらない一杯である。
本来ならコーヒーのブレンドや、酒場のメニューの調味料などに使用されているものらしい。こうして、一杯の飲み物として注文するのはピアノ詩人くらいとのこと。
「相変わらず、お酒飲めないんだね」
「ええ、あのクラっとするのがどうしても苦手で」
お酒はかなり苦手らしく、一杯飲んだだけで出来上がってしまうらしい。飲んでしまったら家に帰るのだけでも一苦労だし、今後の公演にも響いてしまうために控えているようである。
「飲めるようにはなったほうがいいよ~。じゃないと、お付き合いとか大変だよ?」
「分かってはいるんですけど、うーむ」
この店員とピアノ詩人は仲が良いご様子。
ピアノ詩人の口調も自然とくだけたものに変わっていく。フランクな女性店員への返答もそれなりにノリの良いテンションだった。
「次はいよいよ、”ココ”の話なんだね」
「ええ、次の舞台は……”ココ”だよ」
王都の酒場。
何気ない会話でピアノ詩人と店員は盛り上がっている。
「ああ、ちょっと待ってください」
そんな会話に一人、車椅子の女性が近寄ってくる。
両足はかなり衰えており、右手も義手と痛々しい見た目をした女の人。
「あ、貴方は」
「まあまあ、次のお話に行く前にですよ」
車椅子の少女は見た目こそ散々ではあるが、そのテンションは女性店員に続いて高めで結構お転婆である。ピアノ詩人の会話を遮るように自分勝手に話を進め始める。
「このまま話を進めては、精霊騎士団の名が泣くと思うのですよ」
物語の構成上、そうなってしまうのは仕方ない。
しかし、それではあまりに酷なのではないかと少女は提案する。
「精霊騎士団はこの街のヒーローです。ですので、そういう一面もお話ししなくてはいけないのでは?」
「ええ、ですから、次の物語でその活躍を」
「甘い。そういうわけではないのです」
少女は人差し指を天井に突き刺す。
「一度、騎士団がメインの物語をお話ししても良いのでは、と申しているのです……皆様も聞いては見たいと思います。この王都の英雄である、精霊騎士団の活躍を!」
車椅子の少女がそう酒場で声を上げると聞こえてくるコール。
特に騎士団。一般の騎士には憧れである精霊騎士団の活躍とやらを聞いてみたい兵士達は是非ともお願いしたいと少女に応える。
「……次の物語が始まるまで時間はあります。でしたら、この瞬間に多少の時間を頂いてもよろしくて?」
「分かりました……全く、貴方は印象の割には強引なんですから」
「よく言われます」
車椅子の少女は再び近寄る観客達へ目を向ける。
「それでは、次の公演へと続く物語……ほんの一時の物語。今までに例を見ない自由気ままな精霊騎士団の活躍を、御覧あれ」
では、少しだけ付き合っていただこう。
今から始まるのは……”次の物語へと続く架け橋”である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます