PAGE.53「閃光の中に(前編)」
「これが、この世界の歴史よ」
これは学会が作り上げた仮の考察。
今のところ、この考察が一番有力だと言われている。
魔法世界と名を変える前よりも世界は存在した。
しかし、その世界の人類は滅ぼされた……滅ぼされた人類は精霊と呼ばれる存在によって蘇り、新たな存在として、精霊と共に魔族界に戦いを挑み勝利。
古代人達はその後も平和のために魔法を活用。全ての人類は魔法という存在に感謝をこめながら、その長い歴史に多くの革命を刻み続けてきたのである。
レッスンを終えたステラは軽い息を吐いて、再び眼鏡を正位置に戻す。
「壮大だナ」
ファンタジーだ。あまりの壮大さにラチェットは言葉を失いそうだった。
「……その壁画、確かに珍しいタイプかもしれないけど、そこまで熱心になる何かがあるんですか? とても見入るように研究していましたけど」
精霊と古代人、そして魔族との最終決戦を描いた壁画は今も結構な数は発見されている。しかし、この壁画には今までのものとは全く違うとステラは口にしていた。
精霊が描かれている……それだけにしては、あまりにも熱心だ。
何が違うのか。コーテナは質問をする。
「……この壁画、文字が刻まれているの」
壁画を眺めながら、ステラは自身の目的を口にする。
「最初に見つけた時は何もなかったんだけど……後日もう一度訪れたら、壁画にうっすらと文字が現れたのよ。でも、本当にうっすらで、文字も一部一部消えているから、何と書かれているのか解析できない」
文字の解析。そして、それによる考察を答えていく。
「何が書かれているのか、私はそれを調べたいの」
内容次第では古代文明の研究に大きな一ページを刻むきっかけとなる。古代文明担当の学者を自称するステラは学者の夢を前に心を躍らせている。
「文字、ねェ……」
壁画を見るが何か書かれている様子がない。そもそも文字らしきものが見えない。
「なァ、ちょっと近くで見ていいカ?」
「いいけど触らないようにね」
意外とあっさり許可してくれた。
怪しい人物ではないことを認めてくれたのか……少しばかりホッとする。
ラチェットは一歩、壁画へ近づく。
だが、足を一歩近づけたくらいで文字の見える見えないが変化することはない。
さらに一歩、壁画へ近づく。
……まだだ。まだ壁画には文字らしきものが見えない。
もう一歩、もう一歩。さらに一歩。
壁画へどんどん近づいていく。その足を壁画にへと近づけていく。
「……!」
ラチェットは突然目を閉じた。
動いていた足が……急遽として、停止した。
……遮られた。
そこから先へ向かおうとすると“何かが彼の行く手を阻んだ”よう。
“眩い閃光”……。
真っ白な閃光が、突然彼の視界を埋め尽くしたのである。
突然の眩しさにラチェットは目を瞑る。太陽を反射させた虫眼鏡を直接向けられたような感覚に思わず仮面を脱ぎ取り、目を擦りまくる。
勿論、その場にいる全員には見えない様に外している。
「ラチェット!? 大丈夫!?」
突然座り込んだラチェット。
……そして、ラチェットの視界同様、白い光を帯び始める壁画。
「文字が……見える!?」
ステラは思わず声を上げる。
うっすらとしか見えなかったという文字。
壁画を包む光は、一部しか見えなかったという文字を照らし、その文章の一部を照らし合わせていく。
《この世界に、また脅威が訪れるであろう。》
文章はまだ長く続いている。
しかし……光は徐々に眩さを失い、再び姿を消してしまう。
「待って! 今のは何!?」
ステラは壁画を前に声を上げる。
今のメッセージは何なのか。
その言葉は、“当時の時代”の出来事を記した記録のようなものではなかった。
何者かの遺言。そして予言。
不吉な言葉。その言葉は跡形も残らずに壁画の中へと溶けていった。
「今のは……今の現象は一体!?」
ステラは眼鏡を何度も正位置に戻すを繰り返す。
今までにない現象が起こったことに興奮しているのか……体は痙攣に近いほど震えており、彼女に指を鳴らす隙を与えない。
「君! 一体、壁画に何をしたの!?」
原因があるとすれば、恐らくラチェットである。
彼が近づいた途端に壁画が光ったのだ。ステラはそう考察してからは、地面に座り込んでいるラチェットの体を揺さぶっている。
「もう一度、あの光を! 早く続きを……」
「おい、やめろ!」
スカルは慌てて、彼女をラチェットから引き離す。
当然だ。いきなりの出来事にラチェットは気分を悪くしている。今も立ち上がらないのは目の眩みと頭痛が止まらないからだ。
体調不良を小声で訴えているラチェットにそれ以上のダメージは与えないようにと、何でも屋のリーダーとして、彼の身を案じての行動だった。
「……ごめんなさい。興奮してしまって」
今の行動は流石に不埒であったとステラも謝罪をする。
興奮のあまり我を失っていた。
姿勢を低くし、目を瞑ったまま立ち上がらないラチェットに小さく呟いた。
「いや、いい……問題ナイ……」
目が回復したのか、ラチェットは仮面をつけて、そっと目を開ける。
まだ目がチカチカする。先程の発光のダメージが大きいのか、視界にはいくつもの光と黒い斑点が見え隠れしていた。
頭痛はもう問題ない。そう口にすると、フラリフラリと立ち上がる。
「……この壁画、何かあるわね」
ステラは壁画の前に置いてある一冊の魔導書を手に取った。
彼女が魔導書のページをそっとなぞると、魔導書は内側から白い光を帯び始める。
『こちらワイス。どうかいたしましたか?』
その場で聞いたこともない声が響く。
ラチェットは思わず周りを見渡す。自分たち以外にも人がいるのかと首を風見鶏のように動かすが、それらしき人影は一切見当たらない。
まさか、あのステラという学者は幽霊と喋っているのか?
学者という立場の癖に、オカルトかつ、ノーロジカルなことをしているのか。
「落ち着け。魔導書を使って遠くの誰かと会話してるだけだ」
この世界には電話というものが存在しない。
あの魔導書が電話の代わりという事か。さすがは数多くの現代人から崇められている古代人様が遺したマジックアイテム。あまりの多種多様さに拍手喝采である。
「こちらステラ……壁画に何らかの変化がありました。その事象をこれより報告いたしますので記録を」
『わかりました。少々お待ちください……』
……ステラは誰かと会話をしているため、手が離せない。
彼女は自分の世界に入りやすい性格なのかもしれない。古代人の事を話そうとしたときも熱中してたし、未知なる現象を前に我を失っていたりでと、忙しい女である。
熱中に身を浸すステラの会話はマシンガンのように続いている。
終わる気配が……しばらくは来そうにない。
「どうする?」
「……とりあえず、待つか」
去るにしても終わってから去ることにしよう。
妙な誤解をされたままだと、面倒で仕方ないからであった。
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