閉幕 『おはよう。』
「……」「……」
ラチェットはコーテナを背負いながら夜道を彷徨う。
(戸惑ってたな……まぁ当然だよナ。いきなり別の世界からやってきた人間だなんて聞いて普通でいられるはずがネェ。オススメの病院なんて紹介されても文句は言えねぇからナ……でもよ)
「すぴー」
(いきなり黙り込んだと思ったら、突然気を失って爆睡するなんて思わねぇだろうがよォオ……!!)
正体を明かした。自身はクロヌスの人間ではないと。
しかしその直後の事だった……コーテナはリアクションを取ると同時に倒れて眠ってしまったのだ。最初はビックリしすぎてオーバーなリアクションでもしてるんじゃないかと思ってしまった。
「むにゃむにゃ……」
(……それだけ無理してたって事だよナ。無理もねェヨ、こいつはずっと耐えてきた。バカみたいな大人の理不尽、救い一つやってこない絶望の世界に……この日までずっと)
少年は少女を助けるために奮闘した。
出会って数日もたたない関係だった。でも彼女の姿を見て自分の過去を思い浮かべてしまったラチェットは放っておくことが出来なかった。
今こうして少年の背中には、決死の思いで助けた少女が眠っている。
「むにゃむにゃ……もう食べられない……」
「呑気な夢を見られるくらいに落ち着いたってカ……魔物が現れたときには叩き起こすから覚悟しとけヨ? このバカヤローが」
少年は少女を背負いながら先へと進んでいく。
「……確か、この先をずっと走ればいいって言ってたな」
彷徨ってこそいるが、何も暗中模索というわけではない。
・
・
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----数時間前。屋敷潜入前。
『よいしょっと。さてと、それじゃ張り切って屋敷の方へ』
『どこに行くつもりだい? こんな夜中に?』
『ひぃいいッ!? なっ、まさか見つかって……って、トレスタ?』
『ずっと君の様子を見てたんだ。あの
『……悪いかよ。止めに来たって事か? あのクソ野郎に頼まれて、』
『もし彼女を助けられたのなら……この村から北の方へ。あぁ、そうだ。門がある方向とは逆方向にずっと走っていけばいい。ずっとずっとずっと北へ、そうすれば街が見えてくる。そこに僕の知り合いが経営している宿があるんだ。この手紙を渡せば……ちょっとは話を聞いてくれるかもしれないよ』
『……助けてくれるのカ?』
『約束して。もし捕まってしまったら直ぐにその手紙の封を力強く押して。それには仕掛けが施してある。君の危機に反応して、自動的に焼却処分さえるはずだから』
『……まぁそうだよナ。面倒ごとに巻き込まれるのだけは御免だろうし……でも、ありがとう』
『元気でね。また会う日があったのなら、その時はいっぱい話をしよう……健闘を祈るよ、戦友-----』
・
・
・
宿を出てすぐにトレスタが身構えていた時にはそれはもう驚いた。
しかし彼は遠回しながらも助け船を出してくれた。こんな薄汚いネズミに。
「……少しだけ、信じてみるヨ」
言われたとおりに北を目指す。
「むにゃっ。アレ……?」
「……あぁ、起きた?」
----もう二度と信用しない。と誓った他人の言葉を、今回は信じようと思った。
少なからずあの青年との出会いは……彼にとって、小さな幸運だったと信じて。
皆様方、はじまりの物語は如何でしたでしょうか。
夢を持たない少年。そして夢を望む少女。
その肩書は全く違いながらも、胸にある思いはどこか似た者同士の少年少女。
この二人の出会いは偶然だったでしょう。
でもこの物語が始まることは……少年少女の決意によって生まれた必然だったのでございます。
二人の旅はこれから始まります。
しかし当然、道連れ旅を口にするだけに二人には困難が立ちはだかります。
その困難は苦悩と葛藤の連続。
対処のしようがない試練さえも平気で畳みかけてくることでしょう。
……ですが、少年少女の旅は苦難ばかりではございません。
その旅には当然、それと同じくらいの”出逢い”がございました。
それでは、今日のお話はここまで。続きはまた次回。
困難だけど陽気。心が躍るような物語をご用意しておきます。
少し軽快なリズムには涼しげなレモンティーを。
それではまたこの場にて、この時間でお会いいたしましょう。
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