第17話 復讐映画2
2.
「彼女__自立型処刑用アンドロイド、通称AFI type Eは、私達3人の手で作られたアンドロイドだ」
普段のよく通る声が涙声になって少し掠れたまま、シミズさんが言った。
「AFI……ですか?」
3人が作った、という点は何となく分かっていた。だから僕はあえて触れなかった。
「Android for Independenceの略称だな……俺らは頭文字からアフィと呼んでいたよ」
キムラさんが眼鏡を外し、袖で目元の涙を拭って言った。
「とっ、当時のアフィは良い子だったのに……あんなに反抗的になんて……」
怯えているのか、寒そうに小さく震えるテツさんが、悲しげに小さな声で言った。
「当時の事……もう少し教えて貰えませんか?」
「あぁ。あれはもう10年程前になるのかな」
シミズさんは映画館のボロボロの天井を見上げて、昔のことを噛みしめるように話し始めた。
私は当初、人工知能の研究を行っていたんだ。携帯端末や自動車、家庭へと、人工知能が身近な物になっていくに当たっての更なる発展……とでもいうのかな、そういった研究を通して、より精度の高い人工知能を作ることに専念していたよ。
そんな時かな、人の身体に近しいアンドロイドを作成したという発表があった。当時の私はそこそこ有名で名前が知られていてね、研究を利用した企業開発の仕事が積み重なっていて、息苦しかったんだ。だから研究室からこっそりと抜け出して、息抜きがてら覗いてこようと思ったんだ。
そこでキムラ君と知り合って、例のアンドロイドを見せてもらったんだ。あの時の事は今でも鮮明に覚えているなぁ……。機械らしさを完全に切り捨てた、人間と同じ姿をしたアンドロイドがそこには居たんだ。皮膚に極限にまで薄くなった映像ディスプレイが使われていて、肌の色も自由に変えられるし、何より人間の血液の様にエネルギー体を液体状にして、体内に循環させているのにも驚いた。ただ問題点も多く、処理機能が遅く、元々の知能としては不完全だったんだ。
そこで私はキムラ君と手を組み、自分の人工知能の研究とキムラ君のアンドロイドの素体と合わせた、完璧なアンドロイドの作成を目指した。
私は抱えていた他の研究を全て部下であるテツ君に任せ、完璧なアンドロイド作成研究へと没頭していった。
途中で様々な問題点にぶつかったよ。私の作った人工知能達は、キムラ君の素体に入れるには大きすぎてね。如何にして圧縮できるか、いざ組み込んだ時にしっかりと正常に働くのかなど、困難が続いた毎日だった。
4年かけて取り組んだ研究が、4分の実験で無になった事もあった。自分の今まで積み上げてきた研究が全て無駄だったのではないかと、考えさせられる事もあった。企業開発をテツ君に任せっきりにして、ほったらかした為に、企業や部下達に見捨てられた事もあった。そんな部下の中でもテツ君は1人残って、私達2人のサポートをしてくれていた。
そして初めのアンドロイドと出会ってからおよそ9年目にして、私達は一体のアンドロイドを完成させたんだ。
それが彼女、アフィだった。彼女は毎日色んな事を学習し、命令には必ず従う、見た目は人間と何ら変わりのない、1人の少女のようだった。
研究費用が底を尽きる寸前だった私達だったが、彼女の発明によって様々な企業から、まるで手の平を返したかのように依頼が殺到したよ。私達は一躍有名になっていった。
そうして新たに獲得した資金で、私達はアフィの後継機を製作し、量産化して世界的に認知を広げていった。
色んな経験をアフィや後継機達に体験させていく中で、最初は物静かで、どこか機械的な雰囲気が残っていた彼女達も、柔らかく人間の様に笑うことを覚えていった。
そんな折は突如として訪れたんだ。死刑判決を受けた犯罪者の処刑を、アンドロイドに任せたいといった依頼だった。だが、私達は何かあった時にと、彼女達が命令されようとも、人を殺める事は出来ない様にプログラムしていた。
私達は危険を承知で、初代であるアフィから、このセーフティとなるプログラムを取り除いた。だが、結果として彼女は人を殺める事はしなかった。他の機体でも同様にセーフティを外す試験をしていった。最初からセーフティを取り入れない状態の新しい機体でも試していった。だが、彼女達は変わらなかった。いつからなのか、生み出した段階からなのか、彼女達には人間でいう善意だったり、良心といった感情が芽生えていたんだ……。
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