第14話 脱獄映画3

3.

「雨がひどくてね。少し早く来てしまって申し訳ない」

穏やかな波が波紋状に広がるように、落ち着いたトーンが館内に響いて消えた。

3人の男性達が開かなくなった自動ドアを手で開けて、雨に濡れた服をパタパタとはたいた。

僕は改めて男性達を見つめ直す。その視線から何かを察したのか、男性達のリーダーは自己紹介させてくれと言って、順番に名乗り始めていった。

3人の内の2人を纏め、リーダー格のある落ち着いた声の主は、自身をシミズと名乗った。体格が良く、スポーツマンの様にも見える。

3人の中で一番背が高く、長髪の人物は、自身をキムラと名乗った。銀縁の眼鏡が理知的な印象を持たせている。

そして、3人の中で一番ボロボロの服装で、街中と監禁時に出会った人物は、自身をテツと名乗った。小柄でどこか落ち着きのなさが見えた。

僕も自己紹介を返そうとしたが、彼女が僕の口に手をやって制してきた。

「それで、どうやって殺して欲しいのかしら?」

彼女はもう一方の手で握ったり開いたりを繰り返して、明らかに殺気混じりな視線を男性達に向けて放っている。自分の住処に敵が侵入して来た事を、一切許さないといった眼差しだった。

「……やはり君は本当に強いロボットだな」

リーダーのシミズさんがポツリと吐き出す。そして、

「だが、君は強いだけのロボットでしかない」と更に続けた。

その言葉に答える様に彼女は手を強く握って、拳を作る。

「私の何を知っているというの……?」

彼女は威圧的な声で男性に問い掛ける。返答次第では、直ぐに飛び掛かって襲いそうだった。

「君の正体を……私は知っていると言ったら?」

男性のその言葉によって、彼女の背から殺気が霧散して消えていくのを、僕は感じ取った。彼女の固く握り締めた拳は、力が抜けて緩んでいく。僕自身もまた、その言葉に驚いて、目を大きく見開いていた。

そして男性は、よく通る声で続きをスラスラと述べていった。

「君の正体……それは、正式名称を自立型処刑用アンドロイドという。地球が滅んでしまうと分かった政府と研究機関が制作した、人類が移住した先で犯罪を犯した際に、その対象を罰する機能を搭載したアンドロイド。まだまだ研究途中で試作段階だったが、その内の数少ない成功例、それが君だ」

僕は放心状態にあった。彼女がアンドロイドなのは知っていた。それでも人間を処刑することを前提としたアンドロイドだとは、僕は思ってもいなかった。

「……違う、貴方の言っている事はデタラメよ」

彼女もどうやら驚いている様で、さっきの威勢が消え、普通の可憐な少女のように、弱々しく震えていた。僕はそんな彼女を抱き締めようと手を差し伸べようとしたが、男性の「処刑」といった言葉に、手が空中で止まってしまう。

「そこの君も薄々感じていたんじゃないのか。彼女は人間とは違う。人間に必要な一部が欠落していると」

長髪の男性、キムラさんが眼鏡をクイと上げて僕に問い掛けてきた。

「…………」

僕は頭では咄嗟に反論したかったが、思い当たる節の数々に混乱し、上手く言葉が出て来ず、口をパクパクとさせただけだった。

「そして……」

キムラさんが何か言いかけたと同時に、彼女は僕の正面から、瞬間的に飛び出した。まずい、と男性達の方を見るも、男性達は襲われる事なく、彼女はそのまま走って通り抜け、その先の自動ドアをバリンと割って突き抜けて、映画館を振り返る事なく、深夜の豪雨の中を走り去ってしまった。

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