第69話 孤児院 [傭兵]
――
その後、順番に部屋を回ったが、どの部屋も男や、男達が部屋の隅に重ねられていた。
最初は驚いて確認したが……
ある男の首には、ガムテープの様な物が張り付けられていて、そのテープからはじわりと生ぬるい液体が染みて来ていた。他の男の中には、腕や足が折られている奴もいた……急いで戻した。
……恐らく、順番にユミルが始末して行き、その後で入ったジュウが処理をしたのだろう。それにしても……この孤児院はどうなっているのだろうか。
余りにも好き放題、やりたい放題に子供達が扱われている気がする。
……幾つかの部屋では、白くて丸い錠剤が落ちていた。調べるまでも無いが、恐らく薬物の類だろう。持ち帰って、今井さんに成分を解析して貰う事にする。
何の成分で出来ているのかが分かれば、子供の体内から薬を抜く、役に立つかもしれない。
……その後、2階、3階と確認したが、どれも同じような感じだった。
ただ、中には部屋内に複数人の大人がいて、集団での乱暴が行われた跡の残る部屋もあった。
……再び
その落ち着きも、次に入った部屋で消し飛んだ。
最初に、俺の目に飛び込んで来たのは、目の前でガリガリにやせ細った少年の姿。そして、その体に付けられた数多の”根性焼き”……部屋の中には、少年と
部屋の中には、煙草の煙とその残り香が漂っている。
微かに目が開いている少年に声を掛けた。
「……その傷は誰にやられた?」
「……、、……、……」
微かに話しているが、聞き取れない。
……耳を少年の口元に近づけた。
「……ぁ……ぁり、がと……」
”ありがとう”そう聞き取れた。
もちろん、横で転がっている男に対してでは無いだろう。
「……もう大丈夫だ」
そう少年に答えて、縛られている男に向き直った。
……口元のテープを剥がす。
「だれがぁ――!」
……首元を、軽い力で抑える。
……昔、ある男が言っていた。『どんな生き物にも、生物としての構造がある。構造には、絶対の強度なんてものはない。例えばほら、どんなに筋肉を付けていたとしても、首元の筋肉は鍛えにくいだろ?それに、こんな風に、”つぼ”を押さえれば、呼吸さえ止めてしまえる――』
「……俺の質問に答えろ」
男が、必死に目で頷いている。……男の様子を見て、手を離した。
この抑え方をすると、酸素が届かなくなり、酸欠状態に陥るのだ。
手を離した瞬間、溺れるように空気を吸い込んでいる。
「ブハァ・ハァハァハァ……スーハ―……」
男の呼吸が落ち着いてから、問い正す。
「さて、この子に、”これ”をしたのは、他に何人いる?人数と特徴を言え」
「……このガキを……俺の他に10数人いた。中には、食事を抜いた後、ネズミを食わせていた奴もいたな…………あぁ、特徴だったか……そうだな、一人は短髪で耳に髑髏のピアスをしていて……」
…………
暫くの間黙って話を聞いていたが、ヘラヘラと自慢話をするかのように話す男に、我慢の限界が来ていた。
「…………おい、この少年にした事を後悔しているか?」
「ぷはっ! ははは……そいつは貧弱すぎるってんで捨てられた子供ですぜ? 悪運が強いのか、何なのか、結局こうして10数年生きてきましたけど――『カキョンッ――』」
男の頭を挟むようにして掴み、力を入れずに回した。何となく、どうしたら少ない力で
―――――……男の眼球がクルリと動き、光を失っていく……何となく、男の妙な落ち着きが気になったが、もう済んだ事だ。
「……名前は?」
沸騰している血を落ち着かせながら、少年に声を掛ける。
「……、、、……」
耳を近づけると、こう聞こえた。
『なまえ ない です』
……少し考えた後、口を開いた。
「よし……”ハクエン”だな」
我ながら、残念なセンスをしていると思う。
トラウマ級の記憶を、名前に付けるなど……『やっぱり、違う名前にするか』と思って、少年の顔を見たら、何も言えなくなってしまった。
「……ぅっ……ぅぅッ」
涙を流して泣いている。
……その涙を見て、ふと呟いていた。
「誕生日、おめでとう……かな?」
「……ぁ、、ぅ……」
掠れた声だったが、確かに『ありがとう』と、聞き取れた。
――
”ハクエン”に『後で迎えに来る』と言い、男を廊下に引きずり出した。
その後も順番に確認して行ったところで、正面からユミルとジュウが歩いて来た。
……ユミルが一人、ジュウが二人の男を拘束して、歩かせている。
「カグラ様、攻略完了しました」
「お疲れ様……それは?」
……男達は、手足を結束バンドで拘束されている。両手はきつく縛られているようだが、両足の方は少し間隔を空けて縛ってある。
恐らく、間隔を空けているのは、自分で歩く事が出来るようにそうしているのだろう。歩ける間隔ではあるが、走り出せるほどではない。
「この者達は傭兵です。……恐らく、孤児院に雇われたのでしょう」
「……傭兵?」
拘束されている男達の目には、鋭さがある。拘束されても、尚この視線を向けて来る……相当数の修羅場を、くぐり抜けて来ているのだろう。
それにしても、傭兵を拘束して歩いているホテルマンって……
ホテルマンって何だろう……
”ホテルマン”と云う職業が、どんなモノだったか分からなくなる。
「はい”傭兵”です。一応私の判断で生かして連れて来ましたが……」
「……うん。まあ、そうだね」
……傭兵なんかを連れて来て、俺にどうしろと言うのだろうか?
……ジュウを見ても、沈黙している。
「……取り敢えず、中央ホールに行こうか」
「「
一先ず、予め決めていた集合場所に向かう事にする。
一瞬だけ、
――
中央ホールに来た。
ホール内に入ると、そこは4人掛けの長椅子が均等間隔で設置され、正面には十字架がある。
……多分、”教会”というモノだろう。内部は、廊下と同じく薄い灯りが点いているが、光が弱い。3メートル離れれば、相手の顔がぼやけてしまう。
そんなホール内の真ん中に、ペンライトの光が灯っている。
「早かったな」
リョウに声を掛ける。
「スピート重視で攻略しましたので」
「それで、そいつは……”傭兵”か?」
リョウ達の前に膝を付いている男に目を向ける。
こちらが連れて来た”傭兵達”と同じように、両手足が拘束されている。ただ、俺達の連れて来た傭兵達と違い、一人連れられて来た男の目には鋭さが無い。
……元々そうだったのか、それともリョウ達が何かした結果なのか……男の様子を伺う限り、後者の可能性が高そうだ。
「はい”待機部屋”に居た所を……」
「……話せるようにしてくれるか?」
俺の言葉に頷いたリョウが、イタチに合図する。
「何でも質問して下さい……」
イタチが、口元のテープを剥がすと、傭兵の男が震える声でそう言った。
……本当に、リョウ達は何をしたんだろうか。
「……お前たちの目的は?」
「”商品の護送”です」
俺の問いに、間髪入れずに答える。
”商品”が何かは考えるまでも無い。
「仲間は全部で何人だ?」
「……24名でした」
各監視塔に3名づつ居たとして、合計12名。残りの12名が居るはずだが……
「……私の方には、各階に4名ずつ居ました」
ユミルが答え、隣のジュウも頷いている。
「こちらにも、同じ人数が居ました。3人一組を基本単位にしているようなので、施設内においては全て排除済みと云う事になります」
リョウが、分かりやすくまとめてくれるが……其々
リョウ側の生き残りの傭兵が、酷く怯えていたのは、これが原因かもしれない。逆に、こちらの傭兵3人が一つの班で、恐怖感が薄かった。と考えると、其々の状態が理解できる。
「分かった……それじゃあ、他にも幾つか聞くが、リョウ達も気になった事は確認してくれ」
『
……てっきり、拷問の時間だと思っていたのだ。
……流石に、血が飛び、叫び声を押さえつけ……というスプラッターな展開は嫌だ。
その後、イヤに協力的な傭兵に質問を続けた。
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