第57話 黒い人脈
――
昼食を食べ終えた後、マムから報告を受ける為に、一人部屋に戻っていた。
「それで、何が分かった?」
「はい、パパ。人の繋がりと、その力関係、資金源と資金のプール先が分かりました」
……想像していた以上の成果だ。
「流石だな……話を聞こうか」
「はい、パパ! 先ず、”NPO法人にちじょう”に関してです。結果から言うと、鈴屋引いては岡本の資金洗浄に使われている団体でした。それに、鈴屋に関して言えば、言わば”経済ヤクザ”で、その金脈は、裏社会のみでなく政財界へと通じています」
……鈴屋さん、真っ黒じゃないですか。
「それと、チャリティイベントでは、収益を少なく報告し、金銭の分配をしていたようです。これには、他にも幾つかの団体が関わっていました……」
チャリティイベントでの不正か……
「また、その関わっていた団体を調べたところ……幾つかの孤児院がありました」
「おい、まさか……」
「はい、恐らくパパの想像している通りです」
「……聞こう」
「幾つかの孤児院は、孤児の販売や提供をしています」
「……近いのか?」
距離の話だが……
「次の”出荷”まであと2週間ほどです」
「……場所は何処だ?」
……出荷ね。
「場所は日本全国に点在していますが……一番大きな拠点は関東園内にあります」
……そんなに、存在するのか。
「そうか、分かった……」
「パパ?」
俺がやることは決まっている。
「少し用事が出来たな……」
「……パパ、マムは何をすれば良いですか?」
「そうだな……助け出す際のサポートと、情報網の監視及び、必要に応じての妨害を頼む」
これは、マム以外には不可能だろう。
「はい、パパ!」
マムの返事を聞いた俺は、一つ頷いて部屋を出た。
――
部屋を出た俺は、ホテルのカウンターに来ていた。
「やあ、ちょっと良いかな?」
カウンターには、ホテルマンの女性が居る。
もう何度も話をしているので、慣れて来た。
「はい、何なりと」
女性の返事を聞いてから、口を開く。
「それじゃあ、明日の昼頃……今と同じくらいの時間までに、車……なるべく人が沢山入る車が良いけど、30人くらいが乗れるのが理想かな……それが、2台いや、3台」
「……はい、承知しました」
……何も聞かないんだな。
「それと、運転手も3人頼みたい」
「承知しました。他には何かご要望はございますか?」
女性が、普段と変わらぬ微笑みを向けて来る。
しかし、流石に『ある孤児院の子供達が売られて行きそうだから、奪ってくるのを手伝え』なんて、頼むわけには行かないだろう。
だから……
「一週間くらい、”行っては、帰って”を繰り返す事になると思う。その際に人も増えるから、部屋を沢山……20室くらい貸して欲しい」
そう言うと、女性は一瞬考える姿勢を取った。
……初めて見る反応だ。
流石に怪しすぎるかな?と思っていたが、予想に反して、帰って来た言葉は、いつも通りだった。
「承知しました。
「……ああ、頼んだ。あ、それと今日の夜なんだが……」
若干、引っ掛かりを感じたが、もう一つの依頼をして、部屋へと戻った。
――
部屋に戻ると、サナが飛びついて来た。
「おにいちゃ! そとに行くときは、さなもいっしょなの!」
……何か美味しいものを食べに行ったと思ったのかな?そう思って、サナの顔を見つめたら、サナが目じりに涙を蓄えていた。
「……悪かった。サナを次からは連れて行くよ」
「ほんとに?」
「ああ、ほんとに」
「いつでも?」
「ああ、いつでも」
「どこでも?」
「ああ、そうだな」
「おいてかない?」
「ああ、もちろん」
諭すように、
……後々、困った事になるとも知らず。
――
その後、サナの相手をしていら、他の子供達も入って来て、結局みんなで遊んだ。
なにで、って?
このホテルでは、複数人で遊べるおもちゃを買う事が出来るのだ。
……一時間くらいは、人生を双六に模したボードゲームをした。その次は、海賊の入った樽に剣を順番に刺して行き、剣を刺して、飛び出た人が負けのゲームを。その次は……
そんな風にしている内に、すっかり夜になっていた。
「さて、皆……明日の朝、ここに居る15人を空港へと連れて行く事になる。だから、今日の夕食は最後に皆で食べる夕食だ」
俺が言った言葉を、ミンが訳してくれる。
「それで、だ。今日は、夕食を特別な場所で食べる」
俺がそう言うと、サナが飛びついて来る。
「とくべつなの~?」
しかし、大半の子供は、意味が分からずに”?”を浮かべている。
「ミン?」
「あ、はい!」
我に返ったミンが、子供達に説明をしている。
「……と言う事だ、どうかな」
一瞬の間があって、子供達がわぁ!っとはしゃぎ始めた。
……はじめは、体調の悪そうな子供もいたが、大分回復しているみたいだ。これなら、故郷に戻っても大丈夫だろう。それに、マムには最低限の食事が取れるように、根回しをして貰っている。
「さて、”ドレスコード”が有るから、皆で着替えに行くぞ!」
「どれすこーどなの?」
「そんなに良いレストランに……」
「よいのデスか?」
……サナ、ミン、テンが其々反応を返す。
「良いんだよ。ほら、さあ行こうか!」
意味が分かっていない子供達も、俺が『オー!』っと、手を挙げると、まねして『お~!』と言って、着いて来た。
――
その後、
そして、ここは海が近いのと、工業地帯が近いのもあって、夜景がとても綺麗に見える。
「お兄さん、ありがとうございます……皆での思い出になります……」
テンと手を繋いでいるミンが、静かに言う。
実は、中に入る前に『ここは、利用する際に、手を繋いではいるのが決まりなんだ』と言っておいた。……当然、そんな決まりなど無いが。
「良いんだ。それに、ほら、皆の顔を見ると……満足だろ?」
そう言って、ガラス張りになった窓に、張り付いている子供達を見回した。
「はい……」
ミンも気に入ったみたいだ。
しばらく、最上階からの夜景を楽しんでいたが、サナが手を引く。
「……おにいちゃ、おなかぐ~ってしてるの」
……そうだよな。
「それじゃあ、座ろうか……今日は、皆が好きな物しか出てこないぞ」
予め頼んでおいた中に、『子供達がより沢山食べていたもの』をレストランで出して欲しい。と、お願いしていた。
「……かにのサラダなの!」
「ああ、皆に好評だったからな」
「お兄さん、ハンバーグ美味しいです!」
「ああ、そうだな」
「コレ、マイニチアキナイと」
「……鳥の丸焼きだな」
「おにいちゃ、”はんばーがー”?」
「ふふっ、最後に出て来るさ」
……こんな感じに最後の夕食の時間は過ぎて行った。ただ、この場所に今井さんが居ないのが、残念でならないが、落ち着いたら一緒に遊びに行けば良いだろう。
――
一通りの食べ終わった後、部屋に戻って来ると、子供達はおもちゃで遊び始めた。
中でも、海賊の樽に剣を刺して行くゲームが人気らしかった。
あの、いつ飛び出すか分からないハラハラドキドキが、たまらないのだろう。
向こうに行く時に、プレゼントしよう。
そんな風に思って、寝室へと戻った。
少しして、俺が居ない事に気が付いたサナが、部屋に入って来た。
「あのね、きょうはたのしかったなの!」
「そっか、何が一番楽しかった?」
「えっとね、キラキラしてるのと……はんばーぐ!」
「……そうだね、美味しかった」
……恐らく、サナが言っているのは”ハンバーガー”なのだろうが、どちらも大して変わらないから、良いかな。と思う。
その後、サナが話している内に、スヤスヤと寝息を立て始めたので、ベットから距離を取って、マムに話しかけた。
「マム?」
「はい、パパ! ……別に羨んではいません……直にマムだって……」
「そうだな……それで、今井さんは居るかな?」
「マスターは今ホテルに帰る途中ですが……今は少し危険な……いえ、戦闘力の差を考えると、ミジンコが跳ねている位なものですが……もう少ししたら”電話”出来るかと思います」
何やら危ない目に合っているらしいが、マムの話す内容を考えるに、問題なさそうだ。
「それじゃあ、待ってるか……」
「はい、パパ! ……それでですね、マムは思ったのです! パパには……」
その後、今井さんから連絡が来るまで、マムの”計画”を聞く事になった。
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