第56話 ハンバーガー
今井が、フォーラムからホテルへと戻って来た頃、正巳もホテルに着いた処だった。
◆
「……今日は部屋で休もう」
車から降りた正巳は、一人呟いていた。
「お運びしましょうか?」
正巳は、スヤスヤと寝てしまっているサナを抱っこしながら、運転手に言う。
「いや、大丈夫だ……そうだな、部屋のドアを開けてくれれば助かる」
「……承知しました」
運転手が頭を下げると、先頭に立って歩き始める。
――
「……何か、いえ、
部屋の扉を開けてくれた運転手が、そう言いながらゆっくりと頭を下げる。
ギリギリまつ毛が見える位の角度だ。
この角度でのお辞儀なら、薄目を開けていれば、相手の動きが多少は把握できる。
……勉強になる。
「ああ、助かった。何かあれば頼むよ」
「ハッ!」
頭が深々と下がる。
……頭を下げても相手の気配~は、気のせいだったかも知れない。
「……それじゃあ、お休み」
「お休みなさいませ」
挨拶をして、部屋の中へ入った。
――
部屋に入ると、子供達が駆け寄って来た。
「……あれ? 夕食は、食べていないのか?」
子供達の、何処か飢えたような表情に疑問を覚える。
すると、ミンが教えてくれた。
「その、ココの食事は物凄く美味しいのですが……物凄く高いのではないかなと……」
なるほど、どうやら勝手に頼んではいけないと思って、我慢していたらしい。
「……それじゃあ、今日も昨日頼んだメニューの続きから頼むか?」
子供達の内、15人は二日後に帰る事になる。
それまではせめて、
……作れる思い出が、”沢山の料理を食べた”と言うのは少し
「……うふぅ……ごはんなの?」
「起きたか……サナは何が食べたい?」
車が止まっても、抱き上げても起きなかったのに、ご飯の話で目が覚めるとは……
「うんとねぇ……おいしいの!」
「……それじゃあ、美味しいのを頼むか!」
そう言って、子供達みんなの事を見回す。
「「「うん!!」」あいっ!」
……気合十分!と、言う事で、昨日の続きを順番に頼む事にした。
――
その後、運ばれてきた料理は、中東の料理が半分、欧州の料理が半分だった。
「……これ、おいし―のっ!」
サナが、もう3つ目になるだろう”ハンバーガー”を口一杯に頬張っている。
「……のっ!」
「こでっ!」
……子供達が、サナがハンバーガーを食べる姿を見て、羨ましそうに見ている。
「あの……少しだけで良いのですが……」
声を掛けてきたミンを見ると、子供達に服を引っ張られている。
「……あぁ、そうだな。ハンバーガーを追加するか……」
「有難うございます!」
……ミンがすごい勢いで頭を下げている。
「い、いや……何でもない事だよ……」
……もしかしたら、誰よりもミンが、一番食べたかったのかも知れない。
「あっ……」
ミンが恥ずかしそうにしている。
「……ほら、テン……」
「……?」
テンの脇を突っつくが、テンはまるで気が付かない。
……察しの悪い男だ。
「ちょっとミンの事を励ましてこい……」
「……? ハイ……」
まだ、よく分かってない様子だったが、それでも一応ミンの隣に移動している。
……いや、お前……自分の食べてた骨付きチキンを差し出すって……
……あ、殴られてる……
――
無事?食事を終えた後、今後の事を説明した。
始めは、興奮していた子供達だったが、暫くして落ち着いた子供達を、寝かしつけた。
子供達が寝付いたところで、俺は自分の寝室へと戻って来ていた。
……サナの姿が見当たらなかったが、案の定俺の寝室で寝ていた。
「……パパ、マスターから電話です」
パネルに現れたマムが、少し不安げな表情を浮かべている。
「どうした? ……と聞くより、本人に聞くか……繋いでくれ」
「はい、パパ」
マムが答えてから程なくして、パネルに今井さんの姿が映し出される。
……等身大のサイズの、テレビ電話だ。
「今井さん? ……大丈夫ですか?」
何処か、表情がすぐれない今井さんに声を掛ける。
「……うん、大丈夫さ! ……ちょっと久しぶりの人前で疲れちゃってね」
確かに、人前に出るよりは、籠って研究する事の方が多い今井さんだが……
「無理はしないで下さいね」
「うん……大丈夫。正巳君の顔を見たら元気が出たよ!」
今井さんの様子が少し心配だったが、その後『二日後に子供達を故郷に送る事』や、『取引相手が何やら怪しい事』、『あいさつ回りをしたら、自宅が燃やされた事』を話した。
始終、俺の事を心配して、自分の話を殆どしなかった今井だったが、『明日の夜、また電話しましょう』と言うと、何やら嬉しそうにしていた。
余程、一人で寂しい思いをしていたのだろう。
電話を終えた後、一人でシャワーを浴び、ベットへ戻った。
相変わらず、サナはベットに入るとしがみ付いて来たが……
少しだけ、ほっとしている自分が居た。
他人の気配が、こんなに心地良いと感じる時が来るなんてな……
そんな事を考えていたが、程なく、眠りの沼へと沈んでいった。
――
……暑い。
「ウゥ……ん?」
朝起きると、俺の寝ていたベットに、子供達が重なっていた。
……重い。
「……お兄ちゃん、おきたの!」
「兄さん、済みません……」
俺の上には、サナがいて、ベットの横にはミンが立っている。
そこまでは良いが……
「それで、どういう状況なんだ?」
「はい、実は、起きてから暫くして、”お兄ちゃんと寝たい!”って話になりまして……」
……見た所、7人はベットに乗っている。
「……はぁ」
「それで、今日の夜か、”今”かで二つのグループに分かれまして……」
今ベットに寝ているのが、”今”のチームか……
「はぁ……」
「それで、お昼寝をしている状況です」
…………?
「お昼寝?」
「はい、お昼寝ですが……?」
「マム、今何時だ?」
「はい、パパ! 今の時刻は、13時18分です!」
……寝すぎた。
「それで、朝ご飯は?」
「はい、パパ! それは、昨日と同じものを用意しました!」
パネルでサナが、胸を張っている。
そして、しっぽがユラユラと…………
「……お兄さん?」
「……あ、いや……良かった。何も食べて無いと悪かったしな」
そう言って、笑いかける。
「お兄ちゃん、ご飯食べるの?」
「ああ、そうだな……あ、サナ達も昼ごはんは、まだなのか……」
そう言うと、サナの顔が明るくなる。
「ごはんなの! はんばーがーなの!」
「……気に入ったのな」
サナが、”はんばーがー!”と言ったせいか分からないが、寝ていた子供達も起き始めた。
「「「ばーがー!」」なの!」
子供達の声に押される形で、昼食は”ハンバーガー”になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます