第37話 ある男の話
◆
その男は、成功者だった。
中東を中心に武器を密輸し、販売する。そんな組織の中心人物だった。
男が取引するのは、正規の方法では武器を調達出来ないような者達だ。
男が調達した武器の影響で、革命が起きたり、政権交代が起きたりする事もあった。
当然の事ながら、各国の諜報組織からその身柄を狙われていた。
それでも男は、何重にもよる防護策を張り巡らす事で、追手の追及を逃れていた。
そんな男のあだ名は、
男は恰幅が良く、不穏な気配を感じると、カモシカの様に俊敏に逃げてしまう。
捕まえるのが難しい、第一級の危険人物として、その名を知られていた。
そんな男の楽しみは、ギャンブルだった。
ありとあらゆるギャンブルをやり、その結果、普通のギャンブルや普通のスリルでは、満足出来なくなっていた。そんな時、取引先のある国の男から誘われたのが、デス・ギャンブルだった。
”デス・ギャンブル”と言っても、自らの命を懸けてギャンブルをする訳では無い。
命を懸けて行われるゲームの結果を予想して、その予想に賭けるのだ。
自らには危険が無く、それでいて最高純度のスリル・ギャンブルに参加できる。
かつて、古代王国では闘技場で人間同士に拳闘をさせたらしい。
現代では、人権だ何だと様々な問題から、人の命の掛かったギャンブルを行う事は出来ない。
しかし、ここでは”人の命”でギャンブル・ゲームが行われている。
デスゲームと言うだけあって、ほぼ100%の確率で参加者が死亡する。
そう、目の前で”死ぬ”のだ。
目の前で、理不尽な暴力によって失われる命。
それを見ながら、己の立場、己の成功、己の生を実感できる。
……
……
いつの間にか、デス・ギャンブルの虜となっていた。
そして、ある日キメラと呼ばれる化物が登場するデスゲームが開催された。
圧倒的スリルに、逃げ惑う人間……更にハマって行った。
しかし、そんなデス・ギャンブルだが、一点だけ毎回苦労する事があった。
それは、毎回ギャンブルの開催場所が変わる事だ。
通常、出資者(賭ける側)は、送られてくる映像を通して、遠く離れた場所から賭けに参加する事が殆どだ。わざわざ賭けの開催されている現地まで足を運ぶ者などいない。
しかし、なるべく近くでデスゲーム……命のやり取りを見たい男は、毎回賭けの開催される現地へと足を運んでいた。
そして今回は、アジアの島国の大使館で行うという話だった。
当然、打診があった際にその場で、現地参加の手続きをした。
開催国の空港に通常の旅客機で行く訳にはいかないので、空港まではプライベートジェットで飛び、空港まで大使館の車両で迎えに来させた。大使館車両は、治外法権であるので、中にいれば安全だ。
問題は、プライベートジェットから、車に乗るまでの間だったが、影武者を数人用意する事でどうにか問題なく入国できた。
そして、予定通りデスゲームへ参加。
夜中から未明まで賭けは開催される。
最初のゲームでは、見事に的中。
当然、賭けたのは『1.一撃死』だ。
賭けた分の金、1000万円 ―取引は開催国の通貨で行われる― が、3000万円になる。
レートは、2倍から3倍程度の倍率だ。
『3.生還』に賭けれは、10倍以上のレートだが、わざわざ金を捨てる奴もいないだろう。
となると、賭けるのは、『1.一撃死』か『2.三撃之死』だ。
賭けが実施される前、”準備室”の中にいる参加者の様子を見れる。
”準備室”に入った参加者の様子を見て、毎回直感に任せて賭けるのだ。
「よし、次のコイツは……2だな。中々しぶとそうだし、一撃くらいは避けそうだ」
そして……
「よおおぉおし!」
予想した通り、参加者だった男は一撃耐えた。
……しかし男は、二撃目で足を食われ、三撃目で命を落とす。
予想が的中し、また勝ち額が手に入る。
今モニターの中で起きた事は、一撃耐えた後のテンプレ的パターンだ。
一撃避けられた事に安心し、次も大丈夫だと思ってしまう。
極限状態故の楽観的希望。
故に、まさか”次は加速する”とは思いもしない。
そう、最初の一撃目は、あくまでも牽制であり、『ちょっと突いてみた』程度なのだ。
だからこそ、二撃目は避けられない。
いや、稀に、運よく生き残る者もいる。
3回の攻撃を避け、生還する。
そうして生き残った者は、その殆どが買われていく。
まあ、昔傭兵から、『自分を売り込むために参加者として出場し、五体満足で”生還”、その後自分を”傭兵”として売り込んだ人間もいる』と聞いた事があるが……ただの噂だろう。
何はともあれ、生き残ったとしても、参加者の殆どは奴隷だ。
自由になれるわけでは無い。
生き残った場合、”幸運のお守り”としてその多くがオークションに出品される。
”幸運のお守り”とは言うがその実、賭けに負けた出資者の腹いせ、ストレスのはけ口として使用されるだけだ。ロクな目に合わない為、ある意味、『デスゲームで死んでいた方が幸せだった』とも言える。
そんなデスゲームだが、今のところ勝っていた。
そして、目の前のモニターに映っている”次の参加者”を見ると、”準備室”で寝ていた。
……これは、新しい出資者が参加しているサインでもある。
新しい出資者……初めてに参加する際は、ゲームの親となって参加者たる人間を提供する必要がある。初めて”出資者”として参加する際に、人間を”提供”する事で共犯となるのだ。
このルールは昔から決められているらしく、各国の諜報機関が潜入するのを防ぐ目的もあるらしい。……潜入する為とは言え、国の組織が人間を提供する訳には行かないだろう。
それで、何故参加者が”準備室”で寝ているのが、”新しい出資者”のサインかと言うと、親は定められた範囲内でなら、提供する人間の”状態”を弄る事が出来る。
そして、多くの場合が、”睡眠薬での昏睡状態”を選択する。
当然、”昏睡状態”でゲームが始まったら、参加者の多くは一撃で命を落とす。
その確率は実に、90%オーバー。
親も自分の提供した人間の参加するゲームに賭ける事が出来る。
だからこそ、これはある意味歓迎。
ゲームの主催側から、初参加の出資者への歓迎なのだ。
それを知っているなら当然……
「『1.一撃死』に200億だ」
一応、”状態異常”で始まるゲームには、賭けられる金額の上限がある。
その上限が、200億だ。
『1.一撃死』に賭けておけば、90%以上の確率で勝てるのだから、上限が設けられていても仕方ない。その代り、このゲームは確実に勝てる。
しかし……
モニターの中では、男が「一撃目」を避けていた。
「ふざけるなぁ!」
思わず、手に持っっていた小型端末を、モニターに叩きつけていた。
叩きつけたモニターと小型端末は、その衝撃に耐えられずに砕けてしまうが……壊れてしまった端末を見ながら、男はどこか満足げな表情を浮かべている。
小型端末は、
「……こいつ、日本人の”ウエハラ”って言ったか、売りに出たら、必ず俺様が直々に可愛がってやろう」
そう、吐き捨てて部屋の呼び鈴を押した。
……オークションの開催時間を聞くために。
――
オークションは、その後すぐに開催されるという事だった。
……予想した通り、”ウエハラ”は”生還”した。
そして、”ウエハラ”は、オークションに出されると云う事だったので、すぐさま参加の手続きをした。
「……全く、200億を稼ぐには、どれだけの
男は、極度のサディストでもあった為、どの様に苦しめるかを想像してオークションの時間までを楽しんだ。
”拷問のフルコース”とも言うべき男の”スペシャリテ”を施す姿を想像していたが、オークション開始の案内が来たので、入札室へと入った。
入札室へと入った後、直ぐにオークションが始まった。
司会進行は、いつも通り白スーツにシルクハットの男だ。
『ようこそ、アニマルオークションへ!』
始めは、希少な生き物……若い頃、自身でも絶滅危惧種の売買をした事があった。
最初は、動物を扱うような小さい取引から始めたのだ。
それが、今では世界でも名の売れている”武器屋”だった。
「お、次だな!」
わくわくする。
ここまで俺は上り詰めて来た。
何度も死にそうになった事はあったし、ヤバい事は日常だ。
しかしそのお陰で俺は、人の命さえ買う事が出来る力を得た。
『さあ、入札をお願いします……はい、先ずは500万から~』
入札!
『お、紳士から1000万……はい、淑女に2000万!お次は……』
入札!
『はい、また紳士から3000万……またまた淑女が5000万!』
む……入札!
『一騎打ちとなりました~紳士8000万!……淑女から1億!』
……引けるかっ!入札!
『紳士、1億5千万!……はい、淑女から2億!』
入札!入札!入札……
「一体、あんな人間に幾ら出すと云うのだ!」
くそっ……これでどうだ!入札!
『おおっと!紳士から大台の10億の声です……淑女からは……13億!13億です!』
……くそっ、付き合ってられるか!
恐らく、入札で競っている女は90%死ぬゲームで生き残った”ラッキーボーイ”を、幸運のお守りとして加工するか、薬にして幸運の薬として使うかと言った処だろう。
「くそっ……”ウエハラ”がダメなら……」
男は、ストレス発散が出来なかったことにイライラするも、別の発散方法を思いついた為か、顔に醜悪な笑みを浮かべている。
「おい、そこの!私を
そう言って、担当として寄越された衛兵の一人に、”もうひとりの参加者”の元まで案内させることにした。
衛兵から、『上官に確認しますので、少々お待ち下さい』と言われたので、言われた通り部屋で待つことにした。
「なに、
そう呟くと、キメラに対して、どんな拷問をしようかと想像を広げるのだった。
――
男は、正巳たちが子供達を救出している間、案内された部屋に閉じ込められていた。
一応、男も要人な訳で、何かあっては不味いと、保護されたのがその実だったが、男は部屋で待たされるのに我慢ならず何度か
そんな男に、仕方なく出された一流シェフの作ったディナーが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます