新体験!就活オークション!

ちびまるフォイ

最高の落札額が待っている!

着慣れないリクルートスーツの襟を正し、

手のひらに「薔薇髑髏」の文字を書いて何度も飲み込み緊張をほぐす。


「次の採用希望者の方、どうぞ」

「はい!」


緊張しながら面接先のドアをノックして中に入った。


『さぁ、はじまりました!! 新入社員オーディション!!

 次のエントリーは、大学卒業したてのピカピカ新卒社員!!』


「え、ええええ!? なんですかこれ!?」


もっと静かな会場を想像していたが、案内された先はなぜかステージ。

客席には面接官とおぼしき人が、札をもって座っている。


『ルックスは可もなく不可もなくといったところ。

 趣味は普通に映画鑑賞。

 テストの点数はつねに平均点で、問題もなく学生生活を突破!!』


司会者は荒れ狂うマイクパフォーマンスで履歴書を読み上げる。


『この新人にいくらの値がつくのか!! 100円から入札スタート!!』


就活オークションの幕が切って下ろされた。











『あ、あの。参加者のみなさん? 入札はじまってますよーー……?』


こんなに悲しいことがあるだろうか。


これだけの人数がいながらも誰一人として入札してくれない。

100円すらも出したくないというのか。この俺に。


ここは何とかしてアピールするしかない。


「あ、あの!!」


意を決して立ち上がると、スマホで美少女を

延々タップしていた面接官たちの視線がやっとステージへと向いた。


「これでも、昔は部活動で部長をやっていました!!

 みんなをまとめる力には自信があります!!」


「それさっきも聞いたなぁ……」


会場の誰かが言ったのかわからないが、そのぼやきはハッキリ耳に届いた。

いまだに入札してくれる人はいない。


「べ、勉強も毎日コツコツ努力してきました!

 継続的な努力は得意です! きっとお役に立てます!」


「誰か台本読ませてる? 前と同じじゃん」


相変わらず会場はお通夜以上に冷え切っている。入札はされない。


「性格は明るく元気で、いつも友達の中ではリーダーシップを発揮して

 みんなをリードしてきました!!」


「友達相手だもんなぁ」


入札はされない。


「ケツで割り箸をみじん切りにできます!!」



「101円」


ついに、入札が1件入った。


『ここで入札。入札会社は……下水道の汚水処理係ですね!』


「ちょっ……そんな仕事なんですか!?」


『他に入札する人はいませんかーー? これで雇用先が決まりますよーー』


「お願いします!! お願いですから、入札してください!!

 他の会社であれば何でもいいです! お願いします!!」


必死に土下座しながらも誰も入札しない。

これが社会の冷たさなのか。司会者がカウントダウンを始める。


『5』


『4』


『3』


『2』


なにか――。


なにかないのか。


『1』



「お、俺!! 実はほかの大手企業からもたくさんオファーが来てるんですよ!!」


会場が一瞬しんと静まり返った。

そのあとで怒号のような声がなんども聞こえた。


「1万円!」

「10万円!!」「100万!」「100万1円!!」

「1000万!」「1500万!」「2000万!!」


「1億!!」


おお、と会場に歓声のような、驚きの声が響いた。


『ほかにいらっしゃいませんかーー? よろしいですかーー?』


他の企業からオファーが来ていると知った瞬間にこの変わりよう。


きっと、面接官なんて誰も自分の「人を見る力」なんて自信ないんだ。

大手からのオファーというお墨付きがなければ手を出すことすらしない。


みんな誰だってブランド志向になっているんだ。


『5』


『4』


『3』


『2』


『1』



『入札でーーす!! おめでとうございまーーす!!』


「ありがとうございます。いやぁ、入札されて本当によかったです」


入札した企業の役人がやってきた。


「やぁ、ようこそ『スーパー大企業株式会社』へ。

 君のようなフレッシュな新人が入ってくれるなんて心強いよ」


「いえいえ、そんなそんな。俺に1億円も出資してくれるなんてこちらこそ光栄です」


「ハハハ。君は何を言ってるのかね。大変なのは君の方じゃないか」


「……え?」




「だって、落札金額に見合う人材になるまで、

 うちで延々と働着続けなくちゃいけないんだから」



その日、俺は社会人という名の奴隷契約を済ませた。

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