自分を高めてくれるのはいつもライバル!

ちびまるフォイ

お前がそれを言うかぁぁぁぁ!!!

「はぁ、またこんな成績……」


息子が持ち帰ったテストの点数を見て、母親はため息を漏らした。


通信教材を試しても効果は出なかったし、

塾に通わせれば友達とのゲーム交流会になってしまい

家庭教師を頼めば社会の裏事情ばかり聞いて勉強がはかどらない。


「あら? なにかしらこれ」


今晩の献立をネットで探していると、サイトの広告に気になるものを見つけた。



【 ライバルを作って、2学期から成績を上げよう! 】



母親はライバル製造機のサイトにアクセスし、秒速で登録を済ませた。

しばらくして、息子の学校にライバルが転入してきた。


「はじめまして、今日からこの学校に転校してきた羅意原です」


「それじゃ席は、息子くんの隣で」


羅意原と息子の境遇は似ていたので、すぐに仲良くなった。

けれど、微妙な点差で毎回息子にテストで勝つたびに徐々に二人の仲は険悪になった。


「ちくしょーー! 今度は負けないからな!」

「ふふふ。次も僕の勝利さ」


圧倒的な差なら「頭の作りが違う」と諦められるが、

手の届く範囲で負け続けた息子はなんとかして勝ちたいと学習机にかじりついた。


「勉強嫌いだったうちの子がこんなにも自主的に勉強するなんて……!!」


『これがライバル製造ですよ。お気に召していただけましたか?』


母親はあまりの効果てきめんぶりに感動して、会社に感謝をしまくった。


ライバルの影響でめきめきと成績をあげた息子は、

今までは裁判のようだったテストが、エンターテイメントへと化した。


「今度は俺の勝ちだな、羅意原!!」


「く、くそ……! 今度は負けねぇ!!」


すでに学年ツートップの座をほしいままにし、

勉強の楽しさを理解した息子はもう誰に言われるでもなく

日常的に勉強するようになった。


その劇的な変貌ぶりを見て味をしめた母親はまたライバル会社に連絡をした。


「もしもし? あの、息子が家事手伝いをしてくれるような

 そんなライバルは発注できたりしますか?」


『お任せください。そんなの簡単ですよ』


定額料金を支払って、結果を楽しみに待った。


母親はてっきり「息子よりも家事をしているライバル」が登場するかと思っていたが、

誰一人として新しい転校生は来なかった。


「あの、ライバルはいつ来るんですか? いつまでたっても転校生が来ないんですけど」


『奥さん、すでに手配済みです。息子さんの変化をご覧ください』


社員に説得された母親は息子の変化を待つように家事を行っていた。

すると、ぎこちなさを残しながら息子がやってきた。


「……手伝うよ」


へその緒を切った日から今の今まで、

手伝うなどという言葉はなかった息子が始めて見せた姿勢に驚いた。


誰も転校していないのに、息子は確かに変化していた。


その理由は授業参観の日に理解した。


「羅意原くんって、お弁当とか自分で作ってるの?」


「まあね。今どき、自分のことくらい自分でできなきゃ。

 この年から少しずつ練習しておけば、後で苦労しないことはわかってるからね」


「なんて大人びた目線を持っているの! ステキ!」


息子のライバルは女子に囲まれて、あれやこれやと質問攻めにあっていた。

かたや成績で勝っているはずの息子は悔しそうにしている。


「これが家事を手伝わせるきっかけになったのね」


それからも徐々に息子は家事を手伝うようになり、

母親はだんだんと家の仕事を任せられるようになった。



「もしもし? 息子が買い物に行ってくれるようなライバルをお願いします」

「もしもし、息子が家にお金を入れられるようになるライバルをお願いします」

「もしもし。息子が家のすべてをできるようなライバルをお願いします」


母親はすっかりライバルの存在におんぶにだっこ状態となった。

母親の変わりようを見て、息子もなにか原因があるのではと考えた。


電話に残されている着信履歴をたどって、ライバル製造会社へとたどり着いた。


「母さん、ライバルを作って俺を変えようとしていたのか」


真実を知った息子だったが、結果的には自分にプラスになったので

とくに母親に対して怒りを感じることは無かった。


ただ、現在の堕落と怠惰をLサイズにまとめたような母親はさすがにまずいとは思っていた。


「あ、もしもし?」


『はい、こちらライバル製造会社でございます。

 本日はどういったライバルをお求めですか?』


「母が息子の俺に任せっきりで動かないんです。

 改善できるようなライバルっていますか?」


『もちろんでございます。すぐに発注いたしますね』


ライバル製造会社空の発注連絡後すぐに、近所に新しい家族が引っ越してきた。


境遇も、人間関係も、夫のポテンシャルも、すべてが母親に近かった。

多くの共通点がありつつも、母親より微妙に優れている。


息子はかつて自分が切磋琢磨したライバルの存在を思い出した。


「よし、あとはライバルを意識させれば元に戻るはずだ!」


息子は意を決して母親に声をかけた。


「母さん、あっちの奥さんは家事とかやっているみたいだよ。

 ほとんど同じ境遇なのに、母さんはやらないの?」


競争心をあおるように息子は言った。

母親はまっすぐに答えた。




「よそはよそ。うちはうち」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分を高めてくれるのはいつもライバル! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ