バリケードの向こう側

ぶり。てぃっしゅ。

序章

「絶対に足を…踏み入れてはいけない…」


よくありがちな映画のキャッチコピーのような言葉。これは無論、キャッチコピーなどではない。ある事件の生存者がインタビュー中にポツリと言った言葉だった。その生存者の名前は、斉藤 和哉。都内の大学に通うごくごく普通の大学生だった。彼は病院のベッドで上半身を起こし、部屋の窓から外を見ていた。医者が言うには、彼が病院に搬送されてから一度も食事を取っていないとの事だった。それを象徴するかのように彼の頬は痩せこけ、目に力が無かった。週刊誌の記者である私はある記事を書くために上司から彼の話を聞くように言われていた。彼の話とはここ数週間のうち週刊誌、テレビ、スポーツ新聞…ありとあらゆるメディアで取り上げられた、とある場所で起こった事件の事だ。場所はT県の人里はなれた山の中うっそうと生い茂る森の中にある廃病院だ。子供からしてみれば、何をしても叱られる事のない場所はすぐに遊び場になる。全国に点在する廃屋や廃病院などは窓ガラスが割られたり、スプレーで「参上」だのなんだのと書かれたりし、荒らされたりするのが普通なのだが、この事件の舞台は違った。この病院は特に荒らされた様子も無く、カラースプレーによる落書きやガラスの破損なども無い。ただ、その完備された風貌が普通の廃病院とは違う様相をかもし出していた。病院へは森の入り口から一本のアスファルトの道路が500メートルの長さで繋がっている。そして、その森の入り口には誰も入らないようにバリケードがされていた。その事から、週刊誌の記事等では“「バリケードの向こう側」には絶対に入ってはいけない”という見出しがどの記事にも必ず記載されてあった。世間ではバリケードの向こう側といえばこの廃病院のことを指し示す。

斉藤 和哉はそのバリケードの向こう側で起きていた惨劇を切々と語ってくれた。

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