78話Cold/出発
「まずは、あの薬について。アニエスさんとリカじぃにそれぞれ聞いてきたんじゃけど、答えは両方共調合された毒。じぇけど、不純物が非常に多く含まれとって毒性は低い。ってゆわれました」
シーラが手にとって目を通していた手帳を思い出す。
確かあれには、毒のレシピが書かれてるとか言ってたっけな。
「ちょっと待て。毒なのはまぁいいとして低いってどういうこった?」
「さぁ? 僕にゆわれても分からん。知らんとしかゆえんよ。でもリカじぃ曰く、毒としてじゃなく別の用途があるんじゃないか。と伝えんさい。ってゆわれたんじゃけど、何か気になる事ってあります?」
「……促進剤」
「化物の?」
「そう」
シーラが、気にしていた。そして、あの時事を急いだ理由の一つでもある。
「んー、それを伝えても分かりそぉにないですね」
「でも材料ではあるみたいなんだよな」
促進剤を打つ際、加担した薬の成果と言っていた。
木箱の薬を作っていたのが、ラウスさんであり、あの場で使われたのは逃げ切れずに時間稼ぎと口封じを同時に行うためだとしたら色々と辻褄があう。
「ま、運び出そうとしたブツの正体は分かっただけでも儲けもんだな」
そういうと、ジェームズは珈琲を口に運ぶ。
「確かにそうだな。で、セシリーとやり取りの方はどうなったんだ?」
「あ、ゆったんじゃね」
「そっちのが速いだろ」
「そりゃそうじゃけど……いいや。ユニーさん次の件の前に、コレ見とってください」
テーブルに置かれていた1枚の手紙を渡された。蝋で封がされており宛名はセシリーであった。開けると中身に目を通していく。
ごきげんよう。
この度はこのような形で申し訳ありません。
では要件を完結に箇条書きで記しますわ。
1.カミーリアへ趣き王城に出向く事。
2.城下町で流行っている病気の対抗策を突き止める事。
3.わたくしの護衛をする事。
4.解決後、わたくしの傘下に一時的に入る事。
拒否権はありませんのであしからず。
セシリーより
と、書かれていた。
「傘下に入る……?」
1から3まではなんとなくは分かるし理解出来るが、4はどういう事だ。エミリアから見たら願ってもない話なんだろうが……。
意見を求めるためにルチアに手紙を見せと、彼は苦笑いを浮かべた。
「僕の経験則からじゃけど、この言い回しは恐らくただの引き抜きですね」
「一時的なんだろ?」
「ソレが通用するなら、じゃじゃ馬姫だなんだってゆわれませんって話です。ほら、たいぎいでしょあの人。じゃけん、よぉけぇ苦手に思っとる人がおるんですよ」
言い分は分かる。アンナを始め苦手意識を持っている人は多い。
ふと、観覧車で二人っきりで話した時の事が脳裏をよぎった。
「でも、セシリーってアレが本当の顔……なんかな」
あの時、はぐらかされたが何処か引っかかる。
「え?」
「……いや、なんでもない。で、流行ってる病気ってのは?」
「はい。今、カミーリアで流行り病が蔓延しとるそぉです。じゃから、街への立ち入り制限がなされとります。ソレが今おきとる事ですが、問題が一つ」
「問題?」
「ただの流行り病なら立ち入り制限なんてする必要はないからな。なにせ、王都クラスならマンドレイクがそれなりの数揃ってる。あるとしたら他の街から足りない分を高額で買い取ったり、ギルドに依頼したりって所が関の山だ。ま、一種の祭り見たいな状態になる。病気が蔓延してるってのにおかしな話だよな」
ジェームズが俺の疑問に答え、新たな疑問が幾つか生まれるもほとんどは自己解決する事ができた。
つまり、今流行ってる病気は普通じゃないってことか。
「流行っとる病気。そのマンドレイクがいっそも効果がないらしいです。勿論他の薬も。不幸中の幸いとゆいますか、死亡率は比較的低いらしくてまだ街として機能はしとるけど……」
「それも時間の問題って分けか」
「自然治癒に関してなんか書いてあったか」
「例はようけぇないんじゃけど、一応何人かは回復して治ったと。セシリー様もその1人みたい」
俺はソレを聞き胸を撫で下ろしていた。
けど、本人は無事でもその周り全員が回復しているとは限らないか。3の条件で護衛が入ってる点を考えるとかなりの人が倒れてると見ていい。
「ほいじゃぁ、此処からは他言無用との通達……なんだけどいい?」
「分かった」
「おう」
2人は即答し、ルチアは呆気にとられていた。
「もうちぃっと、考えてもええと思うんじゃけど」
「いいから早くしろ」
ジェームズが催促を入れ、咳払いをし彼は口を開く。
「まず1つ目。病気の正体自体の尻尾を掴みかけとる事」
だから、正体を突き止めろじゃなく対抗策なのか。
「あ、詳しくはむこぉで話すそぉです。2つ目。国王の失脚を狙っとるという事」
「はぁ!?」「あぁ!?」
驚きの声が店内に響き渡り、思わずルチアは耳を抑え、こう続ける。
「み、3つ目? 漏らしたら命はないですわよ。だそーです。あ、アンナちゃんやエミリアちゃんにはゆってもええって書いとりました。ただ、伝える情報はよく考えた方がええと思います」
セシリーのマネをした際、裏声でまるで女性の声のようであった。というか、まるでセシリーの声のようであった。
「最後はどうでもいいが、なんでまた国王失脚なんざ考えてるんだよ」
「なんでも、いけんことをよぉけぇしちょるみたいで、結果として国がめげそうだとかなんとか。少なくともこの話は1年以上前から出とったよ」
あの場で言えなかったのはこの事か。
「傘下に入れってのはその手伝い臭いってのも分かったけど、ジェームズも聞いて良かったのか?」
「女好きのなさけない奴なんじゃけど、口は固いんでその点の心配はないです。そもそも当事者ですし」
「おい、一応保護者の立場なんだがその言い方はないだろ」
「何処の誰じゃろうね? 保護者の癖しとってスカートめくりに精を出した結果、謹慎処分受けとったバカタレは」
と、返されジェームズは黙りコケてしまい、俺は苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、この話片付けないとアルファとかいうペインの人達を追ってる場合じゃないって事だな」
少しばかり
同時に共通の敵という言葉が引っかかっていた。単純に考えると奴らは追われている身。もしくは親しい状態となるのだが、この場合見方によっては、奴らが国王と俺達の共通の敵とも解釈出来る。勿論俺達が両者の共通の敵とも。つまりは三つ巴のような状態である。
だが奴はそうは言わずに言い切っていた。
三つ巴みたいな状態じゃないって事か? それともただの優先順位の問題とか俺の考えすぎか?
「ほいで、ユニーさん。どーします?」
「ん。選択肢はほぼないようなもんだと思うけど」
そもそも拒否権はない。と書かれているのだ。差出人の立場を考えると素直に受け入れるほかないだろう。
「確かにな。そういうルチアはどうすんだよ」
「一緒に行くよ。御者も必要じゃろうし、何より僕がおった方が円滑に進むじゃろうからね」
◇
話は終わり、俺は家へと戻ると2人に早速報告する事にした。ただし、伝えても良い情報かどうか微妙な箇所はぼかしてだ。
とはいえ、向こうに行けば否応にも知るかもしれないが。
話を聞いたアンナは心なしか不機嫌であるように思えた。
「ねぇ、それってさ。ミイラ取りがミイラになる。みたいな事にならない?」
エミリアは俺たちが感染すると懸念しているのだろう。
「原因の尻尾は掴みかけてるみたいだし平気じゃないか?」
「何言ってるの。どう考えても異常な状態なわけだし、掴みかけてるってだけで、完全に理解してる分けじゃないみたいだからね。注意しておいて損はないわよ」
確かに言われて見ればそうだ。
「でもどう対策しましょうか」
「……とりあえず布で口元覆うくらい? ないよりかはマシでしょ」
くしゃみや咳と言った飛沫感染以外のウィルスは、マスクや布と言ったモノで口元を覆った所で防ぐ事は出来ない。が、花粉のようなモノであれば効果は多少期待出来る。
正体が分からない以上、彼女の言う通り対策はしておいて損はない。
「だな。適当に用意しよう」
後は……。
「到着までの保存が効くお食事作っておかないとですね」
「頼む。あ、エミリアちょっと話がある。後でいいか?」
「ん? いいわよ」
◇
翌日。
荷物を持って家の前でルチアを待っていると、1人の長袖のワンピースを着て頭に鳩が止まっている少女が
そして、俺達の家の前に馬車を止める。
「どなたですか」
「僕、です。はい」
声でこの少女が誰であるか理解する。
ルチアか。って、なぜ女装をしている!?
「……あんた、それどうしたの」
困惑した表情でエミリアが問いかけると。
「今朝、この子がコレを」
頭の上の鳩を指差し、1枚の紙が手渡された。
追伸
ルチア、女装して一緒に来るように。
お前の悪友より
「だからって、今からする必要ある?」
「今からなり切っとかんと、ぶち怒られるんで……」
彼の目はどこか虚ろであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます