51話Emilia/迷い
翌朝。
エミリアは何時もと変わらない様子で俺達の前に顔を見せた。
だが、封筒の、手紙の事は決して口にしようとはしなかった。
シコリを残したまま俺達はギルドに趣き任務を受けていた。
「またあの猫か……」
定期的に家に長期間戻らなくなるそうで、これまでで俺達だけでも2回ほど捕獲している子であった。
個人的に放っておいても良い気はするのだが、やはり飼い主としては心配になるのだろう。
「アイツ結構すばしっこくて捕まえるの大変なのよね~」
「おびき寄せますか?」
アンナは目を輝かせながら、猫じゃらしを手に持ってそう提案していた。
「お願い。こいつと2人で遠くで見てるからさ」
はーい。と元気よく返事をすると彼女は駆けて行く。
「ほんと、動物と接する時は特に元気よね」
「朝も毎日小鳥に餌あげてるしな」
「たまに集まり過ぎて惨事になったりしてね」
そう言った彼女の瞳は何処かさみしげであった。
「ねぇ、あんたは今の生活気に入ってる?」
「ん? 大変ではあるけど結構気に入ってるな。なんだかんだ楽しいし、そういうエミリアはどうなんだよ」
「そうね。結構気に入ってるわ。変身」
アンナから死角になっているのを確認すると、彼女は光りに包まれ魔法少女の姿へと変わる。
「予め変身しとくのか?」
「うん。予め、ね」
囁くようにナイフクリフトと言い、左手にナイフを生成して猫とじゃれるアンナをそのことに眺め気がついていない俺に近づく。
「3度目だしなー。お前の事だからもうあの猫の癖くらいは━━」
急に口を塞がれナイフが俺の腹部を貫通していた。
刺された。というより全身が麻痺するような感覚に陥る。
「エミ、リ……アッ」
「ごめんね。ユニー。さようなら」
俺の身体はそのまま意識と一緒に音をたてて地面へと落ちていった。
◇
「にゃー、にゃ~?」
アンナはしゃがみにへーっと笑いながら、集まってくる猫とじゃれていた。
すると、背後から近づいた足にじゃれついてくる子に目線を向けると、確保対象の猫であった。
「おっ、おおぉ~? にゃー!」
抱き寄せると、暴れる様子はなく手をぺろぺろと舐め始めた。
やったー。と呟きながら立ち上がると2人がいる方角に振り返りテレパシーを送る。
『確保出来ましたよー!』
だが、2人の姿はなくテレパシーも返事は返ってこない。
「あ、れ?」
そして、ドクンッと脈が一度大きく波打った。
◇
その頃エミリアは最低限の荷物を持ち、門を潜って町を出てある場所に向かっていた。
なんで、指定された場所に直接向かわずに彼処に向かってるのかしらね。"元から"似たような事するつもりだったってのに。
「……あたしも人のこと言えないなぁ」
古ぼけた一軒家の前に到着すると、彼女はそう呟いていた。
ほのか香ってくる腐敗臭が以前は気になっていたが、今はさほど気にはならなかった。
ドアを開け、軋む廊下を歩き階段を登っていく。
「おや、これは珍しいお客だ」
リカルドの視線がエミリアを捉える。
「客自体、アニエスさん以外珍しいんじゃない?」
「痛いところをついてくる。では本題に入ろう。薬を持ってきた様子でもなければ、別段伝言があるわけでもあるまい? 私に、いや彼に何の相談事かな?」
リカルドの居る部屋に入ると、うっすらと埃が積もっているイスに腰掛ける。
「今の仲間と昔の仲間ってどっちが大切かな」
「知らん」
と即答され、エミリアは面食らい言葉を失っていた。
「これでは、語弊があるね。申し訳ない言い直そう。どちらかが大切なのかと問われても、それは君が出すべき答えだ。ましてや、この件は彼は蚊帳の外の存在だからね。どうすることもできない。だが、1つ言えることがある。どちらか片方しか取れないと誰が決めたのかね?」
「え?」
「両方取る道もある、と彼は言いたいようだ。尤も、今回もコレが適応されるかは分かりかねるがね」
両方を取る道……。なんでだろう。考えたこともなかった。
「どういう形であれ、君の後悔のないようにするといい。だが、少なくとも今からやろうとしていることは、後悔しか生まないと彼が言っている」
そう言って、リカルドは手を動かし自身の目を指差した。
エミリアは自身の目元に触れると微かに濡れていた。
涙。……何時以来かしらね。
「うまくいくと思う?」
「君次第だ」
確かにそうよね。
「もう1つ、もし……裏の仕事をしていたって事、隠してたら受け入れてくれると思う?」
「それこそ君が一番良く知っているのではないのかね? だが、そうだね。彼から言える事は1つ」
リカルドは虚空を見つめこう続ける。
「君の信じている仲間を信じてやれ。だそうだ」
◇
声が聴こえる。
懐かしい声が聴こえる。
俺の名前を呼んで、一緒に遊んで、一緒に学校に行って卒業して、そして、そして?
━━虹秋のばーか。そんなんだから。
声が遠のいていく。懐かしい声が遠のいて、そして聞こえなくなり、雑音が聞こえ意識が体に戻っていく。
「あか……り……」
うわ言を口にしつつ、重いまぶたをゆっくりと開けていった。
「ユニーちゃん?」
俺を呼ぶアンナの声がし、今の状況を確認し抱き抱えられ何処かに向かっている事を理解する。
「アンナ、エミリアは?」
「先程からテレパシーを送っては見てるのですが、返事がありませんね。倒れる前には何を?」
そう問いかけて気を失うまでの事を覚えている範囲でアンナに話した。
彼女も現状を報告し、とりあえず猫を捕まえてギルドに完了報告をした後だという。
「なるほど、では原因は昨晩の手紙のようですね」
「だと、思う。けどもう処分してるんじゃないか?」
「そうかもしれません。が、確定ではありませんよね? それに他に手掛かりがありませんし、それにあの動揺ぶりですと、処分する事自体抜け落ちてるかもしれませんし」
確かに、他に手掛かりとなりえる情報は何もない。
俺達は程なくして家へと戻り、エミリアの部屋へと向かうと手紙を探し始める。
破かれてはいたが、すぐにゴミ箱から発見出きた。少し時間は掛かったがそれを繋ぎあわせ、断片的ではあったが読む事が出来た。
書かれている内容は旧友からの呼び出しのようであったが、所々気になる単語がある。
「日陰の住人……手が薄汚い……」
「町外れの屋敷って何処でしょう?」
「あ、ああ。えーっと」
空返事をし、思考を巡らせていく。
そう言えば初日のあの日。
「ツタで覆われた豪邸……」
エミリアが興味を示し、あの異様な光景のおかげで忘れずに覚えていた。
「あの、お家探しで遠慮したあの?」
「そうだ。思い当たるのは彼処しかない」
逆を言えば、彼処がハズレだった場合完全に手掛かりを失う。
「確かに他に心当たりもありませんし、行きましょう!」
そう言って、家を飛び出すと1人の男が待ち構えるようにして道路に佇んでいた。
「ユニーちゃんは先に行って下さい」
アンナは変身し、魔法少女の姿になるとワンドの先を男に向けた。
「お、おい!」
「どうやら女の方は、察しがいいらしい」
男の体が少しずつ偉業の生物へと組変わっていく。
「速く! コーンサンダー!」
雷撃を放つが、直撃する寸前で跳びのけられていた。
「わ、分かった! 無理はすんなよ!!」
そう言い残し俺はその場を後にした。
━━無理をするな、ですか。
「逃がさん!」
「ファイアキュート!」
攻撃する目標を変えようとした変異体に対し、挑発するように移動を阻害するように奴の目の前に火の玉を飛ばし、ソレは腕を振るわれかき消された。
「貴方の相手は私でしょう」
ユニーちゃんの言葉ですし従いたいですが、この場合は言葉を借りますが。無理という話、です。
肩が肥大化し、手足も形状が変化し四つん這いにとなっているソレがの目線がアンナを捉える。
スノージュームの時の変異体がクモみたいな姿だとすると、今回は差し詰め犬ですかね。
「きっちり倒してあげますから、そこでおすわりして大人しくしていてください。駄犬さん」
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