26話Raid/また会う日まで

 あれから裏路地を中心に通り、兵宿舎に一度寄って家の裏手に向かった。そして、周辺と中をエミリアが調べるが特に異常はなく、待ち伏せも罠も見受けられなかった。

 家の中に入り、戸締まりをするとアンナを寝かせ、エミリアは屋根の上に登り周囲警戒を強める。


『平和ねぇ』


 兵宿舎に寄ったのは、あの襲撃犯達の確保を頼みたかったのもあるが、襲撃されたため念のために影で護衛の手伝いも頼んでいた。

 初日に兵宿舎の行った時に頼んでおくべきだったのだろうが、向こうもセシリーが居る事は周知の事実であったのに俺達に丸投げで放置していた。

 と、言うことはそういう事なのだろう。極力関わりたくない。じゃじゃ馬発言からもなんとなくそんな気がするし、確かに下手に関わると振り回されて大変だ。

 とはいえ、仮にも一国のお姫様だというのにこの扱いはどうなのだろうか。


『ええなぁ』


「ユニーさん、魔法が使えますの!? どんな魔法ですの!?」


 彼女の興味が俺に移り、絶賛質問攻め中であった。


『いいじゃない。最後の夜なんだし、大事になってないんだから』


 と、送りガリアードが見え軽く手を振る。

 すると、1人の兵士が彼に何か言い寄り始めた。


『おま、人事だと思って!?』


『昨日の朝見捨てようとしたのは何処の誰かしら~? ま、最悪ツバキに助け求めなさいよ。助けてくれるからさ』


 一方的にテレパシーを切られ以後無視される。


「ユニーさん聞いてますでしょうかー!!」


 全然反応しない俺に痺れを切らし、身体を掴んで揺らし始めた。


「え、あ、聞いてる! 聞いてるから揺らすな!!!」


 プロテクトと感知能力の説明をしたが、地味ですわね。とバッサリ切り捨てられ、自覚があった事ではあるが少しばかり落ち込む。

 変体も派手って分けじゃないし、戦闘自体は地味だからなぁ。


「で、答えませんの? 襲撃者を倒した魔法を」


「ッ! ……企業秘密」


 そこに気がつくとは。流石に適当に流そうとしすぎたか。


「また揺らしますわよ?」


 そう言いながらセシリーは手をワキワキさせる。

 別に秘密という分けではない。だが。


「やめろォ! でも、言いたくはない」


 初変体時、アンナに拒絶された事がシコリとなっておりあまり人に話したくはなかったのだ。

 絶対引かれる。絶対気持ち悪がられる!


「うーむ、まぁいいですわ。もう1つ聞きますと、わたくしも慣れますの? その、魔法少女とやらに」


「残念ながら定員オーバー。2人までなんだ」


 そういうと、何処か寂しげな表情を浮かべ、そうですの。と短く返すだけであった。


「なりたかったのか?」


 何気なく聞いていた。特に考えもせず。


「どうでしょうね。ただ、力が欲しかっただけかもしれませんわね。暴走した親類を、殺すために」


 そして、地雷を踏んだ。そんな気がした。


「すまん。変な事聞いた」


「気に病む必要はありませんことよ? そういうものですし。ただ、他言は無用で」


 その後は適当に雑談をして1階で寝る事となった。

 此方に来てからというもの何気ない行動、言動から後悔する事がちょくちょくある。無くそうと思っても、そういう性格なのか無くせそうにない。

 などと考えていると一向に寝れずに、自然とエミリアにテレパシーを送っていた。


『寝ろ』


 と、即答される。


『ご無体なー!!! ……寝れねぇんだよ』


『もしかして、セシリーの胸に欲情でもした? えっち』


 おちょくるためか、おどけた口調でそう送られる。


『決めつけないでくれるぅ!? そう言うんじゃなくて、なんていうか変な事聞いたりしてさ』


『後悔でもしてうじうじ考えてたか』


 察しがいい。

 肯定するとため息をつかれた。


『べーつに良いじゃないのよ。あんたは取り返しのつかない事してるって分けでもなし。悪事でもないし、謝って済むならそれでいいし、そもそもどう見繕っても地は出る。いずれバレる。いずれ繰り返す。その度に後悔してうじうじ考えても仕方ない。だから、多少は諦めて次気をつけよう。程度じゃないとやってけないわよ』


『ふーむ。そうか』


 考えすぎなのかな。


『ていうかさ。相談事多くない?』


『ん、単純に話しやすいんだよ。なんて言うか、内心で欲しいと思ってる答えくれるからだと思う』


 自覚はなかった。今言われてみて、確かにと思ったほどに。

 単純頼りになるから。という理由もあるのだろう。はぁ、自分の事なのに何処か他人事だ。


『あぁ、そう。まぁ頼られてるってんなら悪い気はしないけど、アンナには相談しないの?』


『アイツの前では出来るだけ格好つけたい』


 ふざけた口調でそう返す。半分冗談で半分本心。


『おい』


 それから数瞬の間が空き、当の本人から寝言が聞こえてくる。


「……もう、着ま……せん……」

 

 思わず笑ってしまい、それがテレパシーで送られてしまっていた。


『急に笑ってどうかした? 壊れた?』


『アンナの寝言が聞こえただけだ。もう寝る。おやすみ。……いつも、ありがとな。エミリア』


『はいはい、おやすみおやすみ』


 テレパシーが切れ、エミリアは星空を見上げた。


「あーあ。なんか、自分に言い聞かせてるような事言っちゃったわね。最悪」


 翌朝。

 快眠とは行かなかったが、十分な睡眠は取れた。

 エミリアはあれから徹夜で周囲の警戒をしていたらしく、酷く辛そうであった。打って変わってアンナは十分な休息が取れ体調が戻り元気になっていた。変わりと言っては何だが、寝坊した。と朝大慌てだったぐらいだろう。


「だーはー……」


 そして、お昼を回った頃には魔改造されてしまった部屋の撤去作業で、全員一様に疲れきった表情を浮かべていた。

 昼食を取り、休憩していると呼び鈴が鳴りセシリーの迎えがやってきた。この頃には限界を迎えたエミリアはソファーで寝息を立てていた。


 簡潔な挨拶を交わし、テキパキと荷物を荷馬車に積むと彼女らは嵐のように去っていた。

 見送って玄関前に居た俺達はあまりの速さに呆気に取られていた。

 

「長かったような。短かったような。取り敢えず、数日はゆっくり休みたいな」


「同感ですぅ」


「あはは、お疲れ様」



 わたくしは馬車に揺られながら考える。


──「逆よ、逆。わざと盗らせたら付け上がってまたやるから絶対にダメ」


 少年の件があった時に言われた台詞。

 ならばあの時どの様にすれば良かったのだろう。どの様に達振る舞えば良かったのだろう。

 どの様に、自分を偽れば良かったのだろう。


「お嬢様? お嬢様」


「あ、どうかしまして?」


 完全に気を抜いていた。執事の声に一切気がつかないとは。


「羽は伸ばせましたか?」


「ええ、十二分に。個人的な用事も収穫はありましたし、何より色々見れて良かったですわ。それよりあの件なのですけど」


「次回この町に訪れる日程でしょうか?」 


「違いますわ。そちらではなく、視察の件。なんとかランドの。ちょっといい案がありますのだけれど」


 そう言って不敵に笑ってみせた。

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