22話Escort/大口の任務か
翌日。
朝食を取り、ギルドへと向かい、中に入るとタキさんが血相を変えて走ってきた。
「良かった、今日は来たわね!」
「どうしたんですか。そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもないのよぉおおお!」
もう、半分慣れてしまったタキさんの半狂乱した叫び声がギルド内に響き渡った。
少し時間を要したがテーブルがある場所まで移動し落ち着かせ、話しを聞いた。
大口の仕事が舞い込んできたそうなのだが、この町では条件が厳しく合致する傭兵が俺達以外居ない。
更に、本来ならば1週間ほど前に届くはずだった依頼状で準備期間があるはずだったのだがトラブルにより昨日の夜届いた。
その内容と言うのが──。
音をたててギルドの扉が開き、大きな胸を揺らして見知らぬピンク髪で1本のあほ毛がある1人のエルフが入って来た。
「此処ですわね!」
令嬢の護衛。しかも、この国の王族のお嬢様。だという。
なぜこんな
彼女は周囲を見渡すと此方に歩いてくる。
そして、条件と言うのが3つあり、まず若い女性の傭兵であること、小動物でも可。ランクは問わないが実力が高い者であること。最後にチームを組んでいること。の計3つであった。
どれか1つや2つを満たす者はいるが、全てとなると俺達しかいないらしい。
任務に関しては報酬もよく、半狂乱のタキさんに全力で頼まれたため受ける方向となった。
この際、エミリアの食いつきが非常によく少々らしくないなと感じていた。
「貴方達ですわね? わたくしの護衛は」
俺達の前に立ち止まるとぽよんと胸が一度揺れ、思わず目で追ってしまう。
『えっち』
エミリアから冷たい目線が飛んでくる。
『うっせぇ! でかいのが悪いんだよ!』
今回は言い訳が出来ず、開き直ったような返答となってしまった。
結果としてこの対応は失敗した。
『ふぅ~ん』
ドスの効いたようなテレパシーが飛んできて、背筋が凍るような思いをし。
「は、はい。そうです」
誤魔化すように護衛対象のお嬢様の質問に答えていた。
「よろしいですわ。さて、早速なのだけれど、頼んでもよろしいかしら。護衛と道案内を」
彼女の名前はセシリー。王族の三姉妹の次女。と簡単に説明された。
案内先はこの街の兵宿舎であった。なんでもお忍びついでに渡しに来た物品があるという。
現在護衛は俺とエミリアで行い、アンナには大量の荷物の移動と条件を2つ満たしているとある人物の"増援"を頼んでいた。
そして、此処まで来るまで付き添っていた護衛と執事は先に帰らせたと言われ、俺は吹き出す。
「どうかいたしましたの? 当然でしょう? お忍びなのですから」
「いやー、だからって護衛現地調達して丸投げはだめですよね!? 最低でも側近の1人や2人は居たほうが良いと思うんですよ。俺は」
護衛の数を減らし、その穴埋めだと勝手に考えていただけに頭が痛くなる。
「守りきる自身がないと?」
「いや、そういう話じゃなくてですね!?」
報酬減るの気にせずもっと他にも頼むべきか? いや、でも最低条件臭い女性の傭兵が鬼門過ぎる。
この街に女性の傭兵は少ない。よって頼める相手も限られてくる。
そして、アニエスさんの護衛時に最後の方で護衛対象をほったらかしにして戦闘を優先した事をエミリアに怒られていた。
あの時は撃破出来ただけ良かったものの、もし倒せていなければ戦えない彼女が狙われ最悪の自体となりえていたといった内容だ。
故に護衛任務は少々苦手意識を持っている。
「どういう話だと? 貴方がたがわたくしを守りきればいい話ではなくって?」
「はぁ、じゃなくてね。不用心過ぎるって話よ。自分の身分ちょっとは考えたら? って言いたいのよコイツ」
呆れた表情を浮かべたエミリアが、俺を指さしそういった。
『うぉい!! 自分の考え含めて俺に全部押し付けんなァ!!!』
『そんな事言ってー。全部引き受けてくれるんでしょ? わざわざテレパシー送ったりしてさ』
図星であり言い返せない。
「自分の身分も考えたうえでの行動ですのよ?」
きょとんとした表情で返答が来た。
「はい?」「はぁ?」
あぁ、アカン子だ。この子。
程なくして兵宿舎にたどり着き、此処から責任者の所までは兵士が護衛するという足運びとなり俺達は入口門で待つこととなった。
「エミリアさん、俺この任務地雷だと思うんですよ」
「敬語やめてくれる? それに、地雷が何なのかは分からないけど、なんとなーく言いたい事は分かるわ」
彼女は兵宿舎に目線を送る。
「変に振り回されなきゃいいけど」
◇
兵宿舎の最上部。兵士を束ねている兵士長がそこに居り大量の仕事に追われていた。
セシリーは1つの袋を持って案内される。
大きな扉が開き、中に入ると調度品は少なく質素な内装であった。変わりに書類が至る所に散らばっていた。
「汚い、は失礼ですわね。ただ、仕事熱心なのは分かりますわよ」
部屋の中に入っていき置かれているソファーに腰掛ける。
「生憎と此方も仕事中でね。姫君直々にこのような
すると、彼女は袋から1つの手錠を取り出した。
一見すると、何の変哲も無いただの手錠であるが、それぞれの平板のスペーサー部分に何らかの金属か鉱石が含まれておりキラキラと光っていた。
「お話は以前に通っていると思いますわ」
兵士長はソレに目線を向ける。
「……魔法の行使が出来なくなる手錠だったか。試作品を此処に。という話でもあるまい。完成して"国境付近"の町全てに?」
「ええ。ですので、その1つに過ぎませんわ。此処も」
「了解した。受領しよう。忘れる前にコレは以前頼まれていた調べ物だ。にしても、些か不用心過ぎないか?」
兵士長は1つの封筒を投げ渡し、セシリーはそれを拾い上げ薄く笑った。
「護衛さんにも言われましたわ。ですが、効率と危険性を天秤に掛け貴方のいるこの町ならば比較的安全と考えたうえで。それに、個人的な興味も色々とアリますし、私兵がいたら動きにくいですわ」
そう言うと、1つのカードを放り投げる。
「傭兵カードか」
「ええ、複製ですけど。護衛の小動物さんが持つ物と同一の。貴方も聞いた事があり、あえて黙認しているのでしょう? アレを」
◇
「よぉ、エミリアちゃんにユニー!」
ボーっと入り口で待っていると、アニエスさんの護衛時に話した門番であるガリアードが話しかけてきた。
アレ以降彼とはちょくちょく一緒に飲む仲となり、
「お疲れさん。今日はもう上りか?」
「おうよ。後で飲むか?」
飲みたい。暑くて正直待機しているだけでも体力が削られていっている。
だが、今日の所は我慢だ。
「任務で無理だ。今度飲もう」
「あー、なんかじゃじゃ馬が来るって隊長言ってたな。それか。てかお前らだったんだな受けてたの」
それを聞いたエミリアは手で口元を覆い、吹き出すように笑った。
「っぷ、じゃじゃ馬って」
「条件的に俺達しか居ないんだと」
「まじかよ。じゃぁ、疑われないように指名するために、お前らしか合致しない条件だしたのかもな」
ガリアードは兵宿舎を囲っている壁にもたれ掛かりながら言い放った。
有り得なくはない。だが……。
「だとして、あの子に何の利益があるのかって疑問が出ない? こっちからしたら王族と近づくってメリットはあるけど、向こうからしたら何もない」
エミリアの言う通りである。強いて言えば俺が非常に珍しい存在というくらいだが、この街の人々の対応を見る限りでは近づくほどの価値はないように思う。
「でもお前ら魔法使えるじゃん? 抱き込むにはうってつけだと思うんだがね」
「それはそうだが、向こうはどうやって知ったんだって話にならんか? タキさん達が無闇に情報流すとは思えんし、知ってる連中も言いふらそうとはせんし」
俺がそういうと自信アリげだった彼は確かに。と言って唸る。
「お待たせ致しましたわー。あら、談笑中だったかしら」
中から、
「もう終わったよ。お嬢様。んじゃ、ユニーまた今度な」
彼は気を使い話は終わったという
「おう、またなー」
俺は手を降って見送った。
「さて、次は何処行きます?」
「ふふーん。それは勿論~」
◇
家の中の1回の共用スペースに積み上げられた木箱やカバンが置かれ、肩で息をするアンナの姿があった。
たった4日の滞在に
「おぉ、思ったより綺麗ですわね。なんというかペンションというか!」
感想を述べながらセシリーはトテトテと歩いて行き、家の中を見て回り始める。
アンナはその光景に呆気にとられていると、後ろから返って来た2人に言葉を投げかける。
「おかえりなさーい。随分と速いですねー」
「なんか設営とかあるんだって」
「へ?」
パタパタと2階に上がっていく彼女の後ろ姿を見送り、自分運んだ荷物に視線を向け彼女は恐る恐る問いかけた。
「な、何の設営ですかー?」
「寝床だってさ」
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