23話Escort/護衛任務だが……
2階の空き部屋の一室をセシリーに貸す形となったのだが、コレが大変であった。
まず、備え付けてあったベッドは一時的に俺の部屋に移され、アンナが運んだ木箱に入っていた分解されたベッドを組みたて、カーペットを敷き直し、シャンデリアをあしらえ、カーテンを付け替え、幾つかの調度品を飾って彼女が泊まる部屋が完成した。
俺達はリフォーム会社じゃねぇぞ!?
と心の中で突っ込む程度には部屋の様相が変わっていた。
と言うか、アンナが運んだ荷物のほとんどが部屋を変えるための物である時点で何かが可笑しい気がする。いや、可笑しい。
何はともあれ、リフォームは無事に終わった。が、日が落ちかけておりアンナが疲れきった顔で調理に入っていた
「今日、護衛した気がしないんだけど」
ソファーに座り項垂れているエミリアが呟く。
「同感。模様替えしてた時間の方が長い気がするぞ」
俺はテーブルの上で力なく横たわっていた。
元凶はというと、料理に興味津々なご様子でアンナにまとわりついていた。
『うえぇ……やりにくいですぅ』
今にも泣きそうな声のテレパシーが送られてくる。だが、今体を動かして助けに行くほどの気力もなく、すまない。と短く謝罪の返事をした。
すると、エミリアの耳がピクリと動き顔を上げる。
「来たわね」
すると、呼び鈴がなり彼女は立ち上がると、玄関の方に歩いて行きドアを開けると小さなカバンを手に持ったツバキの姿があった。
「遅れた」
そう、彼女こそが応援を頼んでいた人材である。
"現役傭兵"であり、若い女性である。強さもエミリア曰く、魔法少女じゃないあたしとほぼ同じぐらい。だそうで十分過ぎる。そして何より、アンナが嫌な顔をしない。
「此方こそ無理言ってごめんね。あがってあがって」
おじゃまします。と言って彼女は家の中に入っていく。そして、死んだ魚のように動かない俺を見た後、キッチンで不機嫌そうな表情を浮かべながら料理をしているアンナに付きまとう護衛対象を見て一言こういった。
「大変そうだね」
人事みたいに言ってるけど、貴方も巻き込まれるんですよー。
セシリーはツバキを発見するとフラーっと彼女の元に近づき、彼女のエルフの耳と犬のしっぽ混ざり者と分かった途端、目を輝かせ始める。
「混ざり者ですわね!? 初めてみましたわ! どちらがどちらですの!? 護衛さん達の仲間ですの? 触ってもいいでしょうか!?」
一度に質問されるが、一言いいよ。だけ言って尻尾を振ってみせる。
「質問をほぼ無視された気がしますが、まぁいいですわー!」
もふもふの尻尾に抱きつき触り始めた。
「ユニーさん。割当は?」
突然ツバキにそう問われるが、何のことか分からない。
「割当?」
当然、聞き返すしかない。
「護衛の割当。決めてない?」
「あー、見回りとか周辺警護とか分担してないのって事か。そんなの決める暇なかったし、あたし以外慣れてないし決めてないわよ。あたしとツバキだけでも交代で夜起きてる?」
言いたい事を理解したエミリアが答えた。
「うん。した方がいい」
「分かった。じゃぁ、後で決めましょ」
「了解」
そう言うと尻尾を振り、セシリーを無理矢理振りほどいてソファーに腰掛ける。
「うー……。じゃぁ、じゃぁ質問の方をー!」
セシリーも隣に腰掛け、一方的に話しかけはじめツバキはソレに対し一言二言で返し適当にあしらっていく。
『慣れてるわねー』
『慣れてるなー』
十中八九ウメさんのせいであろう事は想像に難くなかった。
その後出来上がった夕飯を食べセシリーが屋敷に連れて帰ると騒ぎ、風呂が狭いとセシリーがはしゃぎ、徹夜しますわよ。とセシリーが意気込むものの、真っ先に寝てくれたおかげで、本日の台風の目は沈黙した。
結果としてツバキ以外の面々は少しばかりやつれていたのであった。
明日から後3日この調子が続くと考えると、胃が痛くなってくる。何か対策を……。
「はー、まじ」
立てる間もなく夢に落ち、気がついた時には朝であった。
あくびをしながらパタパタと飛び1階に向かうと、まとわりつかれ疲れきった表情を浮かべているエミリアの姿があった。
彼女と目があい、アイコンタクトで助けて。とSOSがなされた気がしたが、そっと2階へと戻ろうとする。
「ひとでなし!」
「うっせぇ!! っは!?」
思わず反応してしまい、彼女が俺の存在に気がつく。
「ユニーさんおはようございますのー!」
笑顔でトラブルメーカーが大きな胸を揺らしながら俺の方へとやって来る。
絶望とエロスが入り混じりその光景がスローモーションのように感じていた。が、次の瞬間つまずき倒れ込んだ彼女の手にはたき落とされてしまい、廊下に叩きつけられビターン! という音が鳴り響く。
こういうもんは、胸に押し潰されるとかそういうラッキースケベじゃないのかよ……。
『あたしを見捨てようとした天罰ね』
エミリアからテレパシーが送られてきて鼻で笑われる。
「いたた、我ながらはしゃぎすぎましたわ。ユニーさん、大丈夫でしょうか?」
体を起こしながら問いかけられ短く、大丈夫だ。と俺は答える。
その後朝食を取り、町を見て回りたいという彼女に付き合って本日は町を適当に見て回る事となった。
まだこの町に住み着いて2ヶ月も経っては居ないがこれと言った観光場所はなく、ただひたすら町の風景を見たり、お店で果物を買って食べたりして過ごした。
のだがセシリーは見事期待を裏切らず、野良猫を見つけ追いかけ回そうとして一度姿を消したり、気に入った店を買い取ると言い始めたり、ならばと店の売り物全てを大人買いしようとしたり、何かを見つけ馬車の前に飛び出そうとしたり、知らない人についていきそうになったり。色々な面倒事を引き起こしていた。が大事にはなっていないのは不幸中の幸いと言えるだろう。
現在は大通りの小さい噴水の前で休憩していた。
「中々にきつい」
最終的に飛びつかれた俺はアンナに抱きかかえられていた。
この状態、本当に落ち着く。
「だね。予想以上」
そう言うツバキにも疲労の色が伺えた。
「はぁ。……もう放っといても良い気がします」
アンナの目は死んでおり、らしくない言葉を口にする。
「それはダメだ」
「ですよね。ダメですよね。あはは……」
彼女は無理に笑ってみせるが目は笑っていなかった。
今度はボロい服を着た少年に話しかけていた。彼は見るからに怪しく、そして誰も見かけたことがなかった。
すると、突然セシリーを押し噴水池落とすと走り去っていく光景が眼光に広がる。
「っち、今度は物取りか。アンナ、変身してさっさと捕まえに行くわよ」
「へ!? あ、はい!」
完全にボーっとしていた彼女は驚いた声で返事をする。
「変身!」「へ、変身ですっ!」
◇
盗人の少年は裏路地へと入り、後ろに誰か追ってきていないか確認する。
そして、誰も追ってきては居らず笑みをこぼした。
「へへ、言われた通り取ってきた! これで……」
曲がり角を曲がると、その先は不自然な壁に道が塞がれ行き止まりとなっていた。
「な、なんだ!?」
「ほーら、坊や。面倒だから早く盗んだもの返しなさい」
不自然な壁の上に立っているエミリアが、気だるそうな声で告げる。
しかし、少年は聞く耳を持たず振り向くと元来た道を走って戻っていく。
『そっちいった』
挟み撃ちする形で後方に待機していたアンナは、ワンドを振り上げユニと低い声で呟き雷雲を発生させる。
少年の姿が見えると、迷いなくサンダーと低い声で呟き振り下ろして落雷を発生させる。命中し、声なくその場に倒れた。
「よっと、容赦ないわねぇ」
エミリアは土の壁から降りると消し、変身を解いて倒れている少年の元へと歩いて行く。
よく顔を見るが、やはり見ない顔だ。それに浄化しているようで、黒い玉が排出され消え去る途中であった。
「別の町から来た? でも市壁に囲まれてるし、なんかきな臭いわね。ねぇ、アン……」
と、彼女が居るはずの方向を見るが姿はなかった。
「押し付けられた!? ……ま、いっか」
◇
俺は今、彼女達に背を向け目を瞑っている。
理由は単純で、夏場で薄い衣類を着ていたセシリーの下着が透けてしまっており、背を向けて念のため閉じるようにいわれていたからである。
正直、見たい気持ちは少しあるが、見てはいけない。そんな気がするので大人しく従っていた。
「もう、いいか?」
「まだ」
視界がなくとも、感知能力と声である程度は状況が分かるものの、もっと正確に知った方がいいのではないか。と俺の中の悪い部分が語りかけて来て、ちょっとくらい開けても良いんじゃないかという考えが芽生え始めた時であった。
ちょうど戻ってくるアンナの声が聞こえ思い留まる。
「お、どうだった?」
「エミリアさんに任せてきました。ずぶ濡れですね」
「どうしよ。隠そうにも、何もないし」
「この程度、大丈夫ですわよ。へくち!」
くしゃみをしていては説得力のかけらもない。
「一旦、お家に戻って着替えましょうか。ソレが速いです」
「分かった。道中の男は?」
「なぎ倒しましょう」
即答するアンナに俺は驚く。
「ちょ、ちょちょ!? どっかの家からタオル借りて隠せばいいじゃない!」
「え、あっ。そうですね。なら、ユニーちゃんの案採用でいきましょう」
方針転換をして安堵の溜息をつき、あー、そっか。と呟くツバキの声が聞こえ考えついていなかったのだと悟り、早めに言っておけば良かったと少々後悔をする。
振り回されて疲れてるのか。それともストレス溜まってるのか。どちらにしても今のアンナは俺から見て、らしくない言動が多いと感じていた。
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