16話Soldier/改めてよろしくね

 あれから、あたしはユニーをこの町の病院に連れて行き、情報を集めた。

 最後に発した事からアンナが連れされた事は分かっていた。そして、騒ぎにもなっており連れ去った連中が荷馬車を使用したことも。


 そのため、現状必要な情報は"誰が"だとか"何のために"だとか言ったものではなく何処へ行ったか。

 連中がまず取る選択肢は町の中で潜伏。もしくは町の外に出て行った。の2択。

 よってまずあたる場所は町の出入り口の4つ。の周辺に住んでいる住人達。


 もし町から出ていたとしたら、懐柔かいじゅうされていたとしたら門番をしている兵士は大抵隠すため情報を吐かない。吐いたとしても時間が掛かる。よって目撃証言を頼りにすると言う分け。

 あれだけ騒ぎになっていたり、全速力で走り抜ける荷馬車はどうしても目を引く。見ている人の1人や2人居るはずと考えた。

 

 で、2つの出入り口はハズレ。3つ目で当たり。

 荷馬車と複数の馬に乗った兵士を出て行くのを見た住人がいた。

 お礼を言い、ついでに何かあれば安く請け負えるようにすると簡単な売名行為もしてその場を去った。


「うーん、町中を探す手間は省けそうだけど、外に出て行ってるのか」


 出来れば、町中に潜伏してくれた方が潜伏場所の"見当もつけやすく"、範囲も狭いため楽であった。

 兵士達が連れて行った連中をあたる? いや、簡単吐くとは思えない。拷問とかはあまり好きじゃないし。


 策もなく1人で捜索に出る分けにも行かず、無駄に整った装備を見るに何処かの兵士もしくはソレに扮した何者か。

 どちらにしろギルドもこう言う手合いは難色を示し、あまり手を貸したがらない。


 流石にこれじゃぁ、何か有効な手がないときつい。

 そう判断して、あたしは一度ユニーが居る病院へと足を伸ばした。


 あたしは病院に着くとドアを開き中にはいる。僻地の診療所のような風貌をしており、とても良い設備や環境である。とは到底言えない。

 でも、ここに居る先生は凄腕だと町では評判であった。

 

「あら、さっきの。一応処置はしたけど、専門外だからそこの所はよろしくね」


 治療が終わり暇なのか、待合室のイスに腰掛け本を読んでいた女医さんが話しかけてくる。


「分かってますよ」


 あたしは軽く流して奥へと進んだ。

 複数のベッドや仕切り等が置かれている部屋があり、そのうち1つにユニーが寝ていた。


「まだ、気がついてないか」


 イスに腰掛け息を吐く。

 今日は疲れるなぁ。これ終わったらもう、お夕飯食べず寝る。

 置いておいたエッグフルートが入っている紙袋に手を伸ばした時、ユニーの声が聞こえ目線を向け話しかける。


「起きた?」


「あ、あぁ。……アンナは!?」


 小さい体を無理に起こし、痛がる姿を見て内心笑う。


「なぁにやってんのよ。とりあえず、最低限の情報収集はしといたわよ」


 紙袋を取り、抱え開けると手を突っ込み1つ取り出して口に放り込む。


「本当か!? なら、今すぐにでも助けに……!」


 今度は立ち上がろうとし、あたしはため息をついた。


「んぐ。そんな状態でどうしようってのよ。あたしが今此処に居るのはいい案ないか聞きに来ただけなんだから」


 エッグフルートを食べながら現状わかっている事柄、仮説を話し指示を仰ぐ。


「なるほど。確かに無策じゃダメだな」


「個人ルートで信用出来る人ならギルド通さずに頼むって手段もあるんだけど」


 この町に来てまだ3週間。顔見知りは居ても仲が良いと言える間柄の人間は居ない。

 すると、ユニーは痛む体を動かし、頭を下げこういった。


「頼む! 契約して。魔法少女となって……俺の代わりにアンナを救ってくれ」


 最初はどういう意味か分からなかった。けれど、色々と察してしまう。

 嘘、ついてたのか。まぁ、そうよね。あたしなんかまだ信用出来るわけないわよね。


「……そう。あの時、嘘ついてたの。兎や角は言わないけど、何か策はあるの?」


 テレパシーの事を話され、これを使って走り回ってくれと。そして、この手段意外は現状浮かばないとも。

 半径1キロか。やることは一緒でも、大分マシにはなるわね。一度寄って正解だった。"色々"と。けど、ただ受け取るだけじゃ、今のあたしらしくないか。


「幾つか質問いい?」


「なんだ?」


「まず、魔法少女になるのはいい。けど、あたしをしていいの? 一応、今は協力関係にあるとはいえあたしは部外者だけど」


「じゃぁ、部外者じゃなく関係者になればいい」


 愚直な答えに思わず手で顔を覆う。


「次、見つからなかったらだけど──」


「関係ない。阻止出来なかった、助けられなかった俺が悪い」


 あたしの言葉を遮るように告げられる。

 自分を追い詰めやすい奴。けどそうじゃない。


「……最後まで聞きなさいよ。次の手段が考えないとだから、何か考えておいてほしいのだけどいい?」


「分かった」


「よろしい。最後、どうしてそんなにアンナの事救いたいて思うの?」


「仲間だからだ」


 即答であった。そして、こう続ける。


「それに、無理矢理引きずり込んでしまった形でも、正直内心どう思ってるかは分からないけど、それでも優しく接してくれた。何も分からない俺に色々教えてくれた。気遣ってくれた。だからだ。戦闘になったり、必要な時は指示を出したり、少しの間だけ敵をなぎ倒したりもした。けど、足りない。まだ全然足りないんだ。何も俺がアンナに感じてる恩を返せてないんだ。俺はあいつになにもしてやれてない」


「ふーん。恩を返すためにねぇ」


 多分、向こうはそうは思ってはいない。


「何か問題があるか?」


 真顔で、少しムッとしたような顔で言われ訂正する。


「いや、何もないわよ。ただ」


 あたしは立ち上がり、紙袋を小さいテーブルの上に置く。


「……ただ、恩を返したらどうなるのかなって、思っただけ」


「え? どうなるって何も変わらないぞ? アンナは大切な仲間だから守るし、助けるし必要なら助けを求める。今と何も変わらない。ただ俺個人の、内面の問題なだけだ」


 それを聞き、あたしはほんの少しだけ意地悪をしたくなり、こう質問した。


「それってあたしも適応されたり、する?」


 しかも、とびっきり意地悪そうな顔をして。

 するとどうだろうか。

 彼は、何を言っているんだ。と言いたげな表情をしこう返す。


「当たり前だ」


 思わず口元が少し緩み、微笑んでいた。

 無意識下での行動であり、自分でもびっくりし悟られる前に口を動かす。


「嫌いじゃなかったの?」


「最初だけな。でも今はもう仲間だ」


 口からでまかせ。って分けでもなさそうね。この様子を見る限り。

 何だかんだ、割りとちょろかった。けど……。


「そう。なら安心した。長話になっちゃったけど、ささっとしてよ。その魔法少女にさ。あんたの大切な人、助けに行ってくるから」


 仲間って言われるの悪い気はしないわね。



★新規の情報が開示されました。

◯[魔法少女]についてのご連絡です。契約を結び変身出来る女の子を指します。種族による特性が向上し攻撃を受けてもダメージを魔力で肩代わり致しますが、受けたダメージ全てを肩代わり出来るわけではございませんのでご注意下さい。魔法の行使を始め変身にも使い、また一定量以上魔力を保有していませんとセーフティが働き変身もできなくなってしまいます。魔力の残量管理は非常に大切ですのでご留意下さい。


☆新規の魔法を習得しました。

◯[ストーンウォール]地面もしくは壁から土の壁を生成致します。身体の何処かを地面もしくは壁につけ、[ガード]と口に出して言って下さい。


☆新規の魔法を習得しました。

◯[ウェポンクリフト]武器を生成致します。生成可能武器は[ナイフ][ソード][ランス]の計3つです。発動の際、創り出したい武器に[クリフト]とつけて口に出して言って下さい。


☆新規の魔法を習得しました。

◯[ウィンドカッター]風の刃を発生させます。[アタック]と言って、"攻撃したい対象に向け"指をぱちんと弾いて下さい。すると、魔法を行使出来ます。連続しての使用はできませんのでご留意下さい。


 ふむふむ。なるほどね。

 あたしは、走って移動しながら出ている情報を片っ端から表示させていっていた。

 仮説ではあるが、恐らく体力面でも強化が入っているだろう。

 現時点でも結構走り回っているのだが、予想以上に疲れていない。


 契約時、魔法少女に強制的に変身させられ光が弾け姿を表した時、ユニーは、魔法少女ってよりなんか騎士みたいだ。と言っていた。

 自分でも衣類は確認したが、確かにあの子のようにフリフリとして豪華な衣装。という風貌ではなく、鎧を着ている分けではないが見た目だけなら、騎士のようで少しばかり格好いい。そのような印象を持った。不満点があれば。


「白主体の色は夜目立つから嫌なんだけどなぁ」


 出来れば色は黒主体であって欲しかった。闇夜に紛れやすく発見されづらい。


 草原は見通しがよく、今宵は運よく月が出ているため一旦後回しとする。

 身を隠すには不向きなうえ、もし草原を主に通って行ったとしたら相当遠くに行ってしまっている可能性がある。

 で、近場で身を隠しやすい場所と行ったら空き家と森。


 把握している空き家の近くを走りテレパシーを送って確認は粗方した。

 が、返答は何もなかった。あまり、あたしと喋ろうはしない子だが、流石にこの状況で無視をするほど馬鹿ではないため居ないと判断する。後は森の中。此処がダメなら次の手を考える必要が出てくる。


「さて、大口を叩いで出てきたんだから、ちゃんと居てよね。助けられないからさ」 

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