『創造主と世界闘戦』

ブリしゃぶ

第1話

プロローグ


 いつもと変わらぬ朝。

「……んっ……んんっ。…………またしても下界にて醒めてしまったのか」

 今年に入って何度目かの朝の目覚めの一言シリーズ第二弾を呟き、ベッドから這いずり出る。

 それから身支度を整える為、洗面所へと向かう。あらかたの行程を終え、鏡に向き合うと、まるで鏡の中の自分へ語りかけるように話し始める。

「やぁ、我が魂の寄生木たる人類よ。我こそが万物の創造主、そして貴様の主……伊邪那岐統夜いざなぎとうやだ!」

 伊邪那岐統夜こと――柊真染ひいらぎしんじ。高校二年生。

 自らを創造の神――伊邪那岐統夜と名乗る中二病末期患者である。

 まことに痛い事この上極まりない発言を終えると、朝食を取り、改造制服(中二病的)に着替え、最後にペンダントトップが鞠のデザインをしたネックレスを付ける。

「さあ行こうか。一千転生前の俺が創り上げたこの世界へと」

 嗚呼……何とも痛々しい『いってきます』を言って家を出る真染。

 だがそれが、伊邪那岐統夜こと、柊真染の最後の平穏な日常のひとコマとなったのだった。


 それはあまりにも唐突過ぎた。

 ただ何気なく空を見上げただけだった。

 すると不思議な事に、真染に向かって空から――女の子が舞い降りてきたのだ。

 それも、絶対領域を創り出すニーソ、そして何処と無く見覚えのあるミニミニスカートの再奥からは純白の下着を惜しげも無く御降臨成させて。

「御パンティー!!」とか、「ありがとうございますっ!!」とか、言いたい事は沢山あったが、真染がやっとの思いで絞り出せた言葉は――

「親方ぁ……空から女の子が降ってきやしたぜ」

 ――ありふれた名言であった。

 そして、真染の前に降り立った美少女はヒロインよろしくとばかりに自分の要求を突きつける。

「アナタ、柊真染君ね。お願い、私と一緒に来て! 世界を救って欲しいの」

 こうして伊邪那岐統夜こと、柊真染の日常は崩壊していった。


「お願い、私と一緒来て! 世界を救って欲しいの」

 柊真染ひいらぎしんじの前に降り立った美少女は出会い頭にこう告げた。

 普段周囲を困惑させる真染だが、まさか自分がその立場になるとは思わず、直ぐに言葉が出ない。補足だが、真染は普段自身の言動が周囲を困惑させてる自覚は無い。

「…………。ふっ……貴様、誰に事を頼んでいるのかわかっているのか? 俺は――」

「柊真染。十七歳。私立蓮山高校二年六組」

 少女は腕を組み、暗記してきた原稿を読むが如くスラスラと言い上げる。

「お、おう……いや、それは俺が魂の憑代よりしろとしているこの器の――」

「成績は技術が学年最高で後は基本五科目もそこそこのようね。でも体育や音楽等は壊滅的みたい。やっぱりそういうキャラの人って感じの成績ね」

「貴様……何故そんな事を知っている!?」

「他にも、部活には所属してないし、アナタの特有の素行もあって学友はほぼ皆無」

「んなっ!?」

「そして極めつけは――」

「ま、待て! 貴様一体何者なのだ!」

「アナタは……万物の創造主、伊邪那岐統夜いざなぎとうや! ……だったわよね? それに心酔する生粋の中二病末期患者っと」

「やめろぉぉぉおおおおおお!!!」

 頭を抱え荒れ狂う真染。そんな彼を蔑む目で見る少女は、頬を少しばかし赤らめて続ける。

「そして……私の下着を見て鼻血を垂らしてる変態さん」

「いや、それに関しては不可抗力だ。ありがとうございました」

 鼻血を垂らしてる事など気にもせず、真染は感謝を述べるのだが、少女はドン引き。

「清々しくて余計キモいわよ」

「黙れ謎多き美少女よ! そもそも貴様の名は何というのだ! 一体どこの組織の差し金で俺に接触してきた?」

「び、美少女……んんっ。私は紗妻海美歌さづまうみか。アナタと同じ十七歳よ。そしてアナタに接触したのは、これから貴方に会って欲しい人の指示よ」

「うみか、か。どんな字を刻むのだ?」

「海に美しい歌で海美歌よ」

「海に美しい歌……うむ。ならば貴様の事はシータ・レライ……シーラと呼ぼう!」

「ちょっ、ちょっと! 変なアダ名付けないでくれる!? 圧倒的にセンスも無いし、大体シータ・レライってどこから来てるのよ!?」

「ふっ……。これだから無知なる美少女は」

「それと、さっきから美少女美少女って嫌がらせのつもり?」

 口調に対し頬を先程よりも赤らめる海美歌の表情は反比例している様にも見える。そんな事お構い無しに真染は雄弁に語る。

「いいかシーラよ! 貴様の名の由来は至って単純だ! 空から降る美少女に相応しき名。そして海に美しい歌など、ローレライの名を刻まずして何と呼べと言うのだ! それら二つの聖名を合わせる事で、真の名が生まれたわけだ! どうだ、崇高なる由来に言の葉も出ぬか。そうかそうか。ふははははっ!」

 両手を天高らかに笑い上げる真染。海美歌の事など知らぬうちに蚊帳の外である。

「ホントマジでありえないんですけど。何でこんなヤツに世界を救う様にお願いしなきゃいけないのよ。それに、私の下着も見られて……ホント最悪」

「さてシーラよ。貴様らの目的が何かは知らぬが、俺に接触させたい人物に会えば全て話してもらえるのだな?」

「ええ、そうよ変態」

「変態はやめろ。俺の名は伊邪那岐統夜いざなぎとうやだ!」

「はいはい。それより一ついいかしら?」

「何だ?」

「貴方……学校行かなくていいの?」

「…………」

「ちょっと大変かもだけど、急げばまだ遅刻にはならないんじゃない?」

「…………ちくしょぉぉおおおおおお!!」

 真染は走った。先程の流血や普段の運動不足を感じさせない鬼気迫る走りで。

 すれ違った人達の中には、友の為に駆けるあの歴史的作品の主人公を思い浮かべた者もいる程にだ。

「あぁんのぉお……ぜぇ、ぜぇ……クソアマァァァアアアアア!!」

 無論、その様な暖かな目で見てくれたのはごく一部で、大半は冷ややかな視線を送り続けた事は言うまでもない。

 そうして、世間の評価をさらに下げながらも、無事に遅刻を免れた真染であった。


 ――放課後。

 朝の出来事と大好きな技術の授業が無かった為に、いつも以上に疲労感に包まれながら柊真染ひいらぎしんじは帰路に着いていた。

「おのれシーラめ、次の世界創造の際には山羊か豚に転生させてやる……」

「ちょっと、妄想とはいえ女の子に対してそれは失礼じゃないかしら。それと、その変なアダ名いい加減にやめてくれない?」

「うおっ!? シーラ貴様いつからそこに潜んでいた!」

 突如建物と建物の間の路地裏から話しかけられ……って、コイツやってる事、立場が逆ならストーカーでポリスメン沙汰だぞ。と頭では言いたい事が浮かんでいるのに驚きのあまり声に出せない真染。

「だから私はシーラじゃない。いつから潜んでいたという問いには今さっきと答えるわ。待ち伏せしてた訳じゃないしね」

「そ、そうか。それで俺様に何の用だ? 俺はそろそろこの下界での活動限界を迎える為――」

「そういうのはいいから。朝言ったでしょ、アナタに会って欲しい人がいるって」

路地裏から出た紗妻海美歌さづまうみかは「ちょっといただけなのにホコリっぽくなっちゃったわ」と言いながら服に付いたホコリを手で払いつつ真染の前に立つ。

「人が喋ってる途中で話しを切るでない。それに今からか? もしかして、俺の学校が終わるのを待っていたのか?」

「まあね。それがあの人の意向だからね。確かに遅くなっちゃうのは申し訳ないと思うけど、アナタの為でもあるんだからおあいこよね」

「そう言われてしまうと何も言えないではないか。あぁもう! 好きにするがいい。俺様を何処へでも連れて行け」

「あら、意外と素直な所もあるのね? それじゃ行きましょうか。ついてきて」

こうして真染は海美歌の後をついて行こうと歩き出す――つもりだった。


『おいおい、何処へ行こうと言うんだ? それとも、貴様らのアジトまで案内してくれるっつーんなら喜んで案内されてやるよ!』

「「っ!?」」

 その一声に前にいる海美歌も足を止めてしまう。

「だ、誰だ!」

「まさか、組織の手先!? こんなにも早く動き出してたなんて」

 真染達のの前に突如現れたのは、彼等と同い年くらいの男で、左眼に眼帯をしている。

「おいおい、そちらさんだけで盛り上がんなって。それにそっちの野郎。用があるのはそっちの女だ、お前はさっさと家に帰んな」

「そういう訳にはいかないんだよ。俺もシーラに用があるってこれからエスコートしてもらうんだからな」

「はっ! 野郎が女にエスコートしてもらうだぁ。ずいぶん泣ける話しじゃねぇか! テメェそれでもついてんのか? 童貞ヤロー」

「ど、童貞は関係無いだろっ! ……ってか、お前よく見たらその服……うちの生徒だろ。いい加減名乗れよ」

「ったくよぉ! はいはい、名乗ったらいいんだろ? 名乗れば。……俺は蓮山高校二年一組、名は――」

「――っ!? そんな、まさかココでやる気なの?」

 男は眼帯を外し、金色に輝く左眼を顕にし叫ぶ。

「今さら遅ぇよ! 俺の名は、闇を統べる暗黒君主――ダークリッド・ハーデス!」

「な、何っ!?暗黒君主だと!」

「その名を以て、世界を開く!」

 その男――ダークリッド・ハーデスが叫んだ直後、真染達の視界は闇に包まれた。


「何だこれは!? まさか、これが暗黒君主の力だと言うのか……うおっ!」

 真染は突如見えない何かに引っ張られ半ば引きずられながら、後ろと認識する方へと進む。

「真染君、大丈夫? ひとまず彼から距離を取りましょう。目は見えるかしら?」

「そ、その声はシーラか! いや……まだダメだ」

 完全な闇ではないにせよ、夜目が効くまでまだ時間が掛かりそうだ。

「そう。走りながらでいいから聞いてちょうだい。まずこの状況だけど、ココは彼の造り出した妄想の空間」

「妄想の空間だと。ヤツは暗黒君主ではないというのか?」

「半分正解で半分間違い。彼は確かに暗黒君主、ええっと……」

「ダークリッド・ハーデスだ」

「そう、それ。そのキャラになりきっているだけの、いわゆる中二病よ」

「ちゅ、中二病だとっ!? ヤツはそんな無粋で哀れなヤツだったのか!」

「アナタもその部類なんだけどね……」

「何か言ったか? シーラよ」

「だからシーラはやめて。話しを戻すけど、彼のように中二病が進行しすぎた人の中には、自分の思い描く世界を具現化出来る超能力者がいるの。私達は《スタグナー》と呼んでいる」

「《スタグナー》か。まさかそんなヤツらの超能力バトルに俺達は巻き込まれたのか?」

「そうね。そのスタグナー同士が衝突して互いの世界をぶつけて戦うのが――《世界闘戦》」

「戦い……と言うからには勝者と敗者が生まれるな。一体どうなるんだ?」

「敗者は、勝者の世界に染められてしまうの。しかも何故か最近では私みたいに中二病じゃない一般人も戦いに巻き込まれてる事件が起きてたの。勿論、戦う力のない一般人は勝者の世界に無条件で染められてしまう」

「おい待て。シーラ自身の事もあるが、俺は一体どうなるというのだ? この伊邪那岐統夜いざなぎとうや様が無抵抗に敗北する事はないと思っているが」

「……そう。だから私はアナタに接触し、世界を救って欲しいと願ったの。アナタにもスタグナーの素質があったから」

「お、俺がスタグナーだと言うのか……そうか」

「本当はゆっくりと話したかったんだけど……ごめん」

「……それで、俺はどうすればいいんだ?」

「え? 驚いたりしないの?」

「一瞬な。だがそんな事で動揺しては伊邪那岐統夜の名が廃る。それに、今はこの状況を打破する事こそが世界の創造主としての務めだからな」

「……わかった。貴方の覚悟、確かに見届けたわ。――コレを付けて」

だいぶ夜目が効いてきた真染は、海美歌からブレスレットを受け取る。

「ソレはアナタの妄想力を高める《デリュージョンリング》。ブレスレットを付けてさっきの彼のように名前を叫んで――『その名を以て、世界を開く』と続けて」

 言われるがままにブレスレットを左腕に付ける。すると――

「凄い、何だこれは? 力が溢れてくるのが分かる! いや、今まで失っていた力が甦るようだ!」

 二人は足を止め、逃げて来た方へと向き直る。

「さあ、その力で戦って! 柊真染!」

「柊真染……? 我が真の名は――万物の創造主、伊邪那岐統夜いざなぎとうや! その名を以て、世界を開く!」

 真染が叫びながらかざした左腕のブレスレットが、晴天の澄んだ空のような鮮やかな天色あまいろに輝き、真染――統夜達を包み込んだ!


 光が収まると統夜とうやからは天色あまいろのオーラが溢れていた。他にも身に覚えの無い装備がいくつか装着されている。

 両手には、指先が開いたグローブ。左眼にはモノクル。そして肩から袖にかけてオーラと同じ天色の二本のストライプが入り、丈は踝辺りまである漆黒のローブを羽織っている。

「これが俺の真の姿……悪くないな」

「まぁアナタの妄想の具現化だからね。ただ、状況は良くないわ。なんとかハーデスの影響力が広まり過ぎて、アナタの領域が少な過ぎる」

「丁度いいハンデだ。それより、途中から思っていたのだが、ハーデスは一体何をしてる? 何故仕掛けて来ないんだ」

『おーい、やっと終わったのか? 生っぬるい前戯しやがって。待ってる間に萎えちまったじゃねぇか』

「情けをかけたつもりか、暗黒君主? その余裕に後で後悔させられるんだよ。お前みたいなキャラはな」

『ごたくはいいからさっさと失せろ。萎えちまった分、そこの女に奮い勃たせてもらうんだからよ』

「下衆いな。暗黒君主とやらの神格は随分と低いのか。それ――」

「きゃっ!」

「何っ!? ――ぐあっ!」

 突如、海美歌うみかの叫び声が聞こえ振り向こうとした途端、無機質な何かに突き飛ばされる。

「真染君っ!」

『喚くなよ、うっせぇなぁ。後で嫌って程いい声で鳴いてもらうんだから待ってな』

「な、何これ!? 身体が……」

 海美歌の四肢は形無き闇に呑まれ、彼女の横からは音も無くハーデスが現れる。

「そんな恐い顔すんなって。後でたっぷり可愛がってやるからよ」

「いってぇ……余所見してんじゃねぇぞ、ハーデス!」

 叫んではみたものの、統夜にはどうすれば力を行使出来るのか全くわからなかった。だからこそ純粋にハーデスへと拳をぶつけようと走り出す。しかし、そのハーデスは再び闇の中に消え、声だけが辺りに響く。

『なんだウジ虫、まだ生きてたのか? さっさと逝っちまいな――闇の眷属【ダークウルフ】!』

「ちっ――ぐあぁあああ!」

 統夜に迫る黒い何か。為す術も無く闇に喰らわれ、呑まれていく。

「はっ。呆気ねぇなぁ……創造主とか言うくせに何も創れないとはな。今までどうやって創ってたのか知りたいくらいだよ」

「お願いもうやめて! 彼はさっきスタグナーになったばかりなの! だから――」

「だぁからぁ! うるせぇっつってんだよ!」

「きゃああああっ!」

 ハーデスが腕を振ると、海美歌の体の周りを蛇の様に闇が絞めあげる。

「やめろ! その女は関係無いだろっ!」

(だが、俺にどうすればいいんだ! 何かを創りたくても、方法が分からねぇ!)

「どいつもこいつもうっせぇえ! ――闇の眷属【ダークウルフ】!」

「ぐあっ! ……はぁ、はぁ……」

(今までと言ったって……今まで……伊邪那岐統夜いざなぎとうやとして……っ!)

「そうか……うぐっ! …………」

「何ぶつぶつ言ってんだよ? これで終いだ――押し潰せ! 闇の眷属【ダークタートル】!」

「……………………!」

 どぉぉおおおおおん! と上空から落下した闇の塊に統夜の姿は完全に呑まれた。

「真染ー!」

「あぁーかったるかった。さて、俺は前戯とかどうでもいいから、早速――」


「――おい、暗黒君主。いつから貴様はこの俺様をほふったと錯覚したのだ?」

「……あぁ!?」

 ごぉぉおおおおお! と蒼炎が昇り、炎の根元にはあかあおの二色の剣を持った統夜が悠然と立っていた。

「真染君っ! 良かった、無事だったのね」

「テメェ……何で生きてやがる!? さっきので完全に闇に呑まれたはずだ!」

「何だ? さっきのが貴様の全力か? やはり丁度いいハンデだったみたいだな。あんなちっぽけな闇など、我が創りし剣の前には無力だ」

「そんななまくらが俺の闇を……言っとくが! さっきのが全力な訳ねぇだろうが! 馬鹿にすんじゃねぇよ!」

「それは良かった。感謝するぞ、暗黒君主――ダークリッド・ハーデス。よくぞこれ程までに俺の主人公プロセスを構築してくれてな」

「……何言ってんだテメェ?」

「分からないのか? やはり貴様は元来から悪のキャストなのだな。いいか、ヒロインを人質に取り、悪を行使し善を追い詰める。そして貴様の言動一つ一つが俺様に逆転へのヒントを与えた。そして、俺はこうして貴様を打ち倒す為の剣を創り上げた。これを主人公のお約束と呼ばずして何というのだ?」

「ンなこと知るかよ! わーったよ。今から俺様の本気、見せて――」

「やめろ暗黒君主」

 真染は左手に持つ蒼の剣をハーデスへ向け、言葉を遮る。

「それ以上は本当にフラグになる。そんな当たり前なお約束展開を俺は望んでいない」

「てぇめぇえ……!」

「御託はいいから、続きを始めよう。貴様の相手を務めるのは、万物の創造主――伊邪那岐統夜いざなぎとうやだぁっ!」

 二本の剣から朱と蒼の炎を迸らせ、統夜は闇を駆ける!

『うぜぇえええ! ――闇の眷属【ダークウルフ】!』

「やはり貴様、それしか出来ないのか? 往くぞ――【朱の剣、迦具土ノ剣かぐつちのつるぎ】、【蒼の剣、フランベルジュ】」

 統夜が剣の呼ぶとそれに応えるように双剣から更に勢い良く炎が立ち上がる。

 左手に持つ蒼の剣――フランベルジュを振るう度に、統夜に迫る闇が消滅していく。

 右手に持つ朱の剣――迦具土ノ剣を振るう度に、周囲の闇が照らされ景色が露になる。

 露になった景色は戦いが始まる前の景色だが、人や車等の動有る存在はいない。

 つまり、これは統夜が創り出した世界である。動有るモノを排したのではなく、其のモノ達を守る為の世界。

「お、俺の世界が……っ! テメェ何だそのデタラメな武器は!」

「これは俺が創り出した武器だが? 【蒼の剣、フランベルジュ】は、魔や闇なるモノを討ち祓う剣だ。そして、【朱の剣、迦具土ノ剣】は、闇を照らし真明を創り出す剣だ」

「そんなご都合主義な武器があってたまるかよ!」

「おいおい、此処は俺達の創り出した世界だぞ。俺は俺の力を想像し、創造したにすぎないが、もしや暗黒君主。貴様……俺の世界に影響されてるんじゃないのか?」

 どうやらそれが決定打だったようだ。

 先程まで圧倒的な支配力を持っていた闇に亀裂が生じている。

「さて、暗黒君主よ。そろそろ決着をつけてやろう。言っておくが、シーラを盾にしよう等と考えるなよ。俺の攻撃は貴様にしかダメージを与えないからな。それと、闇に潜んでも無駄だ。このモノクル――【八咫方眼鏡やたのかためがね】は俺様に真実を視せる。貴様はもう逃がさない!」

 ハーデスの最後の足掻きとなりうるはずだった全ての可能性を否定した事により、さらに闇の世界に亀裂が生じ、一部では闇が自ら消失している。

「この俺が……暗黒君主たるこの俺が……素人中二病童貞に負ける……だと? そんな事あってたまるかぁあああ!」

「騒がしいぞ暗黒君主。それと、俺に童貞という概念は存在しない。何故なら、俺様は万物の創造主、伊邪那岐統夜だからだ! くらえ! ダークリッド・ハーデスっ!」

「や、やめろぉぉおおおお――っ!』

「必殺! ――【朱龍蒼炎破しゅりゅうそうえんは】!」

 技名と共に振り抜いた双剣から蒼炎をまといし朱き龍炎が駆け抜け、ハーデスを呑み込み闇を照らした。

 完全に闇の空間は崩壊し、茜色の空が広がる統夜の世界が場を制した。

「改めて応えよう。暗黒君主、ダークリッド・ハーデスよ。貴様を倒したこの俺様は、万物の創造主――伊邪那岐統夜だ!」

 こうして、統夜の初陣は見事な勝利に終わった。

エピローグ


 闇の世界が崩壊した事で海美歌うみかも解放された。

「真染君っ!」

 僅かな高さではあるが、天から舞い降りる彼女はやはり美しい。そう真染しんじは改めて感心しつつ、見えそうで見えない海美歌の下半身ばかり気にしていた。

「…………っ!? ぐはっ!」

 その為、落下する海美歌を受け止めきれず倒れ込む。

「ちょ、ちょっと真染君! 今の場面でどうして私を受け止めきれないの? これだから中二病の人は……」

「うぐぐっ……仕方なかろう! 漢としての本能には逆らう事など出来ないのだからな!」

 などと言いつつも、海美歌に押し潰される様に倒れてる為に体が密着するこの状況に、

「だが、これも悪くない。ご馳走様です」

「煩悩が声に出てるわよ変態君。――えいっ!」

「ぐふぉおっ!!」

 海美歌渾身の鳩尾への鉄拳が炸裂。たちまち真染の意識が落ちていく。

(ま、まて……こんな終わり方って、あっていいのか……? まだ……伏線回収しきれてない……てか、結構ガチで入ってて、声が出てな…………)

 ここで真染の意識は完全に落ちたのであった。


―続―

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