青薔薇の歌姫は夜中に笑う

細雪きゅくろ

青ばらのうたひめ

今から何百年も昔のお話。

ローズ王国に、可愛らしい姫がたん生しました。王さまはたいそうよろこび、姫のひとみの色から「青ばら姫」と名付けました。

姫はすくすくと成長し、お守りの騎士を困らせるほどやんちゃに育ちました。お妃さまは、姫がいつも泥んこになって遊んでいるので、心配になりました。立派な一国の王女になれるのか、不安でならなかったのです。

今日も、騎士と姫はいつものように庭を駆け回っていました。騎士にとって幸いだったのは、城の庭が広く姫が城壁の向こう側へ興味を示さなかったことでしょう。もし脱走なんてしたら、とんでもないことになります。五歳の青ばら姫はまだまだ幼く、外に行かずとも騎士と追いかけっこをしていれば楽しかったのです。そうして姫と遊んでいるのは、騎士にとっても楽しいことでした。そこへ、お妃さまがやってきました。騎士は遊びを止め、あたまを下げます。青ばら姫は母親の姿を見て逃げようとします。姫は勉強を無理やりさせるお妃さまのことがきらいだったのです。

「青ばら姫を捕まえなさい。」

お妃さまが命令すると、騎士は立ち上がりました。そして、いつもの追いかけっことは違う、すごい速さで姫に近付き、一瞬で捕まえてしまいました。捕まえられた姫は暴れます。手が痛くなるというのに、何度も何度も騎士のよろいを殴りました。騎士も、姫が勉強をここまできらうわけを知っていました。間違えると、むちでお仕置きされるのです。王さまはこのことを知りません。教育のすべてはお妃さまがしているのです。騎士は、そんな教育は間違っていると思っていました。しかし、まだ若い自分がお妃さまに意見するなど、できません。だから、従うしかないのでした。

姫は、勉強の部屋に連れていかれました。騎士は扉の前で警備をしています。今日も、分厚い扉の向こうからむちがしなる音と押し殺したような泣き声、そしてお妃さまのヒステリックな叫び声がきこえます。



───「青ばらのうたひめ」第12版

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青薔薇の歌姫は夜中に笑う 細雪きゅくろ @kyukuro_sasame

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