番外編 メリークリスマス
クリスマスなので、クリスマスイブに一人で寂しく書きました。
死にたくなりました。
☆
「メリークリスマス!」
「めりーくりすます!」
ダルダルな朝の目覚ましは、メリクリとかいう呪詛の言葉だった。
「え? なんだよ。今日は休みの日でしょ、やめようよ異世界の単語を出すの」
「日本では本日はクリスマスなんです。お祝いしましょう」
「何がお祝いだ。クリスマスなんて盛りのついた男女がイベントと称して、ことに及ぶだけの薄汚い不埒パーティじゃないか。俺は絶対に祝ってやるもんか」
「偏見の塊ですね。もっと綺麗な目で見ること出来ないんですか?」
「むしろ綺麗に見ているから周りが汚く見えるの。俺はばあちゃんがクリスチャンだったから、子供の頃はよくミサで讃美歌を歌わされたんだよ。こちとらクリスマスガチ勢なわけ。それが何だ、クリスマスで盛り上がる奴等って十字の切り方も知らないじゃない。中学生の時に呼ばれたクリスマスパーティで、ルカによる福音書のイエスの生誕の場面を読みあげたら引かれたよ。それ以来、俺はクリスマスを恨むようになりました!」
「普通のボッチより闇が深そうですね……」
「パパこわい……」
ほら、引かれたじゃないか。これだからクリスマスって嫌なんです。
「そんなわけでおやすみなさい。俺は寝るんです」
「拗ねないでくださいよ。シャンの為だと思って、一肌脱いでください」
シャンを持ち出されると弱い俺である。
「わかったよ……でも、なにするの?」
「サンタさんを捜しましょう」
「ヨブ記でも読む?」
「それはサタンです。私が言ってるのはサンタです」
「シャンもサンタさんにあいたい!」
「サンタを捜すって……」
いないものを見つけるだなんて出来ません。と言いたいところだけど、シャンの目の前で夢を壊すようなことは言えない。そもそもレインが何を言いたいのかわからない。
「煙突にパラライズのトラップを仕掛けたのですが、朝になっても来なかったんです。普段からいい子にしていれば、サンタさんは来ると聞いていたのですが、不思議なものです」
トラップを仕掛けることが善良な行為には思えない、というツッコミどころは無視するとして、レインは至って真剣である。
まさか、サンタを信じているのだろうか?
「そんなわけで、一緒に捜してください」
「さがしてください!」
二人ともキラキラした瞳で懇願してくる。
「わかったよ……」
純粋な心を無下に扱うことも出来ず、首を縦に降った。
☆
サンタは白いひげに赤い服を着ているおじいちゃん。という印象だけで俺達は市街地をうろつきながら捜すけれど、当然見つからない。
レインはシャンと一緒に通りすがる人々に聞きこみを開始する。
俺は俺でフェリちゃんに頼んで、サンタを探してもらっている。俺が今すべきことは、彼女たちを傷つけずに場をしのぐことだ。
クリスマスだし、適当にケーキでも奢れば納得してくれるだろうか?
だけど、彼女たちの熱量は尋常じゃなく、昼も食べずにかれこれ三時間ほど捜索活動に勤しんでいる。
あまりに暇なので、二人の目を盗んで買い食いしたり、欲しいものを買ったりした。買ったものはバレない様にアイテムストレージの中に放り込んでおく。祝いの日に怒らせたくもないしね。
そうしてサボりながら時を過ぎるのを待っていると、
「サンタさんの情報を手に入れました!」
まさかの目撃情報の入手に踊らされることになった。
「うそ!? どこにいるのよ?」
「スラム街で赤い服の男を目撃したそうです」
それ、ララファの手下じゃね?
と思ったけれど、口には出さないでおく。
「赤い服を着たオヤジってオチじゃないよね?」
「ええ、ちゃんと特徴が一致してます。赤い服で白いひげのおじいちゃんです」
「まあ、確かめるだけしてみるか」
そうして、俺達はスラム街にたどり着く。
「あ、兄さん! お疲れっす!」
ララファの手下であり、カラーギャングのリーダーであるビクセンくんが、俺を見つけるなり頭を下げてくる。
「ああ、元気そうで何より」
「今日はどうしてここに?」
「人探しをしててね。赤い服で白いひげのおじいちゃんを捜してるんだけど、知らない?」
あえてサンタさんと言わずに聞いてみる。
「ま、まさか……サンダー・クローズのことですか!?」
「サンダー・クローズ?」
「伝説の大怪盗の名前ですよ。全世界の大富豪から、ありとあらゆるお宝を盗んで、この世のどこかに隠したと言われていて、多くのトレジャーハンターが今でも血眼になって宝を探しているっす」
「そんな奇特な人がいるんだ。その人がこの町にいるの?」
「それが、いろんな国で目撃されているらしくて、確定情報じゃないっすけど、この辺で見たって人もいるみたいっす」
どちらにせよ、俺達の求めるサンタさんではないだろう。
当てが外れたと思い、帰ろうとするのだけれど、
「あ、サンタさんだ!」
とシャンが嬉しそうな声をあげながら、奥の道に走り去ってしまう。
「ちょ、どこいくの!?」
「とにかく追いましょう」
俺達はビクセンくんと別れ、シャンの後を追いかけるのだが、子供の走るスピードをはるかに超えた速度で先に行ってしまい、追いつくことが出来ない。
「なんてこった、どこ行ったんだ!?」
「索敵! 索敵をさっさとですよ!」
「ああ! それそれ!」
なんというか俺達はアタフタだ。
二人して深呼吸して落ち着いてから、【索敵】を発動させる。
「ここって家の中かな?」
「とにかく行ってみましょう」
「うん」
俺達はマップで表示された場所へ向かい、目的地に到着する。
その家は贅沢と言えないが、スラム街にしては生活感のある場所だった。
「ここにサンタさんがいるのでしょうか……?」
「いや、まさか……」
中から楽しそうなシャンの声が聞こえる。どうやら、危ない人ではないようだ。
シャンにもしものことがあったら、危ない人が危ないことになってしまいかねない。
一安心し、落ち着いてドアをノックする。
すると、
「おや、今日はお客さんが多いね」
温厚な老婆が姿を現した。
☆
「勝手に行っちゃダメじゃないか」
「……ごめんなさい」
ちょっと叱っただけで、シャンはしょんぼりしてしまう。
人を怒るのは心が痛い。でも、大切なことだ。
「ごめんなさい。うちの子が勝手に家に入ってしまって」
レインが老婆に頭を下げる。
「すみません。ほら、シャンも誤って」
「ごめんなさい」
「いえいえ。いつも一人で寂しい思いをしていたので、むしろ感謝したいぐらいなの」
見た目通りの性格のようで、怒る様子は見られない。
「それにしても、どうしてこんな場所に来たのかしら?」
「あのねっ! サンタさんを追ってきたんだよっ!」
「サンタさん……? ああ、わたしの夫ですよ」
老婆の口から信じられない言葉が発せられる。
「え……? サンタクロースの奥さんですか?」
「はい。サンダー・クローズの妻のマンディ・クローズと申します」
「サンダー・クローズ? それって大怪盗と聞きましたが?」
「ええ、ですがそれは昔の話です。いまはサンタクロースとして、どこかで元気に活動している筈なんですが、本当に見たの?」
マンディさんはシャンの言葉に驚いた表情を見せ、聞いてくる。
「うん。まっかなふくで、しろいおひげだったよ!」
「そう……」
マンディさんは何かを考えているご様子。自分の中で整理しているようだ。
「それにしてもサンタクロースを知っているってことは、あなた達も前の世界のことを知っているのかしら?」
「そうですか。だから、サンタクロースの存在を知っていたんですね」
「え……? なに、どういうこと?」
レインは納得したように頷いているが、俺には何が何だかさっぱりである。
「この世界の人はサンタクロースを知りません。知っているのは、前世の記憶を持った転生した人だけです。つまりマンディさんも転生者なのです」
また現れたよ異世界転生者。しかも大先輩のようだ。
「うふふ、あの頃は若かったわ。大怪盗と恋をしたいなんて夢を持って生き返ったら、本当に叶ってしまったのよ」
マンディさんは恥ずかしそうに自分語りをしている。
心を奪われたようで何よりです。
「はあ……でも、どうして大怪盗がサンタさんをやってるんですか?」
「私がサンダーにサンタクロースの話をしたら、感化されちゃったみたいでね。他人の家に忍び込むのが得意な人だったから、特技を生かして人を笑顔にさせたくなったみたいなの」
泥棒から足を洗って、サンタになったのだと彼女は語る。
「なるほど、私たちのところに来なかったったのは、単純に世界各地を飛び回って忙しかったからなんですね」
「まってれば、きてくれるかな?」
「ええ、きっと」
マンディさんは頷く。
「そっかー、じゃあ、シャンいつまでもまってるよ!」
マンディさんの話を聞いて、シャンも納得してくれたようだ。
「なんか、催促しているみたいですみません。この二人がどうしてもサンタに会いたいって言うから、ここまで来ちゃったんです」
「いえ、あの人が必要とされていると聞けて、嬉しい」
その後もマンディさんは嬉しそうに、サンダーさんとのイチャイチャ生活について語ってくれた。老人の話にしては随分とみずみずしく新鮮であった。
変に盛り上がってしまったマンディさんの提案で、夕飯もご一緒することになり、随分と長居してしまい、気づけば夜になり本日はお暇することになる。
「あの、最後に良いかしら?」
どうやら、マンディさんは俺に話があるようだ。
俺はレインに視線を送ると、
「先に行ってますね」
気を使ってくれたのか、家を出ていく。
マンディさんと二人きりになると、彼女は少し寂しそうな表情になる。
「どうしたんですか?」
「ひとつ謝らなきゃいけないことがあるの」
「……?」
「嘘をついてたの」
「……嘘ですか?」
マンディさんは一呼吸おいて、口を開く。
「あのね、サンタはもうこの世にいないの」
「……それって」
彼女の夫であるサンダーさんのことだろうか?
「どうして、そんな嘘を?」
「子供の前でサンタがいないなんて言えないでしょ?」
「そう、ですね……」
どうやら、今まで俺達に気を使って話をしてくれていたらしい。
でも、だとしたらシャンが見たサンタは何者だったのだろう?
「今でもね、たまに思うの。あの人が実は生きていて、子供たちにプレゼントを届けているんじゃないかって……いい歳してロマンチストでしょ?」
「良いことだと思います。きっと長生きしますよ」
「うふふ、そうだといいわね」
最愛の人をなくすというのは、苦しいのだろうな。
あまり、想像したくないな。
「サンタはもういないけど、あの子の夢は壊さないであげてね」
「はい、子供の夢を守るのが親の役目ですから」
俺はマンディさんに答えを送る。
「ありがとうね」
マンディさんの言葉を受けて、俺は家を出た。
☆
「お似合いです。ご主人様」
「えー、それはちょっと嫌だな」
家に帰り、俺はフェリちゃんに頼んでいた物を受け取り、着てみる。
鏡を見ると、そこには真っ赤な服と白い付けひげをした怪しい男がいる。
想像していたよりもずっとサンタっぽく、流石はフェリちゃんだなあと感心せざる得ない。
「それで、二人は寝たかな?」
「はい。先ほど確認しました」
最初からサンタはいないと決めつけていた俺は、サンタ捜索作戦中にすでに準備をしていて、プレゼントも彼女たちが聞き込みをしている最中に買ってある。
「全く、俺ほど気の利く男もいないね」
「流石です、ご主人様。その百分の一でも良いので、僕にわけてください」
「……今度ね」
とまれ、これで夢を守ることが出来るわけだ。
俺は計画通り、彼女たちの寝室へ侵入し彼女たちがベッドで就寝しているのを確認する。思惑通りスヤスヤで、頬がニヤついてしまう。
なんだか、イケナイことをしているみたいだ。
プレゼントをアイテムストレージから取り出し、手に現れたのは、白狐のぬいぐるみ。
典型的だけど、プレゼントはシンプルな方が喜ばれる。子供ってのはそんなもんで、少なくとも俺はそうだった。まあ、今の子がどうかは知らんが、本質は変わらないだろう。
俺はぬいぐるみをシャンの寝顔の隣に置く。
つうか、この格好する意味あったのだろうか?
「あとは……」
もうひとつ、プレゼントを取り出す。
まあ、シャンだけにあげるのもアレなので、一応レインの分も買った。
いい歳してサンタなんか信じるなよ。俺のお小遣いが泣いてるじゃないか。
ここで指輪とか置いたら、すげーイケメンなんだろうけど、そんな資金はないし、恥ずかしいし、何でそんな物あげなきゃいけないの? って感じ。
なので、魔力が上がりそうな髪留めを買った。
魔力だけでなく魅力も上がればいいね。まあ、無理だろうけどね。
「メリークリスマス」
また、来年も出来ればいいなと思い、心が少し膨らんだ。
そして翌日である。
「パパ! サンタさんからプレゼントがとどいたよ!」
全世界の笑顔が詰まっているのかと疑うレベルの素敵な表情で、すごく幸せそうだ。
けれど、何故かシャンの腕には二つのぬいぐるみが抱えられていた。
「え……? なんでふたつ?」
「わかんない」
「不思議ですよね。私にはひとつだけでした」
レインは髪留めをつけて、俺に見せつけてくる。
「どうですか?」
「なにが?」
「似合ってるぐらい言って欲しいです」
「はいはい似合ってる似合ってる」
結構悩んだんだから、似合ってくれなきゃ困る。
「これ、大切にしますね」
「サンタさんに言え」
「シャンもたいせつにするよ」
「おう、白狐のほうを特に大切に頼む」
それにしても、誰がシャンにプレゼントしたのだろうか?
まあ、彼女が笑顔なら誰でもいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます