【見えないからこそ、強きチカラ】 第十一部

 そう思うのはまだ俺が子供だということなのだろうか……


「改めて話を戻すが、社会はそうでも私はそうではない。だから、こうしてデータを集めていたのだ」


 俺は気持ちを改めて、先生の言葉に今一度耳を傾ける。


「それで、今回の事件の犯人だが目星はついている」

「本当ですか?」

「あぁ、だから叶汰君は今回のこの件については私に任せて欲しい。君のことだ、どうせ警察には言っていないのだろう?」

「はい」


 そう。俺はさっきからずっと歩いていたが、あれはあくまで、もしかしたらユメがどこかにいるかもしれないという願いを込めての徘徊にすぎなかった。

 俺が警察に言っていないと先生が断定したのは、おそらく警察に行くとこういう場合盗難届か遺失届で処理されるのを知っているからだろう。それで見つかることに越したことはないが、それが嫌で、こうして先生に頼ったのもあったのだ。


「君はとにかく受験に集中して欲しい。ただの顔見知しりとしてだが、君にはぜひとも第一志望の大学には受かって欲しいからね」

「ありがとうございます」

「いえいえ」


 俺はベンチから立ち上がり、先生に一言だけ言う。


「先生。お願いします」

「まかせなさい」


 俺は先生の言葉を聞いて、電話を切る。


 そして、ゆっくりと日の暮れ始めている中家へと向かう。


 先生の最後の言葉は先ほどのどの言葉よりもしっかりとした口調で聞こえた。やはり、道端先生は信頼できるいい先生だと心の中で確信した。

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