第52話裏切りの聖騎士に暗黒の鎧を
エイル2世、宰相ノアも常軌を逸した空を見ていた。
「熱い…!これほどか、ヨシヒロ!」
「竜騎士隊を出しましょう」
「いや、待機させろ。彼らでは対処できまい」
「ではネイトとレイヤを使いましょう!」
いつの間にか、2人のそばにはヴァンドゥルディが控えていた。
「彼らもまた異界より招かれし者、失ったとて痛くも痒くもありますまい」
「…よし、許可する」
「ハイ!ではただちに!」
ヴァンドゥルディは地下に駆け戻り、部下に指示を出す。
まもなく奇怪な甲冑に身を包んだ2人――根井斗と玲也がヴァンドゥルディに仕える学徒に導かれて姿を現した。
根井斗には海老の兜が、玲也には鷲を象った兜が被せられている。
「ネイト、レイヤ!君たちのご学友が街を襲っている。彼を始末してくれ!」
2人は無言で頷くと、城の外に出る。
レイヤがグリフォンを呼び出し、ネイトは彼の後ろに跨り、背中にしがみつく。
グリフォンは翼を一打ちすると高度を上げ、熱波が鎮座するミレーユの空を北に飛んで行った。
炎は戦場でも荒れ狂っていた。
爆発する火柱が土と大気を喰らい、司祭や弓兵、装甲歩兵が炎の中に姿を消す。焼け焦げる臭いがあたりに充満していた。
ランディは後方の異常に気付き、思わず喉を鳴らした。
「何たる蛮行!城壁の向こうには5万を超す無辜の市民が眠っているというのに…血が通っているとは思えんな」
ランディは突進し、佳宏に掌底からの後ろ回し蹴りを浴びせる。
佳宏はイレーネをかばうように前に出て、戦斧を振り回す。佳宏を蹴り飛ばしたランディは、後ろに飛んで間合いを広げた。
呆れたような口ぶりだが、ミレーユの市民が根絶やしになろうとも、彼にとってはどうでもよかった。
彼は七神騎になる前、傭兵だった。
滾る興奮を求めて戦場を渡り歩き、その日を生き抜く糧を得る。
病に侵された時、そんな暮らしが終わった。皮膚はあちこち腫れあがり、指に力が入らない。
医師にも僧侶にも彼を癒すことはできず、ランディになる前の彼は似たような境遇の者達と共に隠れるように暮らすことになった。
(こんなはずでは…)
脱走を試みたものもいたが、彼らは矢を射かけられて殺された。
追放ではなく、隔離されていたのだ。万が一都市に入り込み、病をばら撒かれることが無いように。
そんな彼の前に、エイル1世が現れた。彼は隔離患者の村を癒し、彼に魔の甲冑を授けた。
――君が飢えている者だからだ。
ランディの飢えはまだ治まらない。
「知らないよ、あった事ない人たちなんて」
「ふぅー……」
坂を転がるように崩壊していく景色の中、イレーネは体調が回復していくのを感じていた。
不死者の再生を阻む炎も苦手なのだが、佳宏の放ったそれは彼女を避けるように踊っている。
ランディが咆哮と共に衝撃波を打ち出す。
佳宏が念力を剣のように使い、衝撃波を切り裂く。炎が掻き消え、地面にヒビが入る。
(あ、そうだ!俺分身使えるじゃない!)
すっかり頭から抜けていた。
イレーネを守りながら戦うのは辛く感じていたので、この想起はまさに天の助けだ。
佳宏はさっそく分身を20名呼び出し、彼らにイレーネを連行させる。絵面だけなら拉致にしか見えない。
「おい、なんだよ!離せよ!」
「「一旦、仕切り直そう。あいつは俺が抑えとくから」」
分身達に守られたイレーネが離れていく。
佳宏は距離を詰め、ランディに戦斧に斬りかかる。戦斧の先端から念力を出す事で、相手の間合いに入らずとも戦える。
「!――俺を真似たか!」
「え?あぁ……」
衝撃波を撃つランディと、念力を撃つ佳宏。
ほぼ同じ戦法だが、佳宏はランディに言われるまで気づかなかった。
オリジナリティを主張したい訳でもないし、深く気にすることなく、佳宏は念力を飛ばしていく。
不可視の歪みが両者の間で衝突する。大気に亀裂が走り、佳宏の右肩が裂けた。
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