第10話佳宏、港町マクリルで傭兵になる
翌日の昼、魁たちは南フィンブルに派兵される事になった。
南の戦線には比較的使える――初戦において萎縮しなかったメンバーが集められ、帝国軍を押し返していたのだが、相手方が援軍を投入してきたらしい情報が入った。
西エレミアが奪取されたなら、帝国の部隊が次に向かうのはバーンズ砦。留守居の兵を残し、オーシン軍は砦を出発。
魁と七帆も打って出る組に入っている。
騎馬が人数分無いので、半分は徒歩で彼らについていく事になる。聖騎士とやらになったからか、長距離の行軍でも息が乱れない。
玲也が空から索敵しつつ、魁たちの前を進む。飛竜に跨る帝国の空挺部隊が現れたなら、彼がまず相手をする事になる。
5日ほどかけてハレン大陸の西北部を縦断するケルプ山脈を越えて、解放軍が陣を敷く山間に魁たちは辿り着いた。
戦線は東西に延びており、南北の山を越えてきた歩兵が解放軍に襲い掛かる。
抗戦する彼らの元に、機動力のある騎馬隊と竜騎士隊が新たに合計4000。これで兵力はおよそ13000弱に増加する。
対する解放軍は現在、6000の兵を展開している。この物量を覆す事を、魁たちは求められていた。
★
村を去った佳宏は再び西に歩を進める。
気ままにルートを選びつつ、日が暮れたら野営。途中、村に立ち寄ることもあったが、路銀が無くては交渉する気も起きない。
武器庫を出てすぐ、セレスと殴り合い、それから流されるままにエルフの村に寄り、旅の資金問題の解決が後回しになっていたのだ。
よって、相変わらずの野宿生活である。
(日雇いの仕事とか無いかなー)
次に都市を見つけたら、流石に聞き込みをしよう。
人と会話するのは億劫だが鳥や獣ではないのだ、いつまでも枝葉の下で寝ている訳にもいかない。
途中、幾度も異形に襲われた。
平野で獣人ワードッグに遭遇し、夜は亡霊シェイドに囲まれ、森を突っ切った時は水辺でヒュージスラッグを見かけた。
その度に突きや蹴りで、触れるのが汚らわしい敵は炎や風で薙ぎ払う。旅の間、思い出すのはセレスの体捌き。
佳宏は拳法道場に足を運ばなくなってから、格闘技への興味が増した。
それは攻撃性や厭世的な傾向の増加に比例する。つまり、自分もあれくらい軽やかに、鋭く戦ってみたいという欲求が強くなっているのだ。
となると必要になるのは腕のいい師匠か、実戦。前者は伝手が無い、佳宏が選ぶのは後者だ。
解放軍も帝国軍も知った事ではない、全て踏み台にして鍛錬を積む。佳宏は久方ぶりに、努力がしたくなっていた。
佳宏は旅の間中、力を馴染ませるようにしている。
我流のシャドーのほか、身体に秘められた機能を探して、思いついたことをあれこれ試している。
その結果……高速移動の能力を身につけた。
草が刈られただけの街道から外れ、草叢の間に腰を下ろす岩の陰で佳大は足を沈める。
力を込めた瞬間、その姿が陽炎のように揺らいだ。地を蹴り、翔ける姿は流星のごとく。
周囲の動きが遅くなるといった変化はなく、佳宏は動体視力の限界に挑戦する羽目になり、体感5秒ほどで1本の樹木に激突し疾走を終えた。
体当たりを受け止めた樹木は轟音とともに爆ぜ、木片が佳大の身体に降りかかる。木片を風で追い払い、彼は足早に立ち去った。
(さて…ここどこだ?)
景色に見覚えは無い。精神を探知する網を巡らせたまま、足の向くままに歩き回る。
佳宏は都市を見つけることができた。
港町マクリル。クリフ帝国に多量の金を納めるのと引き換えに、自治を保っている港湾都市である。
ハレン大陸中央に位置するルービスから南にある、エルバ地方の都市だ。
東向きに突き出た半島を開拓して建てられており、西の内陸部では険しい山が、壁のように旅人を阻む。
海と山に囲まれたこの都市は、多数の傭兵によって守られている。
佳宏は腹を括って、聞き込みを続ける。
船の荷下ろし役の募集があったので、そこに応募。屈強な港の荒くれのノリに辟易しつつ、佳宏は2日ほど過ごした。
日雇いだけあって身元を探ってくる者はおらず、まとまった金を作ることが出来た。
佳宏は酒場でリンゴの果実酒を注文。
身元不詳でも稼げる仕事を探していると相談すると、恰幅の良い店主はしたり顔で顔を寄せてきた。
「だったらお前さん、傭兵になりな」
「傭兵…そんな簡単になれるの?」
「おうよ。仕事が来たら、話を回してやる。ただし、駆け出しの報酬は大した額じゃない、期待するなよ」
些か拍子抜けするほど、佳宏は傭兵になった。
今後はマクリルの酒場に行けば、仕事を得られるだろう。ただ聞くところによると、現在任せられる仕事は港や交易船の警備のみ。
店主は仲介人であり、細かい部分は雇用主との間で約束してもらう事になる。名の売れていない現在、貴族や商社の交渉するのはお勧めしないと忠告してくれた。
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