第9話クラスメイト達の軍団入り
佳宏が去った後、青年団に属する1人の若いエルフが村長の元を訪ねていた。
「村長、セレス様が連れてきたとはいえ、なぜ人間など泊めたのです?」
「うん…?その方が印象がいいだろう。お前たち、妙な難癖をつけなかっただろうな」
「それは、もちろん」
「ならいい」
村長は佳宏と話している最中、彼の瞳を見た――否、覗き込んでしまった。
その黒々とした瞳の中に秘められた、冷え切った黒い光。村長は昔、エルフの子供を捕らえようと領地に入り込んだ賊と会った事がある。
彼の瞳は汚泥のようだった。佳宏の眼は賊のようないやらしい印象は無く、ただ無明の黒で塗りつぶされていた。
佳宏の印象に残らない方が良い、覚えられるならせめて味方として。村長の胸に小さく鋭い、神経痛が走った。
エルフの村より西にあるのは、クリフ帝国の首都がおかれているルービス地方。
そこから北西にあるフィンブル地方のバーンズ砦。解放軍と呼応し、南フィンブルで決起したオーシンとその近衛が率いる義勇軍の拠点である。
佳宏を除くクラスメイト達は、皆ここに召喚された。
一騎当千の強者を期待した義勇軍は、数十分ほどで上向いた気勢を萎えさせられてしまった。
クラスメイト達は一様に強い力を持つが、戦う気構えが無いのだ。
確かに超人力は与えられた、しかし敵兵を仕留められなければ意味はない。
勇敢、というより無鉄砲な生徒も中にはいたが、彼らは敵の死体を認めた瞬間、恐怖に駆られ、あるものは悲鳴を上げて戦線を離脱し、あるものはその場で気絶。
なくなく彼らは撤退、バーンズ砦で新兵に混じって訓練を受ける事となった。
屈強な剣士と打ち合っているのは、委員長の沢田魁(さわだかい)。
お互い、振るっているのは木剣だ。歴戦の傭兵に比類する体力と膂力を授かった彼の剣戟を、守勢に回っている剣士ジークは避け、いなす。
腹に横薙ぎの一撃が入る。打ち下ろしの二段目が振り下ろされるのと同じタイミングで、魁は後ろに下がる。身体がくの字に折れる程の衝撃を叩き込まれるも、魁は膝をつかなかった。
2mほどの間合いをすり足で詰め、兜割りからの突きを繰り出す。隙をついて忍び寄ってきたジークの袈裟斬りを、魁は足を引き、木剣で受ける。
「いいのが入ったと思ったんだがな」
「はい…結構余裕ないっす」
数分ほど打ち合いを続けてから、2人は一旦別れる。
ジークから離れ、砦の中庭の一角に魁は腰を下ろす。ふと空を見上げると、翼の生えた巨獣が空を横切るのが見えた。
テニス部に所属していた、草間玲也(くさまれいや)が駆るグリフォンだろう。
バーンズ砦は高台に作られており、低地と高地に作られた2つの城砦が、壁上通路で繋がっている。
夜、夕食後に魁は眼鏡をかけた小柄な女子を見かけた。
瓜生七帆(うりゅうななほ)だ。腰のあたりまで伸ばした髪が、途中から大きく波打っている。
彼女はクラスの女子の中でも背が低い反面、頭髪が長い。穀物庫方面に向かっていた背中に声を掛けると、思ったとおりだった。
振り返った顔は、病人のようだ。
「どこに行くんだ、こっちは穀物庫しかないだろ?」
「あぁ…いえ、展望台に上がろうかと」
「展望台?…俺も一緒にいい?」
2人が無言のまま、一緒に展望台に上がった。
義勇軍の弓兵が見張りに立っており、2人に気づいて首を回したが、何も言わずに背を向けた。
「杉村の事、心配?」
「うん…悪いことをしたなって……」
「だよな。あれは酷いよな」
魁も表情を曇らせる。
割って入るべきと思ったのだが、恐ろしくて身体が動かなかったのだ。
魁はそれを恥じているが、クラスメイトの中には、友人が追放されなくて良かったと顔を合わせて喜ぶものが少なからずいた。
大して親しい間柄でも無かったが、ほとんど死刑同然の処置を喜ばれては、佳宏が気の毒だ。
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