第6話夜のエルフは血の気が多い
佳宏は頭をあげ、翼をしまう。
その身体に傷はない。雷撃を浴びた瞬間こそまさに雷に打たれたようなショックを受けたが、残留する軽い痺れのような違和感があるだけだ。
稲妻は炎の光に紛れ、佳宏には攻撃の正体がわからなかった。
中庭から壁を上がり、窓を押し破って城内に進入。ローブに身を包んだ者達と鉢合わせる。
彼らは佳宏には聞き取れぬ言葉を紡ぎ、雷撃を放つ。雷撃は轟音と共に佳宏の側を通り抜けた。
「おっと、独りいればいいかな」
佳宏はローブ姿の男達の隣を通り過ぎると同時に喉元目がけて持ち込んだ長槍を振るう。
そこに続けて、唸る風の刃が振り下ろされた。独りの首を引っ掴み、T字路まで走り抜けると、周囲に人気のないことを確認して、佳宏は口を開く。
「えぇと…」
膝で身体を抑え込むが、聞きたい事が思いつかない。
「貴方は魔法使いですか?」
「…そうです」
そうなのか、と佳大は納得した。
さて、次は何を聞こう?この世界の概要、聞いている間に抑えた彼の仲間が襲撃してくるだろう。
魔法使い達のボス?興味がない、飽きたら出て行くだけだ。
(しかし重装の歩兵に魔法使いに弓兵、ゲームじみてきたな…)
自分を主人公と考えると、彼らは敵。
あのエルフはどちらでもない第三者。しかし、ボスを倒せばステージクリア…とはならないのだ。
佳宏は金目の物や食料を漁ってから、城館を脱出する事に決める。
間取りが全く不明なため、要らぬルートを何度もめぐり、その度に兵士達に襲撃した。
佳宏の単調な動きを見れば、槍の素人であるとすぐにわかる。
向かい合った城詰めの者達はそう高くを括るが、見通しが甘すぎる。現在の彼の膂力は人間のそれではなく、掠るだけで矢尻のように甲冑を削り、打たれた箇所は衝撃によって骨が折れた。
槍が折れると、佳宏は徒手になった。素手の拳だが、石壁を叩きつけられたような威力に襲われ、兵士はほぼ一撃で死んでいく。
進むうち、甲冑が飾られている部屋を発見したがもぬけの殻。
木を組んだ囲いが壁際や部屋の中央部分に設けられており、佳宏はそれを見て傘立てを連想する。
武器庫…なのだろうか?歩き回り、収穫らしい収穫は得られないと見切りをつけ、武器庫を退出。
まだエルフの部隊は城館への侵入を済ませていない、入ってきたのは独りだけだ。内心舌を巻くほどのスピードで真っすぐ佳大の元に向かってくる。
何者だろうと興味を惹かれ、反応に近づいていくと、2階廊下で若草色とクリーム色を基調とした旅装束に身を包んだ妙齢の女性と遭遇した。
「こんばんは。私はセレス、エルフです。どうぞお見知りおきを…このあたりでは見ない顔ですね」
女はにこやかに近づいてきた。
佳宏がこれまで見た中で最も美しい女だ。耳が尖っているのが目を引く。
周囲は夜の闇で満たされているが、佳宏には表情まで詳らかに見て取れた。
「俺は杉村佳宏。まぁ、彼らとは目鼻立ちが違っているが」
セレスは佳宏の名を正確に理解できた。
精神に干渉できる彼の能力により日本語は分からないが、言っている内容は把握できたのだ。しかし、セレスに漢字は分からない。
「ヨシヒロさん、一つ質問してもよろしいですか?」
「答えられるものなら」
「ありがとうございます。城館前の広場から建物内にあった死体は、貴方が作ったものですか?」
「幾つかは――!?」
佳宏が肯定した瞬間、セレスの纏う雰囲気が変わる。
僅かなものだが、経験が足りていない佳宏には見切れなかった。
その結果、腹部目がけて放たれた右足の蹴り上げを浴びる。打ち込まれたそれは、常人なら腸を瞬時にシェイクされ、死亡するほどの威力を有している。
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