第105話 考え方ひとつで世界は色を変える(2)
「オレ達は話し合いをしない。上から力で抑えつけて命じるのがやり方だ。それを話し合って半分に分ける方法はリアが教えてくれたんだ。だからリアが困ったなら、オレが助けるのが順番だろ?」
順番の概念もなかった魔性達が我先にと争った際、ルリアージェが言い聞かせた。同じように接するから、順番を決めてこいと。そんな人族にとって当たり前の考え方も、彼らには新鮮だったらしい。
長く生きた分知恵は回るし知識もあるが、それは情緒や感情を育てるものではなかった。ただ幼い子供が好き勝手に時間を費やしてきただけ。人族が主だからこそ、彼らは争う以外の解決方法を知ることが出来たのだ。
「いいのか? それで」
「なんでダメだと思うんだ」
笑いながら言われると、難しく考えすぎている気がした。彼らと一緒に生きていくと決めた以上、多少なりと自分も歩み寄るべきだろう。
「わかった。素直に頼ることにする」
「そうしてくれると嬉しい。オレも……アイツらも喜ぶよ」
光が何かを教えるように点滅し、洞窟の外を指し示す。気づいたルリアージェが動いて首を出した。吹雪いている山は気温が低く、しかし凍えるような寒さは感じない。目で見る寒さと肌が感じる温度の差に、おかしくなって笑ってしまった。
「楽しそうだけど、何かいた?」
「いや。こうしてみる景色は凍えそうなのに、精霊たちのお陰で寒くない。なんだか不思議なんだ。人として経験して積み上げた感覚との差がおかしくて」
「ああ。人族だと寒いどころか凍ってそうな気温だからな。この吹雪だと雪竜は外へ出てるぞ」
ジルの目的のドラゴンは雪竜というだけあって、吹雪を喜んでいるらしい。洞窟にいると踏んで転移したジルは「当てが外れた」と笑って外へ歩き出した。己の靴先も見えない真っ白な世界で、繋いだ手を引っ張られる。
「絶対に離すなよ」
「わかっている」
「見失うようなヘマはしないけど」
たとえ手が離れても、何も見えなくても、必ず見つけてみせる。そんな強い言葉を少し茶化すあたりが、彼らしい。きゅっと強く握って、顔を上げた。
真っ白な世界は美しく、光も闇も存在しないような空間を作り出す。人の悩みや想いなど飲み込んで塗り潰してしまう、強力な魔法のようだ。吹き付ける風がごうごうと音を立てるのに、肌に雪が叩きつけられることはなかった。
ふわふわと周囲を舞う精霊達が守ってくれる。行く先はジルが示してくれる。何も怖くなかった。
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