第104話 あちらの魔物はいかがでしょう(2)

「リア様、あちらの狼などいかがでしょう」


 何がいかがでしょうなのか。首をかしげながら示された方角を見ると、立派な狼がいた。グレーの毛並みは艶があり、なぜか頭の上に角がある。この大陸の動物すべてに生えているのか、それとも魔物だから角があるのか。判断できずに瞬きした。


 しかし好奇心旺盛な彼女のこと、すぐに尋ねる。


「魔物はすべてツノがあるのか?」


「角がついていることが多いですね。あとは色が動物と違っていたり、炎を吐いたりします」


 リオネルが淡々と教えてくれた内容によれば、魔物は氷か炎に特化した種族が多いらしい。風や水を操る魔物は少ないそうだ。稀にドラゴンのように雷を使う小型の魔物もいるらしい。


「角が欲しいの?」


「あの狼なら毛皮も立派なのが獲れるぞ」


 狩猟対象としての「いかがでしょう」だったらしい。ようやく理解したルリアージェが慌てて止めた。


「待て、毛皮も角もいらない」


「肉は?」


「……それも後回しだ」


 巨大な狼が踵を返して走り出す。残念そうに見送るライラとリオネルは、かなり好戦的な部類なのだろう。ジルは気にした様子がなく、リシュアは「あの大きさだとコートでしょうか」と物騒な発言をした。パウリーネは毛皮に興味がないのかと安心しながら視線を向けると「狼はたくさんあるから、別の魔物がいいわ」と斜め上のはつげんが飛び出した。


 上級魔性達が毛皮をコレクションする傾向にあるのは、間違いようのない事実らしい。今まで戦った魔王や側近レベルの彼らも毛皮を集めるのだろうか。


「肉食獣の肉は臭いし固いから、リアの口に合わないと思うぞ」


 一見大人しくしていたジルは、夕食の食材として狼を検分していた。


「そうだな」


 彼らにとってこの考え方は標準だとしたら、いきなり人族のルールに当てはめて否定するのは失礼だ。自分に言い聞かせるルリアージェが、ぎこちないながらも微笑む。


「食材は任せる」


「任せて。確か大鹿がいたんだ。その肉は柔らかかったし、臭いもあまりない」


 にこにこと食材を提案するジルに、ライラがぽんと手を打った。


「それなら群れを見つけてくるわ」


 別に群れで狩らなくても……1頭いれば足りるんじゃないか? ルリアージェの心の声を聞かずに、ライラがぱちんと指を鳴らして消えた。もう彼女に任せるしかない。


「オレらはドラゴンを探すか」


「でしたら、私は水の気配を辿ってみますわ。水竜は滝の近くでよく見かけます」


「炎竜は火口でしょうか」


「以前に砂漠で雷竜を見た気がします」


 パウリーネ、リオネル、リシュアがそれぞれに竜の目撃情報を提供する。その中から選ぶのかと思えば、ジルは予想外の方向へまとめた。


「よし、散って探してこい。オレ達は雪竜がいる山の上に移動する」


「「「承知しました」」」


 こうして全員別行動になってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る