第80話 勢力争いより模様替えが重要(3)
「本当に? 素敵、頑張るわ」
「絶対に気に入ってもらえるようにする」
嬉しそうな2人に、最初からこういえば良かったと気づいた。ルリアージェの意思を尊重しようと彼らは意見を聞くが、全面的に任せられれば張り切って動き出す。他者と騒動を起こすことがなければ、部屋のデザインや家具の選択は彼らに任せればいい。気に入らないなら、模様替えを指示すればよかった。
「……これが主になる心境か」
以前、テラレスの王女に相談を受けたことを思い出す。彼女の侍女は2つの派閥に分かれていて、互いに競い合ってケンカすることが多かった。そこで対策を求められたのだが、ルリアージェは魔術師であって相談役ではない。迷った末に「交互に頼んではどうか」と贔屓しない方法を提案した。
最終的にどうなったのか。結末をルリアージェは知らない。しかしウガリスへ嫁いだテラレスの王女は、両方の派閥から侍女を選んで連れて行った。双方とそれなりに上手に付き合う方法を見つけたのだろう。
主人になるということは、不便だ。
全部身の回りのことを自分でしていた自由さは失われた。逆に引っ込み思案で他人とかかわることを嫌っていたルリアージェを明るい方向へ引っ張っていく、強引さと前向きさは彼らがもたらした変化だった。
変化を厭うより楽しもうと思えるのも、過去のルリアージェが知ったら驚くはずだ。
「ところで、ツガシエの件はどうなった?」
「あっちはリシュア達に任せた。報告させようか?」
政権争いは興味がないと、魔力で家具の配置をいじりながらジルが答える。向かいで様々な布を取り出して色合わせを始めたライラも、不思議そうに首をかしげた。
「そんなの後でいいわ。だってリアのお部屋の方が優先ですもの」
魔性であるジルとライラにとって、人族の国ひとつ消えようが増えようが大した問題ではない。それより主人の部屋を整えることが優先事項で、部下の仕事を確認するのは後でも構わないと思っていた。
「わかった。あとで報告してもらおう」
このまま彼らに流されて放り出すと後悔することになる。リュジアンの件で学んだルリアージェは、魔性である5人を放置する危険性を理解していた。
「ねえ、こちらの布ならどれがいい?」
カーテンにすると言いながら、ライラがベッドの上に数枚の布を並べる。濃色から単色、模様が描かれたものまで、豊富な布にルリアージェが後ろを振り返った。ベッドとサイドテーブルの木目は白っぽい色をしている。
色をそろえて薄い色を選ぶか、アクセントとするために濃い色を使うか。迷うルリアージェの意識がツガシエから逸らしながら、ジルとライラは頷きあった。
彼女を傷つけない方法で、ツガシエと風の魔王ラーゼンの件を片づける――交わした視線でのやり取りに気づかぬまま、ルリアージェはカーテンを選んだ。
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