第77話 晩餐という名の謀(2)

 着替え用魔法陣の発動条件を確認して、そっと上に乗る。ライラが魔力を込めると、一瞬で着替えが終わった。昨夜着飾った時の姿そのままに、髪が結い上げられてかんざしに留められ、濃赤系の民族衣装が身体にフィットしている。


「不思議だ」


「形状記憶タイプなのよ。問題点があるとしたら、着替え用の服やアクセサリーを一時的に魔法陣に封じる必要があるところかしら」


 魔法陣の中に宝石類や着物を登録してしまうため、簪だけつけたまま出かけるなどの融通は利かない。すべてがワンセットにされてしまうのだ。指輪だけずっとつけて置きたい場合は、指輪を抜いて魔法陣に登録する必要があった。


「一長一短か」


 便利だが、着替えた姿を最初に登録する必要があるのも、面倒な点かも知れない。ルリアージェが改善点を考えていると、パウリーネが新たな指摘をした。


「あと登録時と大きく外見が変わったり、別の人が乗っても、発動しませんわね」


 つまり昔登録した魔法陣を、数年後に利用しようとしてもダメな可能性がある。長い髪をショートにすれば、髪を結って登録した魔法陣が条件を満たさないと判断するのだろう。納得しながら、ルリアージェが顔を上げた。


「何回も使えるのか?」


 同じ魔法陣を複数回使いまわせるのか。魔術の基本として、魔法陣を使う理由が『同じ魔力量で同じ作用を生み出すため』である。限られた魔力を効率的に、確実に魔術へ変換する術式なのだ。当然の疑問に、ライラが答えた。


「そうね。基本的には可能だわ。たとえば今の着替え終えた状態で、魔法陣を再作成すれば明日も使えるでしょう? 使い捨てに近いけれど、着替え後の姿を登録するだけなら、毎回登録し直せば永遠に使いまわせる理屈なの」


「なるほど」


 熱心な魔法陣研究が一段落したタイミングで、ジルがドアをノックする。


「着替え終わったなら、そろそろ行こうか。迎えの馬車が来たぞ」


 その言葉に、慌ててライラとパウリーネも魔法陣を発動させる。彼女らも昨夜のうちに、着替え用魔法陣を作成した。本来は魔法陣がなくとも可能な着替えだが、繰り返し確認したがるルリアージェのために2人分の魔法陣も用意したのだ。


「何度見ても精度の高い再現魔術だ」


 魔法陣の細かさや文字の複雑さに感心するルリアージェと手を繋ぎ、ライラがドアへ向かう。開いた先に、すでに正装済みの3人が待っていた。


「美人なリアは何を着ても似合う。その着物なら、もう1本簪を増やしても良さそうだ」


 袖の中から取り出した珊瑚の簪を、ルリアージェの銀髪に差し込んだ。

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