第77話 晩餐という名の謀(3)

 短い黒髪を後ろに流したジルが、絶世の美貌で満足そうに微笑む。黒に近い灰色の着物を纏っていた。全員が民族衣装を選んだのは、他国の王族主催の正式な晩餐だからだ。リシュアは深緑の瞳と同じ天鵞絨びろうどを、リオネルも赤い瞳の色を意識したのか葡萄色えびいろを選んだ。


「……格好いい」


 ぼそっと褒めたルリアージェに、3人が異口同音に礼を口にする。そのままライラがジルにエスコートを譲り、ライラとリオネル、パウリーネとリシュアで3組のカップルが成立した。リュジアン国での失敗を糧に、今回のリオネルは執事ではなく公爵家令嬢の婚約者という肩書きだ。


 リシュアの魅了に支配された使者は、落ち着いた態度で公爵家一行を案内する。王家の馬車の後ろに、マスカウェイル公爵家の馬車がつき従う形で王城へ向かって走り出した。


 主たちを見送った直後、精霊達は一斉に動き出す。持ち込んだ荷物を専用の馬車に積み込み、宿屋の主人に「3日間の滞在偽装」を念押しして、さっさとサイワットの街から出て行く。その行き先は宿屋にも告げられず、購入した高価な家具一式を乗せた荷馬車とともに、彼らは忽然と姿を消した。






「今回は晩餐に付き合ったら終わりか?」


 リュジアンでの断罪やあれこれの騒動を思い出し、ルリアージェは確認の意味を込めて尋ねた。するとジルは曖昧に笑って誤魔化し、リオネルも穏やかに首をかしげた。パウリーネは髪のほつれを直すフリで答えず、ライラは窓の外を見ている。


「何か、あるんだな?」


「リア様、そのような決め付けは魔性でも傷つきます。我々は何もする気はありません。ただ招かれたので応じただけです。しかし彼らが敵対行動を取れば、我々も反撃しますよ」


「……そうか」


 リシュアの穏やかな口調につられて頷くが、聞きようによっては敵対行動を取られる可能性を想定している時点でおかしい。しかし最初の「傷つく」発言で、疑った自分が悪い気になったルリアージェは気付かなかった。


 このあたりの言葉の選び方や説明の順番が、外交で国を守った元サークレラ国王の本領発揮だ。1000年余り、子孫である王族を途絶えさせることなく永らえさせた魔性は、にっこり笑って話題をそらした。


「この国ではきじ料理が名産らしいですよ。リア様はお好きですか?」


「雉……鳥肉か?」


 聞いたことはあるが食べたことはない。ルリアージェの疑問に、ライラが視線を戻して頷いた。


「ええ。いつも食べる鶏肉よりしていて、そうね……少しかしら」


「調理方法次第ですね。ローストが一般的ですが、蒸したり茹でて調すれば、しっとり柔らかく食べられます」

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