第72話 雪の国ツガシエ(2)
「ツガシエの人の方が性格はきついかしら」
話をしている間に国境を越えた馬車は、王都へ向かう街道から逸れていく。サイワット方面はリュジアンとの街道に沿って進み、途中で山脈側の細い道へ入ったあたりだった。
だんだんと道が悪くなるが、金と魔法陣をふんだんに使った馬車の中では実感が薄い。多少揺れるが、魔法陣が補正するため酔う状況でもなかった。窓の外を時々確認するが、大きな牡丹雪が下りてくるだけで外は真っ暗だった。
「もう夜なのか」
「時間的には午後なのよ。この辺りは極夜といって、一日中夜になる季節があるの」
ライラは説明しながら、開いた窓を閉めた。吹き込んでいた雪が足元で融けていく。ジルはルリアージェを引き寄せて、冷たくなった手を包み込んだ。
「そろそろ着く頃か」
「サイワットの街は、ホットワインが有名ですわ。シナモンやスパイスが効いていて、身体が温まりますのよ」
パウリーネが微笑みながら、どこかから取り寄せたカップを差し出す。蜂蜜だろうか、すこし甘い香りがするワインは湯気が立っていた。確かにスパイスの香りも混じっている。
「あ、オレも」
「あたくしも飲むわ」
それぞれに空中から取り出したカップに、ポットを取り出したリオネルがホットワインを注いだ。馬車の中が同じ香りに支配される。ルリアージェが熱さに気をつけながら口をつけ、一口飲むと目を瞠った。
「美味しい……」
「ワインを薄めて温めるなんて、人は面白いことを考えるよな」
口をつけたジルが呟くと、リオネルが「人族らしい発想ですね」と追従する。リシュアは何やら小瓶を取り出すと、上でぱらぱらと振った。
「リシュア、それは何だ?」
興味を惹かれたルリアージェへ、リシュアは小瓶を手渡しながら「追加のスパイスですよ」と説明する。好みで味を変えるものだと知り、ルリアージェは少量を振って飲み、もう少し振って飲んだ。ようやく満足したらしく、ふわりと微笑む。
「この味が好きだ」
「ちょっと味見せて」
ルリアージェの好みを確認するために、ジルがルリアージェのカップに口をつける。間接キスに羨ましそうな顔をするライラも手を伸ばした。
「あたくしにも」
「スパイスの量は把握していますから、あとで情報共有しましょう」
主君第一主義のリシュアに遮られる。不満そうなライラだが、情報共有の単語に諦め半分で手を引いた。ここで揉めても面倒だし、ルリアージェが珍しく頬を赤く染めて嬉しそうに笑っているので、騒ぎを起こして台無しにしたくない。
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