第71話 北の大国で家具探し(2)

「ありがとう」


 嬉しそうに笑うルリアージェの姿に癒される魔性達から、反対意見など出るわけがない。口々にツガシエの名所や名物を上げ始めた。


「たしか、赤いスープが有名なのよ。辛いけど美味しいわ」


「雪角兎の肉も有名ですね」


「あたくしは、氷の器に盛ったレイシーという果物がお勧め!」


 様々な食べ物をプレゼンしてくる魔性達は、長く生きた分だけ物を深く知っている。品物の見分けや食べ物に関する知識は、過去からの積み重ねだろう。彼らに食事は必要ないが、嗜好品として口にするのだと聞いていた。そのため、お茶会がよく行われるのだ。


「宿は私が手配しましょう」


 リシュアが慣れた様子で姿を消すと、逆にリオネルが帰ってきた。入れ替わりで顔を合わせていない彼らだが、気にする感情はない。


「出掛ける先が決まったぞ、リオネル。次はツガシエだ」


「……っ。そうですか、楽しみですね」


 一瞬だけ息を飲んだリオネルだが、その微妙な表情にルリアージェは気付かなかった。ジルとライラは目配せして、役目を分け合う。


「サイワットへ持っていく服やお飾りを用意しなければ! パウリーネも手伝ってくださる?」


「もちろんですわ。公爵家に相応しいドレスを選ばなくちゃなりませんもの」


 右手を掴んだライラに引っ張られ、あっという間に隣の私室へ移動する。パウリーネも一緒に来たので、ルリアージェはこの状況に違和感を覚えなかった。元から女性が集まってドレスや飾りを選んでいる際、ジル達が外で待つのは当然だったから。


 広すぎる部屋が落ち着かないと我が侭を言ったせいで、天幕のように薄絹が天井代わりに掛けられた部屋は、驚くほど豪華な家具や毛皮が並んでいた。部屋の中央に敷かれた大きな白い毛皮は、小山ほどもある狼を倒した戦利品だと聞いている。


 肌触りが良い上に、床の半分ほどを占める大きさが見事だった。明らかに腹から裂いて、頭部や手足の爪を残すやり方は貴族が好みそうな形状だ。


 素足で触れると気持ちいので、ルリアージェはヒールの高い靴を脱ぎ捨てた。振り返ると、ライラやパウリーネも真似をして靴を脱いでいる。


「そういえば不思議だったんだが……魔性は戦った獲物から毛皮を回収する決まりでもあるのか?」


 以前もコートを作るときに同じ疑問を持ったが、聞きそびれて今日まで来てしまった。尋ねられたライラとパウリーネが顔を見合わせて、同時にルリアージェに答えた。


「「倒した証拠ですもの」」


 ハモった彼女らは、くすくす笑いながらいくつか毛皮を取り出した。以前に見せてもらった大熊や兎のものもある。

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