第71話 北の大国で家具探し(3)

「毛皮を綺麗な状態で残すには、一撃で上手に倒す必要があるのよ。だから腕前の証拠になるでしょう? 大きな獲物を倒した自慢もだけど、こんなに綺麗な毛皮として残せる倒し方をした事実の方が自慢ね」


 猟師が大きな魚を獲ると、魚拓を残すのと同じような理由か。自分が知る事例と絡めて納得したルリアージェが頷いた。ライラは説明用に取り出した毛皮の中から、豹のようなまだら模様の毛皮を1枚抜き取って片付ける。


「これ、珍しいのよ」


「……夏の大雪角兎かしら」


「そうよ。冬は白い毛皮になるけれど、夏は斑模様が綺麗なの。ルリアージェにショールを作ったらどうかしら」


「あら素敵ね。これだけの大きさと艶は珍しいもの」


 2人の間で話が進んでいるが、着飾ることに興味が薄いルリーアジェは足元の毛皮にぺたんと座り込む。ふわふわと毛足の長い絨毯は最高の手触りで彼女を迎えた。このまま寝転がりたい気持ちだが、パウリーネは鏡を用意し始める。ライラも大量の服を風で引き寄せた。


「さあ始めましょう」


「しっかり選ばなくてはね」


 着せ替え人形の時間が始まる。諦めのため息をついたルリアージェが解放されるのは、数時間後のことだった。






「何かあったか?」


「リシュアも報告を上げているでしょうが、人族の動きが活発化しています。ツガシエの後ろに風のラーゼンがいますね。ウガリスを抜けた先が火山で、マリニスの領域になるので……防波堤代わりに使う可能性があります」


「相変わらず仲がいい」


 風の魔王ラーゼンが、火の魔王マリニスを気に入って庇護しているのは有名だ。水の魔王トルカーネが消えた今、最古参の魔性はラーゼンだった。他の魔性はツガシエとウガリスに手は出さない。これは自分より上位の魔性の機嫌を損ねないための不文律だった。


 しかし『魔性殺しの死神』であるジルが従う理由はない。


「まあ問題ないだろ。リアの家具探し優先だからな」


 政治的に絡んで属国にしようとか、ツガシエを滅ぼそうと考えているわけじゃない。ただの観光だった。多少ラーゼンの配下が絡んでうるさいだろうが、リオネルとリシュア、パウリーネが順番に追い払えば済む話だ。


「そうですね。王都は後回しにして、サイワットを先に回りましょう」


 貴族の多い王都はアンティーク家具が集まっているが、現在作られている家具は生産地のサイワットに並んでいる。他人の所有物を見て回るより、リア用の家具を買うなら生産地に足を運ぶのが正解だった。


「ジル様、サイワットの宿を手配しました」


 リシュアが戻り、サイワットの宿を用意したと報告された。彼も生産地を見て、足りなければ王都へ足を伸ばせばいいと考えたらしい。よく出来た配下を労ったジル達は荷造りを手伝うべく、リアの部屋の扉を叩いた。

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