第67話 海の底へ(1)
大地の精霊王ゆかりの幻妖の森、神族の丘に隠された地下神殿――2つの迷宮から宝玉や核を回収してしまい、どちらも迷宮ではなくなった。地下神殿については鍵を奪ったトルカーネの所為だが、ジルも宝玉を持ち出したのだから、大差ないだろう。
「もうすぐ地上だ。ほら」
手を貸してくれるジルに頷き、素直に繋いだ手に力を込める。ぐいっと引き上げられた地上は……驚くべき変貌を遂げていた。
「これは……!?」
野花が咲き誇る丘に建つ遺跡が崩れている。白亜の神殿は見る影もない残骸と化した。状況が理解できずに呆然とするルリアージェを他所に、予想していたジルは苦笑いする。彼女を引っ張り出すと、後ろから現れたライラも肩を竦めただけ。
大地の魔女と呼ばれる実力者は、地上の崩壊に気付いていたらしい。リオネルは一瞬目を瞠ったものの、それ以上気にした様子はない。リシュアは「もったいない」とぼやいた。最後に出てきたパウリーネの反応が一番普通だった。
「何が起きたの?」
呟いたパウリーネはきょろきょろと周囲を見回す。
「さっき宝玉を持ち出しただろう。あれがひとつの仕掛けで、囮の宝玉が奪われたら地上の神殿を壊して、地下への入り口を潰すよう設計されてる。要は侵入者を地下に閉じ込めるための装置だ。もう役目を終えたから崩れても問題ないさ」
本来は地下神殿を守るために、賊の目をそらす意味もあったのだろう。地上の神殿が崩れたことで、地下からの出口は塞がれるはずだった。しかし、すでに地上も地下も壊れていたため、中途半端に落ちた瓦礫が転がっただけ。
「これは精霊を使った仕掛けなの。だから解除も変更もジル以外には無理ね」
ライラが断言した。その言い方に疑問が生じたリオネルは、茶色い三つ編みを編み直している少女に尋ねる。
「大地の精霊王の娘である、あなたにも解除は出来ないのですか?」
「力尽くで破壊する解除なら出来るわ。でも変更したり正規の手順で変更するには、神族の血か翼が必要な仕掛けになってるの。おそらく精霊達が解除するのを防ぐためよ」
「精霊は神族に従っていたが、慕ってもいた。遺された神殿を壊すことを惜しんだら、精霊は命令を守らない可能性がある。だから通常の手順では解除できないように、制約を使ったんだ」
説明を終えたジルが大きく伸びをする。釣られてルリアージェも背筋を伸ばした。大きく胸を開いたことで、深呼吸する。
「次の迷宮はどうする?」
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