第67話 海の底へ(2)

「海底がいいですわ!」


 パウリーネが主張する。彼女自身が水を操ることもあり、海底の迷宮に興味があるらしい。


「海底にどうやってたどり着くんだ? 呼吸は?」


「結界で空気ごと包めば水圧も平気ですし、呼吸も出来ます。濡れる心配もありません」


 リオネルが援護射撃のように安全策を提示した。頷いたルリアージェが微笑む。彼らに安全策は必要ないのに、ルリアージェのために考えてくれたのだ。その心遣いが嬉しい。


「ならばパウリーネの案で、海底にしよう。だが……次の迷宮では何も持ち帰らないぞ」


 釘を刺すルリアージェの言葉に、魔性達は顔を見合わせて首をかしげた。何も悪いことをしたと思っていないから、彼らは理解できない。


 呆れ顔で指摘した。


「いいか。幻妖の森で迷宮の核である緑柱石エメラルドを持ち出しただろう。鍵は元々なかったが、今回も金剛石ダイヤモンドを外したために上の神殿が崩れた。私は迷宮めぐりに賛同したのであって、迷宮破壊をしたいのではない」


 勘違いが発生しないよう、出来るだけ噛み砕いて説明した。どちらの迷宮も、今後は迷宮として機能しない。つまり迷宮を破壊して回っている状況なのだ。


「迷宮なんて別に壊してもいいだろ」


 ジルが心底不思議に思ったらしく、けろりと暴言を吐いた。しかし眷属である3人はともかく、ライラもまったく問題視していなかった。


「そうよ、勝手に迷宮は増えるんですもの。ある程度壊さないと増えすぎちゃうわ」


「……勝手に増えるのか?」


 意味がわからない。力あるモノを封じた場所を示す単語なら、増えるのは仕方ないとして、どうして壊しても構わない発想になるのか。封じた場所を壊したら、解放されてしまうじゃないか……ジルみたいに。


「そもそも、最初にテラレスの迷宮を壊したのはリア自身だろ」


 にっこり笑って止めを刺される。がくりと肩を落としたルリアージェに、リシュアが気の毒そうな顔で慰めにならない声をかけた。


「諦めてください。こういう方々ですから」


「そうですね。元からジル様が、他人の決めたルールに従うことはありません」


 リオネルが嫌な追加情報を笑顔で告げる。がくりと項垂れたルリアージェに、魔性達は慌てた。


「どうした? 具合が悪いのか、リア」


「やだ……熱かしら」


「ストールをかけましょうね」


「すぐに部屋に転移しますか?」


 ざわつく周囲に、溜め息をついたルリアージェが苦笑いする。


「大丈夫だ」


 具合は悪くないと伝えた。それでも落ち着かないパウリーネが、取り出したストールをワンピースの上に羽織らせる。不安そうな彼らを前に、おかしくなって笑みが漏れた。

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