第66話 地下神殿が作られた意味(2)
「こちらの紅茶はリュジアンからの献上品です。食後はサークレラの緑茶にしましょうか」
色が少し薄い紅茶を差し出され、口元に運ぶ。温度を確かめてからそっと口をつけると、色の薄さから想像できないふくよかな味が広がった。
「サンドイッチはいかが?」
「こちらのスコーンに、オレンジのジャムが合うのよ」
何かに気付いたルリアージェの気をそらそうとするように、ライラとパウリーネがお勧めを差し出す。美しい蒔絵の皿に盛られた軽食を口に運びながら、上の彫刻を眺めた。
「見事だな、これは神族が施した彫刻なのか?」
「正確には精霊達が作ったんだけどな。デザインくらいは神族が関わったかも」
ジルも内側から地下神殿をじっくり見るのは初めてだった。美しい装飾と翼のある美しい人々が彫刻された天井は、見上げる角度によって絵のイメージが変わる。ストーリー性を持たせた流れのある彫刻が、左から右へと続いていた。
「あそこの翼だけ凹んでいるが……」
隅から隅まで眺めていたルリアージェが、ふと違和感を覚えた。角に刻まれた天使らしき人影の背にある翼が、あきらかに内側に押し込まれている。作ったときの意図したものではなく、後から動かした結果と思われた。
「……トルカーネ、かな」
ジルが呟いた名に、全員の視線が集まる。
肘をついた姿勢で上を見上げたジルは、ひとつ溜め息をついて立った。ふわりと背に翼をあらわすと、ルリアージェが指摘した翼の位置に浮き上がる。手を伸ばして確認すると、苦笑いしながら降りてきた。
「間違いないな、トルカーネの奴がここから鍵を持ち出した。だから鍵の霊力がなかったのか」
「鍵の霊力……?」
「ああ、さっき言っただろ。もう迷宮として残す必要もないってさ。この場所が迷宮として機能したのは『鍵』があるからだ。さっきの宝玉は目をそらすための囮だぞ」
さらりと神殿の秘密をばらしたジルは、手元のスコーンをぱくりと頬張った。注がれる紅茶を口に運び、落ち着いてから再び話を続ける。
「鍵がない今は迷宮と呼ぶに値しない。トルカーネが何の思惑で持ち出したかは知らないが、あの鍵が何を解除するためのものかも伝わってない。使い道が分からないんだ」
神族の末裔といっても、彼は一族の者に認められていなかった。神族に伝わる鍵の秘密など教えられるはずがない。そもそも自分を排除した一族が残した物に大した興味もないから、ずっと放置していたのだ。
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