第57話 最大にして唯一の弱点(1)

 ライラとジルの提案は、最終的に女性目線で参加したパウリーネと日和見ひよりみを決め込んだリシュアのせいで、買い物に決定した。


「買い物ならオレも」


 ついていくと主張するジルへ、笑顔のライラが拒んだ。


「ダメよ。女性の買い物は女性同士で。だって下着とか選ぶんですもの」


「なら財布代わりでいいから。荷物持ちも必要だろ?」


 食い下がるジルが気の毒になり、パウリーネが「荷物を預けてはいかがでしょう」とルリアージェに尋ねる。くすくす笑いながら頷くと、ジルの表情がぱっと明るくなった。


「やった!」


 浮かれる主君の姿に、リシュアが目元をハンカチで押さえる。


「なんて不憫ふびんなお姿でしょう……ジル様」


「不運なのは昔からですが」


 持ち上げる気もないリオネルが苦笑いしながら、お茶のセットを片付け始めた。いそいそと着替える女性達の準備が終わるまで、男性陣は別室で待つ。結局全員で出向くことになったのだ。


「ジル様、水の魔王の周辺が騒がしいです。側近が忙しく動いていますし、近いうちに仕掛けてきますね」


 さらりとリオネルが報告する。それを受けて、リシュアが別方面から預った情報を開示した。


「人族の国家間バランスが崩れました。リュジアンを統合したサークレラに対する警戒心が高まり、ツガシエがウガリスを巻き込んで動きます。今回ジュリは距離が近すぎるため静観。アスターレンは我関せず……まだジル様の残した傷が影響しているのでしょう」


 現在動きがない人族の国は、海に面した3カ国だけだ。魔族側も、水の魔王だけが動いている形だった。以前と違い、世界の崩壊を食い止めるなどの大義名分がなければ、魔族が総結集して向かってくる心配はない。


「ふん、トルカーネのやり口は想像がつく。ねちっこい方法で来るぞ。オレがリアに執着していると知られた以上、ターゲットは彼女だ。全力で守れ」


 命じられた2人が承知したのを確かめ、眉を寄せた。少年の外見をした魔王は、他の魔王より年齢は上だ。おそらく魔王の中で一番の古参だろう。それゆえに外見で判断できない。他者の気持ちを弄び、ずたぼろになるまで甚振る手法が好みの変態だった。少なくともジルはそう思っている。


「海に来たのは間違ったか? いや、ずっと水辺を避けて暮らすなんてらしくないな」


 襲われる心配をしながら生きるくらいなら、敵を排除して好き勝手にやる。そんなジルの性格は他の側近も良く知っていた。それでも、今までと確実に違う点がある。


 以前のジルにはなかった。側近である3人も、足を引っ張るなら自ら死を選ぶタイプだ。ある意味、ルリアージェも同じタイプなのだが……だからこそ、ジルは懸念していた。

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