第44話 偽公爵家の旅行計画(3)
ルリアージェは香りを楽しんでから、美しい琥珀色の紅茶に口をつける。
「木苺のタルトがお勧めよ」
「さて、旅行の計画を立てようか」
ライラから受け取ったタルトを食べながら、ジルが広げた地図を引き寄せる。サークレラとリュジアンの国境が近い街にピンを立てた。ここが現在地だ。
「リュジアンに外遊する手はずを整えました。王族の代行ですから不自由なく過ごせるかと」
元サークレラ国王リシュアの発言に、反応がふたつに分かれた。明らかに落胆したルリアージェと、よくやったと褒める魔性組だ。王族の代理など面倒なだけと眉をひそめるルリアージェの様子に、ライラとジルが心配そうに覗き込む。
「少し扱いが丁寧になる程度よ」
「そうそう、別に外交とかしなくていいから」
不吉な予測を否定する2人の言葉に、気分が上向く。以前の宮廷仕えの面倒さを思い出したルリアージェにとって、外交は鬼門だった。やたら婉曲な言い回しで口説く王族、引き抜こうとする貴族、いきなり実力行使に出ようとして監禁未遂を起こした騎士……ルリアージェの過去は意外と物騒だ。
「本当か?」
「オレが嘘つくわけないだろ。リアの思うように観光していいぞ。もし面倒ごとが起きたら、リシュアとパウリーネを差し出せばいい」
雪や氷に閉ざされたリュジアンにとって、四季がある豊かなサークレラの領地は喉から手が出るほど欲しい。その王族と繋がりがある公爵家が外遊に来ると知れば、なんとか取り込もうとするだろう。縁談であったり、懐柔であったり。その手段を選ぶ余裕はない。
彼女の心配を理解するリシュアはにっこり笑って、言い切った。
「ご安心ください。外交ならば1000年近い実績があります。人族程度に遅れをとる私ではありません」
どうしてだろう。心強い発言で、信用できる相手のはずなのに……不安が広がっていく。ルリアージェは複雑そうな表情で「まかせる」と返すのがやっとだった。
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