第44話 偽公爵家の旅行計画(2)
リシュアは魅了の力で地位を用意し、ジルは服やアクセサリーを見繕ってくれた。パウリーネは着替えを手伝ってくれるし、ライラも髪を結ってくれるのだ。お茶の支度をするリオネルの眼差しは、楽しそうなジル達を優しく見守っていた。
何も不具合がない。不足もない。満ち足りた空間は居心地がよくて、素直に甘えてもいいのだと自分に言い聞かせた。幼い頃に魔力が発現したルリアージェは、親に甘えた記憶がない。家族ごっこであっても、血の繋がりがなくても、この関係は温かく感じた。
「ドレスはパウリーネ、髪飾りはライラ、アクセサリーはジルが選んでくれ。靴はリシュアに任せる。着替えたらリオネルのお茶を飲もう」
開き直ったルリアージェの言葉に、顔を見合わせた人外達は……すぐに頬を緩めて頷いた。
お茶請けを運んできた見覚えのない侍女を見送り、ルリアージェは首をかしげた。
パウリーネお勧めのロイヤルブルーの背が大きく開いたドレスを着て、ライラが用意した水色の羽根に真珠があしらわれた髪飾りで結い上げた銀髪を飾る。しゃらんと音を立てて髪飾りが揺れた。
胸元には驚くような大きさのサファイヤの首飾りが光り、耳に同色のピアスが品よく並ぶ。サファイアミンクの淡いグレーのショールをかけたルリアージェは元の美貌もあり、公爵夫人としての品格が溢れていた。
「今の侍女は…?」
「あたくしの配下なの。魔族に分類されるけれど、正確には精霊よ」
「……精霊とは、あの伝説の?」
神族とともに滅びたとされる精霊は、弱体化していた。神族から得られる霊力を糧に人型を保っていたが、彼らが滅びた後は半透明の存在となり、人の目に触れなくなったのだ。そのため、伝説上の生物と考えられていた。
魔術師ならば違う考えを持つ。魔術によって四大精霊に協力を呼びかけ、助力を得る。火を操り、水を生み出し、風を吹かせる。大地を鎮める力も、精霊が引き起こす現象として魔術の一環と考えるためだ。
「ジルがよく使役してるでしょう。本来はもっと力があれば人型を取れるわ。だからあたくしの眷属は半数が精霊で、残りが魔性なのよ」
精霊である侍女がお茶菓子を運んでくる。半年前の自分なら到底信じられないような光景を前に、ルリアージェは目を輝かせた。
「人型の精霊をはじめて見る! 話しはできるのか? あと、自我はどうなっている?」
興味津々のルリアージェへ、優雅に一礼した侍女が自ら答えた。
「自我はありますので、お話も可能です。基本的に人族と同じように振舞うことが出来ますので」
人族の中に紛れても分からない振る舞いが出来ると告げた侍女が下がると、リシュアが微笑んでお茶を勧める。最近は美味しいお茶に口が肥えてしまい、以前の茶葉が浮かんだ旅行用の紅茶を出されても満足できなくなってしまった。
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